総務課軍団1
夏が過ぎ秋も深まるにつれて、庭もすっかり様変わりしてきた。抜いても、抜いても、容赦なく伸びる雑草に追われながら、僕は相変わらず広い病院の最新設備と格闘していた。
それでも、最近は慣れて来た広い庭。その上に覆いかぶさる落ち葉軍団。見た目には癒されるし、とても綺麗だが、でも、ちょっと強い風が吹けば僕の一日の仕事を台無しにしてくれた。
その仕事に休息はなかったが、そんなある日、病院にちょっとした事件が持ち上がった。
この病院は従業員が多いせいか、人の入れ替わりがやたらと多い。特に中間層が育たないと、以前から問題視されていた。口コミをみても「何々は教えてくれる? うん、それはちゃんと教えてくれる。結構親切だし、とりあえず看護学校出たての新人が慣れるのには良いかも。。。」
そんな会話が多かった。典型的な、はしご病院。一生いたいとは思わないが、最初に看護師としてのキャリアを積むには良い。そんな位置づけの病院であった。
ある時、何処の部署の定着率が一番悪いのか、外部監査が入り統計を出す事になった。嫌な予感がしたが、なんと院内でもメインの部署である夏華のいる総務課が、ダントツで不名誉なナンバーワンになってしまった。
もしかしたら苛めが有るのではないか? と調査がはいったが、結局真相は分からずじまい。でも、その部署の責任者が交代される事態になり、一時院内に不穏な空気が流れた。
その時たまたまトップにいた人はとても穏やかな人。苛めなどする人ではないのだが、組織と言うものは、一度動き出すと結論を求めるものらしい。一人責任を負わされる形で移動させられてしまった。
部下が辞めるのも自分の責任になるとは、上に立つ人は大変だなと誰しも思ったが、その後も相変わらず総務課は辞める人が多く、根本原因は分からないままだった。
皆、影ではいろんな話をするが、組織の中では自分の身を守る事が優先する。なんの徳にもならない事で、上司に意見する人は皆無だったのも 仕方のない事だ。
総務課は数ある部署の中でも一番雑多な仕事が多い。何処の部署で処理するか曖昧なものは全部総務に廻って来ていた。夏華は受付業務担当だが、総務の部署内に担当デスクが有る関係で、その一部分として職務が組まれていた。
来院した患者と最初に接する受付は、退院の時も最後にお見送りする所でもある。
元気で溌剌とした笑顔が一番大切な部署であるのは解るが、何故かフロアーで起きた事や、見舞い客の苦情処理も、すべて受付に回されてしまう事が多かった。
「ねえ、聞いて! こんな事まで受付に回されてしまうのよ」と、夏華はよく僕に愚痴を言っていた。
何処から何処までが自分の担当なのかが、かなり曖昧になっている為、一生懸命仕事をすればする程、やたら責任ばかり増えてしまう。その為、面倒な仕事は逃げ腰になる雰囲気が、常に皆にあった。
役割分担が明確でないと言う事は、何か問題が起こっても処置の流れが一貫しないと言う事である。同じような苦情処理でも、その時担当する人間の能力や性格で、処理の仕方が全部変わってしまう。
その為、その時はうまく処理できても、担当者が変われば又最初からとなり、過去の経験が生かされない。そうゆうジレンマが続いていた。
「苦情処理マニュアル、やっぱり必要ね。こんな大きな病院なのに、ないのがおかしいのよ」
中堅社員達も仲間内で集まればそう言うが、いざ作るとなると皆腰が引けた。普段の仕事をこなしながらのマニュアル作りは、かなり難しい。即残業につながるのが解っているので、結局、一向に改善される事はなく、皆、陰で愚痴をこぼしあっているだけなのを、僕は聞いて知っていた。
自分の部署ではないので意見を言う事はなかったが、これがまさか、その後の仕事で、そして僕の私生活にまで、大きな影響を及ぼして来る事になるとは……。その時は考えもしなかった。




