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幕引きをする者


「さて………………敗者は勝者の言う事を聞くっていうのは、どんな時代でも通用する鉄則だと思ってるんだけど、知ってることを教えてもらってもいいかしら?」


 目の前で倒れたまま動かないアサギ・クサマツの姿を見て、優が一段落した事を示すよう息を吐きそう尋ねてみるが、正直なところ反応は芳しくない。

 気軽な調子で投げかけた優の言葉に対する返事はなく、代わりに返されたのは瞳の端から垂れ流される涙であった。


「ちょ、ちょっとアンタ! いきなりどうしたの!? もしかして喋れないくらい痛いの!?」

「違う。違うの………………」


 その姿が先ほどまでの狂気に呑まれた姿とはあまりにも違い優が慌てて声をかけるが、彼女は首を左右に動かしながら否定し、


「これで………………私の望んでいた夢の生活が終わっちゃうかと思うと………………悲しくって。短かったなぁわたしの青春」

「………………一応確認しておくけどさ、それってクソ迷惑な戦闘行為のこと?」

「うん」


 瓦礫の山の中に体を沈めたままされた返事を耳にし、思わず力が抜けた。

 まさかそんな幼稚な事で涙を流されるなど、思ってもみなかったゆえに。


「でも調子乗れるのは今のうちよ。私達は必ず貴方達に一泡吹かせる。そのための伏兵だって潜ませてるんだからね」

「え?」


 とはいえだ。そんな優でも聞き捨てならない事をアサギ・クサマツは告げ、事の真偽を見極めるために優は口を開き、


『こちらラスタリア『神の居城』。報告させてもらう。想定していた伏兵が現れた」


 そのタイミングでアサギ・クサマツの言葉が正しいものであったことを示す通信が戦場に出ていた四人の耳に届いた。




「数は?」

「……およそ1万人だ。突如ラスタリア正門から五キロ近く離れた地点に現れたがどうする?」


 時間は僅かに遡って蒼野やゼオスが待機している『神の居城』に移るのだが、モニター越しに移った大軍は本当に突然のもの。

 『瞬きを一度している最中に現れた』などといっても過言ではないもので、十年間この星を守り続けた蒼野も初めて見る光景であった。


「…………俺が行こう。それが一番いいはずだ」

「………………正直なところ他の手段を選びたいんだがな」


 これらの進軍を止めるため口火を切ったのは蒼野の横に控えていたゼオスであったのだが、正直なところあまり気ノリしない案であった。


 それは彼らが既に聖野から敵方の目的がこちらの戦力を把握する事にある事を知っていたからで、できる事なら懐刀であるゼオスに関する事細かな情報は何も知られたくないというのが本音であったのだ。


「…………ならどうする。こういう場合に最も利用できるエヴァ・フォーネスの力は使えんぞ」

「問題はそこだよなぁ」


 迫ってくる大軍の暴力に対する対応策であるが、最適解を挙げるならば実に簡単。

 エヴァによる他惑星に存在する魔物の使役である。


「もうちょっとかわいい見た目だったらなぁ」

「失敬な。カワイイじゃないか」


 ただ蒼野は彼らの見た目が一般人受けが悪いことを把握しており、人々を無闇に怯えさせないためにもその力を使う場合は人の目が少ない場所に限っていたのだが、今回に限ってはその辺りがマズイ。


 ラスタリアから大軍までの距離はおよそ五キロ。

 魔物らが派手に暴れた場合、最悪見つかってしまうくらいの距離しかなく、市民を脅かしたくないと考えている蒼野はこの手を使えずにいた。


 となると次善の策は、シュバルツを前線に立たせることができない以上、ゼオスが赴き一騎当千の活躍を見せる事になるわけだが、


「ここは一つ、私に任せてくれないかな」

「シュバルツさん?」

「一応言っておくが、お前が最前線に出るってのは無しだぞ」


 このタイミングで挙手をしたのは表立って暴れる事ができない立場であるシュバルツで、隣で退屈そうに浮かんでいたエヴァがそう告げると、了承したように彼は頷く。


「何かいい案があるんですか?」


 とすると蒼野が先を促すよう言葉を紡ぎ、


「一つ試してみたいことがあってね。やらせてもらえないかね」

「試したいこと?」

「ああ。実はだな―――――――」


 シュバルツは告げるのだ。自身が考えた最善の策を。




「…………上手くいくといいな」

「ホントにな。あ、ちなみにエヴァさん。さっき言ってた事に関して練習してた様子とかはあったんですか」

「知らんが、アイツはできない事は言いださん。安心して見てればいいだろう」


 数分後、蒼野らの見ているモニターの先にシュバルツは居た。

 彼が今いる場所は『神の居城』の屋上で、愛用の神器こそ握られていないが背後には四本の腕を備えた青い鬼神。すなわちシュバルツ・シャークスが作り出した練気の塊が鎮座していた。


