処刑人 アサギ・クサマツ
レオンとアイビスの二人が向かった北と南エリアの戦いは一方的なものであり、西エリアを任された聖野はというと、互いの手札を駆使した一進一退の攻防であった。
「アッハッハッハッハ!! 凄い凄いわ! これが! 戦うという事なのね! 超! 感動!!」
「上機嫌ね。そのまま天まで昇ってくれると嬉しいんだけど?」
「それは無理な相談!」
残るは西エリアで行われていた戦いであるが、他と比べ一際熱い展開を見せていた。
この場所の騒動を鎮圧するため赴いた優とアサギ・クサマツが真正面から衝突していたのだが、驚いた事に彼等は一度たりとも距離を置いて小休止を挟む事がなかったのだ。
戦闘開始から今までのおよそ十分もの間、彼女らは常に相手の得物が届く距離に身を置いており、百万を超えるほど両者のあいだで火花が散っていた。
(この感覚、すっごく久しぶりね)
元々熱かった砂漠の空気は二人の吐く息の熱気により周囲の空間が歪むほどのものとなっており、渦中に身を浸した優が頭に思い浮かべるのは、戦闘開始から今までの間に得た情報。堂々と名乗ったアサギ・クサマツという女性に関してだ。
「さあさあさあさあ! どちらかが息絶えるまで! 踊り続けましょう!」
いわゆる戦闘狂にカテゴライズされる目の前の目隠しをした女性はは、優にとって天敵であった。
というのも彼女が手にするハルバードを用いて繰り出す攻撃は非常に再生しずらいものなのだ。
数多の命を奪う仕事を生業としていたゆえに、彼女は『なんだって殺せる』ように訓練していた。
如何なる怪物であろうと、不死者が相手であろうと、絶対に殺せるようにするためだ。
(本当に死ぬことはないと思うけど………………万が一の事を考えると怖いわね)
この十年のあいだ、優は自身の不死性をさらに磨いた。
アイビス・フォーカスの持つ惑星『ウルアーデ』を模したその力は、たとえその場で復活する事が出来ずとも、数日から数か月かければ絶対に復活できるのだ。
しかしここを突破された場合の被害を考えれば負けるわけにはいかず、呼吸の合ったダンスパートナーのように自分に追従する目の前の怪物を打倒せねばと更に気を引き締め、柄を握る両手に一層力を籠める。
(すごいすごい! 世界にはこんなすごい人が本当にいるのね!)
一方のアサギ・クサマツであるが、実を言うと優よりも彼女の方が追い詰められている状況であった。
(こっちは一秒先までの未来が見えるのに、全部合わせてくるなんて!)
再び現世に足を付けるにあたって彼女が得た神器の名前は『アムリタの目』。
能力は『視界に入れた相手一人の次の行動を予知する』というもので、これにより彼女は常に優の動きを把握し隙を突くよう立ち回っていたのだ。
だというのに優は崩れない。
どれほど予知をして攻撃を仕掛けても決定打にならない。
磨き抜いた驚異的な反射神経と潜り抜けてきた戦場の経験をフルに使い、先読みの先読みを行い未来を覆し続けていた。
「すごいわねお嬢さん。じゃあ次は――――――」
吐き出される息に込められている熱が優の見事な捌きを前にして更に強烈なものとなる。
「………………つまらない事を言うのね。ま、仕事だから仕方がないか」
そんな彼女の脳が急激に冷静さを取り戻したのは頭の奥に響いた念話があったからで、一秒前までとは異なる呼吸を吐き出しながら手にしていたハルバードを下段に構え、
「素晴らしい時間をありがとうお嬢さん。けど残念。遊んでいる時間はないって言われちゃったの」
心境の変化が即座に察せられる声が優の耳に届いた直後、事態が動く。
アサギ・クサマツが刃の部分を全て砂の中に埋めた状態を保ったまま疾走を開始し、対する優はというと真剣な面持ちで迫る彼女を前に受けの姿勢で待ち、
「――――そこ!」
刀身が飛び出した瞬間に姿勢を解き身を翻すが、そこで優が目にしたものは先ほどまでとは異なっていた。
(刃が先端の突起だけになってる。薙刀………………いえ長槍ってところかしら)
アサギ・クサマツが手にしている武器が先ほどまでの重量武器から一変し、柄と細長い刃だけが装着された取り回しのし易いものに変化しており、一番端の部分を持ったかと思えば踊るような動きで振り回し始めて優へと迫る。
「あっ!?」
「ふん!」
動きにくい砂漠の上を動き続けた優が、アサギ・クサマツが足を必要以上に沈めた瞬間を見切り一歩前進。
手にした大鎌の切っ先を彼女の脇腹へと向け振り抜くが、素早く構え直された事で長槍の穂先に防がれ――――瞬間、それは起きた。
「っっ!?」
二つの刃が衝突した場所を起点として、強烈な閃光と爆発が生じる。
それは一番端の部分を持っていたアサギ・クサマツには影響がない程度の狭い範囲であったが、それよりも幾分か近い場所に居た優の皮膚と肉を焼く程度の規模と威力は備えており、嫌な臭いが彼女の鼻を衝く。
(最悪! 視界を奪われた!)
