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好きなだけ翻訳していいと言われて後妻になりましたが、年上伯爵様に甘やかされすぎています!  作者: 有梨束


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第11話 急接近

ルイーゼ様がお帰りになって、シリル様が帰ってきてからというものの、家の中の空気がギクシャクしている。


私だけがおかしいのではない。

なぜかマーサをはじめとした使用人の皆さんの、空気が冷たい。

これは、もしかしなくても、私が泣いたからじゃない…?


マーサには、ガッツリ見られていたもんね!?

それが、使用人全員に伝達されちゃったんじゃない!?

名家の使用人は、仕事が早くて素晴らしいな…!?


「あー、メリンダさん、ルイーゼはどうでした?迷惑をおかけしませんでしたか?」

夕食を食べながら、フェルナンド様がこちらに話しかけてくれる。


フェルナンド様から話しかけてくれるって、この空気、そんなに耐えられないくらいまずいですか…?


「迷惑だなんて、むしろ私の方がお手数おかけしてしまいました」

「奥様は、何も悪うございません!」

マーサが口を挟むなり、シリル様を怖い顔で睨んだ。


いやいやいやっ、シリル様も別に悪くないからね…!?


「ルイーゼ様と友達になれたんです、素敵な機会をありがとうございました」

なんとか空気を変えようと、とびきり明るい声で返した。


「そうですか、ルイーゼと友達に…。メリンダさん、ありがとうございます」

「いえいえ」

「ルイーゼ、喜んでいたでしょうね」

フェルナンド様は、いつもはあまり変わらない表情を緩めた。


フェルナンド様も、ルイーゼ様を想っていらっしゃるのね…。

自分のことじゃないのに、あったかい気持ちがしてくる。

人を好きになるって、あったかいんだなぁ。

私のこれも、いつかあったかいなあ、って思えるのかな。


そんなことを思いながら、フェルナンド様の横顔を見ていた。


すると、シリル様が食事を終わらせて、立ち上がった。


「私は先に失礼するよ、2人ともゆっくり食事しておくれ」

「え…、まだ残っていますけど、具合でも悪いですか?」

「はは、そんなことないよ。ではね」

そう言って、ダイニングルームを出ていく背中を見送った。


なんか、悲しそうな顔をしていたのは気のせい…?

でも、今の私が話しかけても、逆に心配させてしまいそうだしな。

あー、ダメだ、気になる!


「すみません、私も失礼してもよろしいでしょうか?」

「え、ええ、構いませんが」

「ありがとうございます、お先に失礼します!フェルナンド様、おやすみなさいませ!」

「はい…、おやすみなさい」

ポカンとしていたフェルナンド様に見送られて、私もダイニングルームを出た。

マーサたちは、ガッツポーズしていた気がする。


それを気にしていられないほど、私には余裕がなくて、はしたないけど廊下を走った。


どうして今日は笑っていながら、笑っていなかったんですか?

シリル様、何かあったんですか?


私は、ありました。

あなたへの恋心を認めてしまったんです。

とてつもなく大きい恐怖のようなものと、ほんの少しだけ照らしている一筋の光みたいなものを感じています。

私はこれを持っていていいのかも、本当はよくわかりません。

ルイーゼ様が持っていていいと言ってくれて、私、目の前が明るくなるようでした。

でも、貴方に嫌がられるぐらいなら、今すぐにでも捨ててなかったことにしたいと思う自分もいるんです。


それくらい、シリル様と一緒にいられることの方が大事なんです!


「シリル様っ…!」

もう少しで、シリル様の自室というところで、呼び止めることができた。


シリル様はゆっくり振り返って、立ち止まった。


「メリンダ、どうしたんだい?」

「あの、シリル様…」

「ははは、なんだい、そんなに急いで。何か用だったかな?」

「私、この前はごめんなさい!」

シリル様のところまで追いついて、私は頭を下げた。


そうだ、私自分のことばっかりで謝ってもいなかった。

シリル様は悪くないんです。

ただ、私が自覚してしまっただけで、シリル様にあんな顔をさせたかったわけじゃないんです…!