「頼むぞ~。この大一番で失敗なんてできないからな~」


 会議室から注がれる視線の数々を感じながらシュバルツがそう告げると、鬼神の姿が霧散していき透明な気合となってシュバルツの右腕へと移動。

 頭上へと掲げる過程で徐々に徐々に大きくなっていき、振り下ろすと同時に行うのだ。


「ぬん!」


 多くの戦場で『果て越え』ガーディア・ガルフが行ってきた妙技。


 数えきれないほど存在する対戦者の中から、戦うに値する者を選別するために行う儀式。


 すなわち――――――練気による相手の内部、言い換えれば意気への直接攻撃。

 強烈な殺意と敵意を相手に叩きつける事で起きる、意識を刈り取る一手である。


「な!?」

「こ、呼吸が………………でき!?」

「や、やめろ! やめてくれぇ! その刃を振り下ろさないっ………………っ!」


 これにより起きた事態は千差万別。


 ある者は何か考えるよりも先に脳が揺さぶられ意識を失い、

 ある者は呼吸困難な状況に陥り、喉を抑えながら意識を失った。

 またある者は想像力豊かであったことが原因で巨大な刃に真っ二つにされる光景を思い浮かべ意識を手放した。


「い、今のはぁ………………!」


 これを受けてなお意識を残していたのはこの大軍を率いていたロッセニム覇者の一角で、


「…………すごいな。これは」

「!」


 その最後の一人も、シュバルツが『果て越え』の座と同じことを行った光景を見届けた後、すぐ側に移動してきたゼオスの不意打ちを受け、意識を失った。


 こうして潜んでいた伏兵は、何かするよりも早く全滅した。

 



「了解。問題にならなくてよかったわ」


 これらの事態は優が決着をつける数分前に起きていたことで、事の顛末を聞き終えた彼女が気軽な様子で応対。その際に見せた微笑みを目にして両目を眼帯で隠していたアサギ・クサマツが訝しげな顔をするが、事情を説明したところで、先ほど以上の涙を流し始めた。


「ふふ、滑稽ね。ええ滑稽。凄く滑稽よ。一から十までうまくいかなくて………………泣きたい気持ち」

「いやもう泣いてるじゃない」


 絶え間なく涙を流す彼女に突っ込みを入れる優であるが、実のところ中々に困る状況であった。

 それは途方に暮れる彼女が優の望む情報を話してくれるようには思えないからで、手間のかかる事ではあるが連れて帰り記憶を読むしかないと考えはじめ、


「どうしたのシュバルツさん………………うん。うん………………なるほど。掛け合ってみるわ」


 そのタイミングで此度の件における最大の功労者が優へと連絡。

 投げかけられた提案を聞いた優が動く様子のないアサギ・クサマツの側に近寄り、


「提案なんだけどさ、そんなに戦いたいのならこっちに鞍替えしない?」

「くら、がえ?」

「実はこっちにもアンタみたいなバトルジャンキーが居てね。『そんなに戦いたいなら自分が相手してやる』って立候補をしてくれたのよ。どうかしら?」

「………………それはどなた?」

「多分既に知ってると思うから正直に言うけど、千年前に大暴れした剣帝さま………………」

「鞍替えする! 欲しい情報を話してあげる!」

「早っ!?」


 そう提案。

 最後まで話しきるよりも早く力強い返事が返され、優の口から思ったままの言葉が噴き出し、しかしすぐに気を取り直すと口を開く。


「えーと、じゃあまず聞きたいことはね」

『そういえばちょっと気になってたんだが、報告を聞くに結構苦戦したようじゃないか。そんなに厄介な相手だったのかい?』

「ええ。未来予知の使い手でね。一手先を読まれてる感じが辛くって結構本気になってたの」


 その途中でシュバルツから連絡が入り意識をそちらに。自身が苦戦した原因を説明しながら苦笑する優だが、


『未来予知に手こずるとはおかしなことを言うじゃないか』

「どゆこと?」

『いやだって、対象を取る類の能力が相手なら、持ってる神器を体にへばりつけておけば済む問題じゃないか」

「………………………………………………」

 

 シュバルツが追及した内容を聞き言葉を失った。

 これはあまりにも簡単。しかし絶大な効果が期待できる戦術を取り忘れた自分を恥じたゆえで、


『優君?』

「すいません。一度電話切りますね!」

 

 何も言い返す事が出来なかった彼女は、僅かに顔を赤くしながら話を無理やり切るよう電話を切る。 

 直後に優は意識を今しがた鞍替えしたアサギ・クサマツのの方へと切り替え――――――――――瞬間、音が響いた。


 何か重いものが落下してきた音が


 肉の塊を射抜く音を響かせ


 くぐもった声が一瞬だけ聞こえたと思えば掻き消えた。


「………………………………アンタは」

「怖い顔で見ないでくださいよ尾羽優。この年で漏らしたくないですよ」


 直後に振り返った優が目にしたのは、首より下の至るところを巨大な氷柱で射抜かれ絶命したアサギ・クサマツの姿。


 そしてそんな彼女の死体の側に降り立った、新時代における『最悪』であった。 





ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


久しぶりの更新。結構長くなりましたが如何でしょうか。

これからもまた頑張っていきたいと思ってるので、次回からもお付き合いいただければ幸いです。


それではまた次回、ぜひご覧ください!



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