プロローグ
下ろし立ての、真新しい制服に身を包んだ一人の女子社員が、旧病院地下室の非常階段の側に蹲っているのを、まだ誰も気づいてなかった。
「……どうしたのだろう。何かあったのか?」
仕事柄、気になってその娘に近づいた僕は、すぐにその理由が解った。
「これは……」
やはり 一瞬躊躇したが、皆が近づいて来るのを見て、もう考えてる暇はなかった。僕は側にあった汲み置きのバケツを見つけると、いきなりその娘の頭からぶっかけた。
「キャー!」と言う悲鳴が、地下の薄暗い階段に響き渡る。想像以上だった。
その一瞬の判断が正しかったのか間違いだったのかは解らないが、空のバケツを僕から奪い取った君は、全身びしょ濡れのまま立ち上がった。
何が起こったのかと小走りに近づいて来た看護師長。僕は思い切り怖い顔で問い詰められたが、皆がいる場で説明するのは、少々難しい問題なのだ。
睨みあったまま全員の視線にさらされても、憮然として黙り込んだままの薄汚れた作業員。皆から危ない男と思われたのは間違いないが、その後、看護師長に付き添われた君は、泣きながら無事に地下の階段を上って行った。
君と僕の出会いはこんな感じだった。今では良い思い出だけど、この秘密を知っているのは、僕たち二人だけだ……。




