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かわいい生意気女 しかたがないので側にあったバケツの水をぶっかけてしまいました。  作者: 古門まさごろう
1章 新入社員

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10/26

二年目の君1

挿絵(By みてみん)

 そんな感じで、正月は何事もなく過ぎ去り、冬も峠を越えて待望の春が又やって来た。

 春と言っても浜はまだ寒い。普通なら海に入るなんてとんでもないと言われそうな気温である。

 でも、湘南は冬ならではのサーフスポットが数多くあって、混む夏場よりも、空いている冬場の方が地元のサーファーには人気があった。


 いい波が来るスポットは、もうサーファーでいっぱい。海の家がない浜は、どこまでも広く快適。まだ、ごみも落ちていないサラサラの砂浜は、澄み切った青い空と一体になって本当に気持ちが良かった。


 一年の内で海に入らないのは一月、二月位。三月にもなれば厚い防寒用のウエットスーツを着て、出勤前の一時間は毎朝海に出るのが習慣になっていた。


 風が良い時はついつい夢中になって、もう少し、もう少しと、遅刻しそうになる事が良くある。そうゆう日はテンションが上がり、不思議に女子共にも愛想が良くなった。

 

 そう言えば、以前は挨拶しても良く無視されたが、最近は何故か皆の愛想が良くなって来た。何故だろう? 僕は不思議でならなかった。


 君は、もう入社して二年目になるが、病院でも重要なメンバーになりつつあるのは、見ていても解った。


 入社したての頃はあんなに無愛想だったのに、一緒に仕事をし成り行き行きとは言え海にも行った。でも下北沢の自宅まで君を送り、暴力親父に殴られて以来殆ど何も喋っていない。


 院内で時折見かける君と偶に目が合う事もあったが、「……へぇー!こいつ、こんな表情してたかな」と見直すほど、時だけは経って行った。


 ずいぶん気温も春らしくなり、病院名物の垂れ桜も満開。今年入社の社員の顔も見分けられる様になって来た頃、今年もまた恒例の消防避難訓練の日が近づいて来た。


 でもその頃になると 、せっかく皆が忘れている新入社員水ぶっかけ問題が、又息を吹き返して来る。


 彼方此方で、あいつは何故新入社員にバケツの水をぶっかけたのか? と、まるで昨日の事の様に囁かれはじめる。


 野蛮だとか、下品だとか、何とか云々。色んな事が噂され始めたが、相変わらず当の本人はなんの言い訳もせず無反応。そして、ぶっかけられた方も気にしている様には見えず、ニコニコしているのだから皆不思議がった。


 今年の消防避難訓練は何事もなく無事に終わり、春はあっという間に過ぎて夏が来た。

 僕は、休みの日は朝から晩まで海に出ている。それ以外の趣味はないので、いつもジーンズにTシャツ。今風の洒落た服など持ってないので、おしゃれなどした事がない。


 会社に出れば庭の雑草取りや掃除ばかり。昇進意欲もないので、他の人から見たら「あの人何を考えているのだろう」とか、「将来の事とか少しは考えているのだろうか」とか言われそうな、怠惰な毎日を送っていた。


 逃げと言われればそうかも知れない。だが、海に出ている時だけは何もかも忘れる事が出来たし、大きな借金や、自分の将来の事とかも考えないで済んだ。


「……もう過去ばかり見ないで、もう少し前向きに生きなさい」


 そんな心の声が聞こえてくる事もあったが、現実は、次のステップなるものに、どうしても踏み出せない。毎日同じ事の繰り返しで、君との事も殆ど思い出す事もなくなっていった。

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