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新時代の悪と彼女の謎


 イグドラシルが神の座を務めていた千年と比較し、蒼野に代替わりし著しく良くなったと断言できる事柄がある。

 惑星『ウルアーデ』全体の治安である。


 四大勢力が協力体制を築き上げる事に成功した事。

 イグドラシルが行っていた不和を起こすような環境を改めた事。

 『三凶』と『十怪』と呼ばれる凶悪犯罪者を軒並み退けた事。

 それに、両手をあげて素直に喜ぶことはできないが、ガーディア・ガルフが対立していた頃に行っていた表には出ない悪人たちの取り締まった事。


 そのような要素が重なった結果、イグドラシル落命の時点で危険因子の大半が消え去っていた。


 そしてそんな好条件が重なった状態からスタートした蒼野が統治する世界は、本人が平和主義気質かつ『争いのない世界』を目指していることから四大勢力全てが協力した警備体制を制作。

 加えて未だ残っている勢力間や種族間の禍根の除去にも取り組んでおり、毎日の犯罪件数はイグドラシル統治下と比較した場合、百分の一にまで減っていおり、凶悪犯罪の件数も極少数に減っていた。

 無論『ウルアーデ』は全ての人間が粒子を使える戦人の星であるため、予期せぬ事故が起こる事もあったが、それ等に対しても完璧に対処できていたと言っていいだろう。


斑魏まだらぎメルミ………………!」


 とはいえ『凶悪犯罪者が一人も存在していないのか』と言われれば否である。


 何事にも例外というものは存在し、優の目の前にいる人物。

 こと切れたアサギ・クサマツの側に近寄っていき、彼女自慢の赤髪をなんの感慨もなく踏みつぶす『蒐集家』斑魏イルミこそ、その最たる人物である。


「だからそんな顔で見ないでくださいって。言う事を聞いてくださらないのなら殺しますよ」


 真っ赤なシャツと真っ白nチノパンを包み込むように金の装飾が目立つ黒いコートを着た彼は、真っ黒なシルクハットの奥にある糸目を弧の形にしながらそう告げるのだが、言葉こそ丁寧なものの奥に潜んでいる感情がロクでもないものであることは全身から漂う雰囲気から察せられる。


「…………なんで殺したのかしら。察するに味方のようだけど?」

「愚問ですねぇ。目の前で寝返られて情報を奪われる可能性が出てきた。そうなれば最悪の事態を避けるために口封じするのは当然の事ではありませんか?」


 そんな彼の言葉を無視して優が『彼女の味方である』という部分に関しては推測を含んだ問いかけをなげ、彼はその点に関して否定することなく当然のように返答。

 そその直後に彼は、その異名の所以となっている行為に乗り出した。


「少し失礼。レアものなのでね。回収させていただきますよ」

「…………なるほどね。いろんな奴が神器を持ってる事に関して不思議だったんだけど、アンタが絡んでたわけね」


 こと切れ動かないアサギ・クサマツの顔の前でしゃがんだ彼は、丁寧な所作で彼女の両眼を隠していた眼帯を取っていくと、慣れた手つきで瞳孔が開き切った彼女の眼球に触れ、何らかの呪文を唱えた直後に掌を自身の顔の前へ。

 するとそこには彼女の目に嵌められていた神器『アムリタの目』が握られており、彼はそれを懐に付けていた革袋の中に入れていくのだが、これら一連の流れ。


 すなわち自分の気に入った物を相手を殺してでも奪い取るこれこそが、彼が『蒐集家』と呼ばれるゆえんである。


「ま、詳しい事はラスタリアに戻ってから聞くとしましょう。同行をお願いできるかしら?」

「いやいや。ついていくわけがないじゃないですか。何を言っているんですか貴女は」


 それら一連の行為を黙って見ていた優は、全てが終わったところでため息を吐きながらそう宣言。斑魏メルミは当然断るのだが、そんなこと関係ない。


「言い方が悪かったかしら? これ、命令よ」


 あらゆる能力を無効化する力を持った青い鳥を肩に乗せ、身の丈を超える大鎌を作り出しながらそう告げるのだが、そこに籠っている感情は『絶対に逃がすつもりはない』という強い意志で、真っ黒なシルクハットで顔を隠しながら斑魏メリミはため息を吐き、