回復術は上手く発動せず、普段なら感じる事のない火傷の痛みが続いているが、優にとって最も厄介なのは視界を奪われた事で、歯ぎしりをしながら水属性粒子を振りまき神経を集中。
聞こえてくる足音や肌に触れる空気の変化。それに周囲に撒いた水属性粒子を敏感に感じ取り危機的状況から脱しようと考えるが、このタイミングで気が付いた。
「武器が………………また変わってる!?」
アサギ・クサマツの持っている武器がハルバードとも長槍とも異なるものに変わっており、先ほどまでの比ではないほどの速度で優へと肉薄。
「せい!」
僅かにだが視界を取り戻した優が目にしたのは、傷一つない両手を覆うように装着されたゴツい黒色の手甲で、交差した両手に幾度となく叩き込まれ、
「っっっっ」
その直後に優雅感じ取ったのは口の中を埋めるような鉄の味と体の芯に響く衝撃波であり、砂漠の上を転がった優の体は最後には勢いを失い沈んでいき、その光景を見届けたアサギ・クサマツは、いつの間にか自身の頬に奔っていた二本の切り傷から零れた血を拭い取る。
「終わりね」
生前、どれだけ首の固い者や不死者が相手でも切り落とすために使っていたハルバード。
重さを捨てリーチと手数を増加。その上で穂先に『爆発』と『閃光』の二つの能力を付与した長槍。
そして『速度上昇』と『衝撃貫通』の効果を施した速度特化型の手甲。
この三つを使い分け敵を殲滅する。
これこそがアサギ・クサマツの強さであるが真に驚くべきことはこのうちの二つ。すなわち長槍と手甲に関しては今回の戦闘が実践初投入であるということだ。
「では、侵攻を再開します」
淡々とした声色で語る彼女が、踵を返し白亜の壁を失ったラスタリアへと向け歩き始める。
「ハルバードに長槍。それに手甲の三タイプね。これ以上手札を隠しているとしたらちょっと面倒だけど、ここまで刃を交えた限り、そういう事をする性格じゃないわよねアンタ」
「!」
はずの足が、止まる。
背後から聞こえてきた声を耳にした事で。
次いで彼女の身を埋めたのは、愛する人に出会った時に生まれるような恋焦がれる気持ちであり、満面の笑みを浮かべながら振り返り、そこで目にするのだ。
「まあ他に奥の手があるとしてもこれ以上は待てないし、そろそろ反撃させてもらうわね」
回復能力が思うように働かず体の至る所を火傷させ、口から多量の血を吐き出した敵対者。
にもかかわらずケロリとした顔で自身を見据える尾羽優という新時代の雄の一人の姿を。
「いいわ。いいわいいわ! これ以上何を見せてくれるの!? 教えて頂戴!」
頭の中に響く声さえ無視し、己が思うがままに言葉を弾ませ、近づいていく戦狂い。
「とっておきよ。期待してて」
そんな彼女に対し優は腕を掲げ、しばしの時を置きやってくるのだ。
「来なさい。アタシの相棒」
彼女が大樹から得た薙刀を成長させることで会得した神器が。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
優VSアサギ・クサマツ開戦。
二人の現状に敵対者である目隠し美女の紹介回です。
そのぶん優はいいとこ無しですが、その状況を覆すように次回はやり返します。お楽しみに!
それではまた次回、ぜひご覧ください!




