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かわいい生意気女 しかたがないので側にあったバケツの水をぶっかけてしまいました。  作者: 古門まさごろう
1章 新入社員

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二年目の君7

いつも以上に暑かった今年の逗子の浜。でも、海岸に生い茂る夏草が立ち枯れる程の暑さは、まだ続いていた。だがそれも夏の終わりを告げる油蝉の合唱が途切れ始める頃には、やっと落ち着きを取り戻して来る。


 日本でも有数な観光地に住んでいるので仕方がないが、逗子の夜は何時までも熱い。若者達の花火の音や、笑い声。あまり静かとは言えない海岸通りも、だんだん秋の気配が忍びよって来た。


 夏華とのデートは楽しかったが、デートは家でしろとの親父さんの厳命で、すっかり下北沢は第二のふるさとになっていた。


 いつも親父の目が光っている父兄参観デートも、慣れれば何とかなるものだ。そのうちに親父のいる居間ではなく、夏華の部屋でのデートも許してくれる様になったし、少しくらい帰宅が遅れても文句を言わなくなった。


 考えれば、家でのデートしか認めないなんて今どき異常だが、あの親父さんの性格を考えると、最近は大した進歩だった。


 いくら夜八時が門限とはいえ、今年は殆ど夏華と過ごしている。普通の健全な若者だったら、それなりに男女の仲が進んでしまうのは当然だし、本当はその期待もあったが、なかなか世の中思う様にはいかないものだ。僕は何時も、きっちり夜八時までには夏華を家に送り届けていた。


 そんなある日、病院の玄関前で小さな事故が起こった。病院が新設された事で新たに増えた道路標識にタクシーがぶつかり、あたり一面にばらまかれたガラスの破片で女性が足を切ってしまった様だ。


 それだけだと普通の交通事故だが、被害者が診察を終えたばかりの妊婦で、お見送り直後の事故だった為、すぐに「どうしたら良い?」と夏華から連絡が入った。


「……周りは医師や看護師だらけなのに、なんで俺に電話が入るのか? 俺の仕事は配水溝の掃除やボイラーの点検。庭木の剪定に庭の掃除。およそ医療には関係ない。ケガをしているのならまず医者だろう。頼られすぎるのも困ったものだ」と思ったが夏華からの内線なら仕方がない。僕は急いで、フロント前で起きたらしい事故現場に向かった。


 病院正面玄関前で起きた事故は道路上での事なので、連絡するべきは警察だ。でも、怪我をしている事もあり、至急外来に内線をして急いで先生に見てもらう様に伝えた。


 事故そのものはタクシー会社の人が来て対応してくれたし、それ以上、病院はタッチしなかった。だが「病院の建て方が悪い。その為、新設された標識に気づかなかった」と受付で散々文句を言われたみたいで、「どうして私が怒られるの? 怖かったのよ」と、夏華は半ベソをかいていた。


 僕はその夜、久しぶりに夏華を外のデートに誘った。デートコースは、前から行きたかったと言う明治神宮外苑通り。その日は涼しくて、久しぶりに手を繋いで歩いた。デートは自宅で、だったな……。僕は恐い夏華の親父との約束を思い出していたが、夏華の楽しそうな顔を見ると何時の間にか忘れてしまっていた。


 明治神宮外苑通りは都内でも有数の黄葉スポット。三百メーター余り続く大通りの両側には、百四十六本もの銀杏並木が立ち並んでいた。そこから暫く通りを歩くと、木造と赤レンガのレトロな建物が見えて来る。その屋根の上に、ちょこんと乗っかる丸い時計。大正時代の雰囲気がまだ残る小さな原宿駅が見えてきた。


 そのすぐ隣にあるのが原宿通り。一直線の細い道路の両端に祭りの出店の様な小さなお店が、通りの向こうまで、ぎっしりと並んでいる。


 もう沢山の若者たちで賑わっていたが、まだ暖かいのに、どのお店の展示も冬物商品に切り替わっている。これから来る季節を感じさせたが、久々の二人きりのデートが新鮮で、僕達は狭い通りを息を弾ませながら歩いた。



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