ブルー・ブルー・アクアスカイ
先に結論から述べると、優が得た神器『ブルー・ブルー・アクアスカイ』は水属性粒子の使い手ならば誰が手にしても当たりの部類。優が手にした場合に限り大当たりに変化する神器であった。
この神器は『担い手の持つ水属性粒子を集め、空飛ぶ鳥の形にして使役する』というものなのだが、水属性の集合体であるためあらゆる物理攻撃を無効化する特性を秘めている。
主な使い方は、空を飛ぶこの鳥の視覚を共有する事による斥候役なのだが、この神器の真価は担い手が使う技の一部をこの鳥に貸し与えることができる点である。
「と、捉えきれない!」
「そこぉ!」
「っ!?」
その点に着目した優は、物理攻撃を全て無効化するこの神器に自身の持つ紋章展開の一部を付与。
空中は勿論の事、地上や敵の背後などあらゆる場所に自身にとって有利な仕掛けを施していくようになっており、今回の場合は『跳弾』の紋章をブルー・ブルー・アクアスカイに付与。
アサギ・クサマツの視界では捉えきれない速度で跳ねまわれるよう至る所に仕掛け、今などは視界外から繰り出した跳び蹴りを顔面に当て、彼女を再び砂漠の中にめり込ませた。
「捕まえた!」
「ハルバードに長槍。それに手甲………………色々な武器の対応を迫られるのは面倒ね」
とはいえアサギ・クサマツも防戦一方というわけではない。
三つの武器を実戦経験なしで使いこなす凄まじいもの才能。
対象の一歩先を見通す極めて強力な魔眼。
それに砂漠のような初めて戦うには不都合な戦場で息切れせずにベストなパフォーマンスを続け優に食らいついていく。
「けど周りを見るのを忘れちゃダメよ。そこ、跳ねる足場よ」
「!!?」
「そう――――ら!!」
しかしである。その全てを持つ彼女よりも優は強い。
生まれてからこれまでの二十年と少々のあいだに培ってきた訓練の成果が。
ガーディア・ガルフやミレニアムなど数多の強者と拳を交えた無数の経験値が。
立ちはだかる天賦の才を突き破る。
空中に浮いた彼女の体に鎌の切っ先を突き刺し、勢いよく叩きつけるという結果を示す。
「無駄な抵抗はやめて投降しなさい。従うのならアンタの身の安全は保障してあげる」
直後に僅かな傷はあれど息切れしておらず余裕のある様子で見下ろせば、趨勢が既に覆らない所にまで至っていることは戦場に身を置くものならば誰だってわかる事である。
「………………………………………………嫌よ」
「え?」
「そんなの絶対に嫌! だって捕まったら牢屋の中でしょ? そんなのすごくつまらないじゃない!」
問題は、そういう判断をアサギ・クサマツが下さない者であったことだろう。
「もっと、もっともっともっともっと! 私は戦いたいの! 血を見たいの! 昂る感情と胸の鼓動を! 目前にいる相手にぶつける快感が欲しいの!」
二度目の生を享受するにあたって彼女が求めたのは、ロッセニムにいた多くの者らが望むもの。『飽くなき戦いの日々』であったのだが、彼女の場合そこに込める思いは他者の比ではないほど強かった。
他の者らが『すでに持っていたものを追及する求道者』という形なのに対し、彼女の場合は『夢憧れているもの追う夢見人』であった。
つまり思いの質に大きな違いがあり、生前ずっと願い続けていたという月日の長さもあり、それは妄執と呼ぶべきものに変わっていた。
「それを阻むのなら殺すわ! 誰が相手だろうと絶対に! たとえ死ぬ事になったとしても!!」
そして一度叶った妄執は奪い去られようとした今、彼女は狂気に身を浸す。
目前の邪魔者をなんとしてでも片付けねばならないと考える。
いやそれだけではない。
もしここで自身の願いが潰えるのだとすれば、それでも後悔しないくらい暴れる必要があるとも考える。
たとえここで死に果てることになろうとも、その瞬間が来る時まで暴れ続けるという、対峙する者の大半にとって迷惑な思想に取りつかれる。
「燃えなさい! 周囲にある全ての炎属性粒子をくべて!」
側にいた優を振り払い立ち上がった彼女は、生前から愛用していたハルバードの柄を強く握ると勢いよく鋭くとがった先端部を地面に突き刺すのだが、これによって生まれたのは灼熱地獄といっても過言ではない光景である。
(狙ってやったわけじゃない気がするけど、アタシにとっては最悪の状況ねコレ)
アサギ・クサマツが内蔵している炎属性粒子と砂漠に滞留していた炎属性粒子の大半を地面に流し込み、天を衝く無数の火柱を生じさせたり、地面を溶かしたりしていく。
ドロドロに溶けた砂は溶岩のように周囲を埋めていき、吹き上がった砂は炎の雨として降り注ぐのだが、これらは全て神器『ブルー・ブルー・アクアスカイ』の天敵となるものである。
なぜならあらゆる物理攻撃を無効化する事はできるとしても、水属性を主体にしているため熱により蒸発する可能性は捨てきれないからだ。