「この前って、何かあっただろうか」

「その、私の部屋で、頭を撫でてくれそうだったのに、私、避けてしまって…」

「なんだ、そんなことを気にしていたのかい?あれは、私が悪かったんだよ。勝手に触ったりするのはよくなかった」

「…嫌じゃなかったんです!」

「…メリンダ?」

「嫌じゃなかった、本当は撫でて欲しかった!…でも、私が変に意識しちゃったから」


ずっと嬉しかった。

頭を撫でてくれるたびに、私はシリル様にとって、それだけの距離にいていい人物だと思われているんだって、嬉しかった…!


子どもの頃、死んでしまった母と、王都にいて会えない父に撫でて欲しかった気持ちを、今の私ごと優しく撫でてくれるのは、シリル様だけだった。

頭を撫でてもらうだけじゃ足りないって思っちゃったから。

それでいて、撫でてもらいたいのに恥ずかしくなっちゃったから。

自分で、この気持ちを制御できなくなっちゃったから、シリル様から逃げたくなった。

私って、弱虫だったんだ…。


「…シリル様にされて嫌なことなんて、今まで一個もない」

子どもが駄々を捏ねるような言い方になってしまって、自分で情けなくなる。


…これは、シリル様に子ども扱いされてもしょうがない。


俯くと目線も落ちて、その先にシリル様の手が映った。


この手に、触れてほしい。


私はゆっくり手を伸ばして、シリル様の左手の人差し指を摘んだ。

シリル様が、一瞬だけビクッとしたけれど、払い除けられなかった。

私はそれをいいことに、両手でその手を包んだ。

それから、そのまま自分の頭の上に置いた。


「メリンダ…?」

「いつもみたいに、撫でてくれませんか…?」

顔を上げて、シリル様を見た。

その瞳は戸惑いと驚きで満ちていて、目が合った。


…いつぶりだろう、私の方を見てくれるのは。


シリル様の目は次第に柔らかくなって、細められた。

なんだか肩の力が抜けたように見えた。


「嫌じゃなかったのかい?」

「嫌なわけないです…、もっと撫でて欲しかったです…」

「ふふふ、それは知らなかったなぁ」

柔らかいひだまりの声が降ってきて、前よりもぎこちなく髪を撫でられた。


固くなっていた空気がはらはらと解けて、鼻の奥がツーンとする。


もう1回、触ってもらえた…。


シリル様の手があったかくて、もっと触れてくれたらいいのに、と今やっと戻ってきたばかりなのに、それ以上が欲しくなる。

…欲張りだ、私。


「…もう二度と撫でてもらえないと思いました」

「奥さんがそんなにガッカリしていたとは、気づかなくて悪かったねぇ」

困ったように笑いながら、シリル様の手が何度も頭の上を行ったり来たりする。


久しぶりに、シリル様がこんなに近くにいる。

それだけでこんなに気持ちがふわふわするなんて、知らなかった。


…翻訳さえできれば、私幸せだと思っていた。

それでも本当に幸せで、満たされて、高揚してきた。

それは、今だって変わらない。

十分だったから、それ以上欲しいなんて思ったことなかった。


だけど、幸せの種類がこんなにあることを、私は知らなかったんだなぁ。


シリル様の隣にいること。

私の名前を呼んでくれること。

笑いかけてくれること。

頭を撫でてくれるくらい心を許してくれること、心を許せていること。


うれしいなぁ、好きだなぁ。


そう思うと、今すぐにでもシリル様に抱きつきたい衝動に駆られて、そんな自分にびっくりする。


…今、それをやったら、さすがに痴女すぎる…!

絶対に困らせる!

シリル様をまた困惑させて、離れられる方が無理だ。

落ち着け、落ち着くのよメリンダ。

私には、この距離が大事なんだから。


この気持ちは、秘めておく。

シリル様を好きな気持ちは、ここにあってもいいことにしよう。

それで、無理やり消そうとするのはやめよう。

今は誰かを好きになれるということが、私には嬉しく思えてきた。


そういえば、私誰かを好きになるって、はじめてかもしれない。


えへへ、と顔が緩んでいく。

それを見たシリル様の手が、ピタッと止まった。


「シリル様…?」

「うーん、そんな可愛い顔で笑われると困ってしまうなぁ」


その『可愛い』が、子ども扱いで、胸の奥がモヤッとして、ぐちゃっとなる。


ここでムスッとしたら、変に思われるから、頑張って口元を結んだ。


シリル様は、私の頭をポンポン叩くと、今まで言ったことのないことを言った。



「メリンダ、よかったら私の部屋に来ないかい?」


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