「やれやれ困ったものですね。今回は希少な物品の回収作業のために訪れたというのに。そんな風に見つめられちゃ、僕としてもやるしかないじゃないですか」


 纏う空気を変化。

 触れたものに怖気を奔らせる邪悪で危険なものに変化させると、右腕を隠しているコートの袖をまくり始め、


「………………と、いうわけにもいきませんか。退却命令が出ましたので今回は全力で退きます」


 その途中で腕が止まる。

 次いで踵を返しながらそう告げ、優が『逃がすつもりはない』と言った旨の言葉を発しようと口を開く。


「よくよく考えてみれば、貴女は今代の『運び手』でしたね。となると万が一の事があっても困りますし、大人しく退きますよ」

「………………………………『運び手』?」


 はずだったのだが、発せられる言葉が変わる。

 聞き覚えのない単語が彼女の耳に届いたゆえに。


「いえ気にしないでください。知る必要のない事ですから」


 振り返った彼は口元を抑えながら嘲笑が混じった声で語り始め、


「記憶を定期的に失う貴女が、どこから来てどこに向かうかなんて、知る必要はないんですよ」

「!!!!?」


 告げるのだ。


 尾羽優という存在が決して看過することのできない事情を自分は知っているのだと。


 とすれば優が彼を捕獲する目的に大きな理由が増え、彼我の距離を瞬く間にゼロにする。


「っ!!」

「ハハッ。そんな貴女に都合よく話が進むわけがないじゃないですか!」


 が、とどかない。

 彼と彼女の間に別の影が割り込み、冷静さを欠いていた優を文字通り一蹴。

 距離が離れたタイミングで二者は真逆の方角へと跳び跳ね、


『こちら蒼野。そっちの戦況はどうなった。報告を頼む』

「………………………………こちら優。全て終わったわ。問題、なくね」


 直後に発せられた蒼野からの通信にそう答える事で、此度の襲撃は終わりを迎えた。


(問題なくなんて言ったけど正直どうしようかしら。この件に関しては報告すべきなの?)


 当然その内心は戦いが終わったのならば訪れるはずの平穏なものからかけ離れたもので、ラスタリアの内部に入った状況でも周りをしっかりとは把握できない状態が続いていた。


「お、尾羽優様!?」

「ほ、本物ですわ! あ、あのサインをもらってもよろしいですか?」


 そんな彼女の前に現れたのはラスタリアを観光中であったエラッタ・リードと狗椛ユイの二人で、彼女らに話しかけられたことで頭が正常に働きだし周囲を観察。


「……いいわよ。色紙は持ってるの?」

「ラスタリアでは有名な方々に会える可能性が高いと思っていたの持ってきております。どうぞ!」


 先程まで怒っていた争いの爪痕など何も残ってない事を確認し終えると、微笑みを浮かべながら二人の要望に応え、それから気になったことについて尋ねる。


「ラスタリア観光は楽しい?」

「はい! とても!」

「何度も来たことがあるんですが、いつも楽しく過ごさせていただいておりますわ!」


 すると間髪入れずそのように返答され、それを聞き優は心を改める。


「そう。よかったわ」


 決して見過ごせない問題が提示された。これは間違いない。


 しかし今は、その問題を置いておこう。


 シェンジェンの友人を含む多くの人々に危険を及ぼすことなく問題を解決できた。


 この場はそれで良しとしよう、と。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


ラスタリア襲撃編これにて終結!


久々に出てきた少年時代編を彩っていたキャラクター達の活躍

これまでは見られなかった味方をあっさりと殺す嫌な敵の出現

そして最初期から語られていた優の秘密に関わる人物の登場


振り返ってみると色々な事があった物語でした。


いろいろ気になる事が増えたかと思いますが、詳しい事はずっと後。

彼らが本格的に活躍する六章直前まで持ち越しです。


次回からはこれまでと同じシェンジェン陣営の旅行記録。

長く続くシリアスかつ過酷な戦いの前にある日常を見ていきましょう。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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