「さっさと決めなくっちゃね!」
優がアサギ・クサマツ相手に有利を取れている最大の要因は神器による援護があるためで、それが途切れる可能性を見越し優が動き始める。
紋章展開を使い周囲を跳びまわり翻弄するような動きの速度を更に上昇。更にブルー・ブルー・アクアスカイが周囲に張り付ける紋章の割合を『強化』の物に寄せ、短期決戦で一気に勝負を決める算段を立てる。
「そんなひどいことを言わないでよ。もっともっと、なんなら丸一日戦い続けましょ!」
「その場合! アタシ以上にラスタリアを攻めようとしたアンタの方が困る気がするんだけどわかってんの!?」
「殴るか! 喋るか! どっちかにしてちょうだい!」
「うっさい! さっさと倒れなさいって言ってるの!」
この策における優最大の誤算は、死ぬことさえ勘定に入れていたアサギ・クサマツの異常なタフネスであろう。
腕力を強化した拳を予知の壁を打ち破りいくら叩き込もうとも、彼女は一向に倒れる気配を見せなかった。
口や鼻からどれほど多くの血を流そうとも狂気に染まった笑みを張り付けながら、三種の武器を巧みに扱いカウンターの攻撃を繰り出していく。
「そこ! そこにそこにそこにそこもぉ!」
「っ」
それだけではない。
時間が経つにつれ、彼女は空中や地面に設置してある紋章を見つけ、壊せるようになってきていた。
これにより優を有利にする要素は着実に潰されていき、彼女の頬に地獄のような環境から来る暑さとは別の要因の汗が伝う。
「氷はダメ。木や鋼も微妙。土も溶けちゃう。なら――――」
「こっからさらに追加するつもり!?」
状況はさらに悪化する。
死闘と呼ぶにふさわしい勢いで得物をぶつけ合い続ける事で、感情を無限に昂らせ続ける戦闘狂アサギ・クサマツ。
それに呼応するように動きの速度と攻撃の精度が増していくのだが、そうして動き続ける過程で、彼女は自身の体がオーバーワークにより崩れていくのを感じていたのだが、彼女はそれさえ肯定し受け入れる。
「言ったでしょ! たとえ死ぬことになったとしても、貴女を殺すって!」
「それはちょっと、いえすごく困るわね!」
属性変換・雷を発動し、自身の命を削りながら強烈な雷撃を周囲に散布。
普段ならば気にせず突っ込む優も、自己再生がうまく働かない今回は慎重に動く。
足を止めると、自身の前に展開した水の壁で、向かって来る雷を全て吸収していく。
「足を止めたわねぇぇぇぇぇぇ!!」
その一瞬に、アサギ・クサマツは全てを賭ける。
更に寿命を削り雷属性粒子へと変換するとハルバードの刃に纏い、優の動きを魔眼により予知しながら渾身の力で叩き落とす。
たとえどれだけ攻撃を浴びようとも、この一撃だけは通してみせるという意思を込めながらだ。
「来なさい!」
数多の戦場を渡り歩いてきた優は、アサギ・クサマツのそんな心中を完璧に把握していた。だから完璧な対応ができた。
目前の敵が己を振り上げたタイミングで空を舞っていた自身の神器を勢いよく急降下させ、自身とアサギ・クサマツの間に投入。
(視界が! 防がれて!)
瞬間、優が魔眼の対象から外れる。
視界が水の鳥に埋められたことによって。
「チェックメイト」
そうなればアサギ・クサマツは自身の有利性を失う事になり、未来が読めず戦闘経験のない彼女では回避に徹した優に攻撃を当てられない。
いやそれだけではない。
これまでの戦闘で示した通り、未来が見えなければ攻勢に出た優の攻撃を躱すことや正確な対応をする事が出来ず、
「『強化』五連! 撃ち抜く!!」
両者の距離はゼロに等しい。それこそ腕を伸ばせば届く距離にいるほどだ。
そんな僅かな隙間に優は五つの『強化』の刻印が掘られた紋章を展開。振り抜かれた拳はそれらを通り抜けながら目標の胴体を射抜き、
「――――――」
吹き飛んでいく。
灼熱地獄と化した戦場を超え、砂漠地帯さえ抜け、その先にあった今は人の住んでいない廃墟にまでたどり着くと体を埋め、
「色んな戦場潜り抜けて生き延びたた身としてはね、戦闘初心者に負けるわけにはいかないのよ」
再度見下ろした優の言葉を聞くと、彼女は急いで立ち上がろうと力を振り絞るが思うように体は動かず、それが勝負の決着を意味していた。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
優VSアサギ・クサマツ決着。
新たに手にした神器も強力ですが、今回は相手も結構強く欠けたんじゃないかと思います。
これが実践初参加なわけですから、後々まで放置しとくと才能含めて結構ヤバかったんじゃないかと思います。
さて今回の戦はこれで一段落。次回は状況が大きく動きます。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




