第二十二代ロッセニム覇者 極信
詰め所の砕けた壁の上に現れた人物の出で立ちを一言で説明するならば『風来坊』と形容できるだろう。
所々に厳かな筆跡で描かれた動物を記した真っ赤な着物に袖を通している彼は爪サイズの笠を被り、口には常人では視認できないほど小さな木っ端を咥えており、ネコ科の獣人の血が混じっていることを示すような三本の髭と縦に瞳孔が切れた猫目をしていた。
「マビアガラン殿を瞬く間に仕留めるだけの実力を備え、その上で拙者の施した絡繰を解き明かすほどの頭脳を持っているか。しかもこれまでの様子から察するに、解き明かす土台となったのは、積み上げてきた確かな論理ではなく閃きと直観であると来た!」
「わ!」
「星を支える大都市の危機なのだ。それ相応の刺客が放たれるとは思っていたが――――極上の者がやって来たとみてよいのだろうな」
「わわ!!」
そんな人物。
第二十二代ロッセニムチ覇者、極信であるが、聖野が最も驚いたのは、彼の口から発せられる声である。
(見た目と声が合わな過ぎるだろ!)
聖野は極信が推測した通りの優秀な戦士であり、自身の人差し指より小さな敵の姿を捉える事が出来ていたのだが、姿形と発せられる声は大きく乖離していた。
顔つきは十にも満たない幼い童のものであるというのに発せられる声が長い年月を生きた老兵が如きものであったのだ。
それこそ二メートル越えの巨体に加え年齢と比較すると老け顔気味のシュバルツが発したとしても少々違和感を感じるほど低くて重厚感のあるもので、今が決して気を抜けない状況なのはしっかりと理解しているというのに、意識をそちらに割かれてしまい、
「拙者の声がそんなに気になるかね?」
「あ、いやえと………………」
自身に向けられていた意識が僅かに逸れた事を察した極信がそう尋ね、聖野が思わず言葉に詰まる。
「罪悪感を抱く必要はない。過去にもそのような者らはたくさんいたのだ。ゆえにもう慣れたので拙者が口を尖らせることはない」
「その………………ありがとう、ございます」
するとその態度を見た彼は穏やかな声でそう宥めるのだが、その言葉を聞き返事をした直後、聖野はふと思った。
目の前の人物ならば、対話を試みることができるのではないか、と。
「………………一つ聞きたいんだけどさ」
「ん?」
「アンタらはさ、なんでこんな恐ろしい事をするんだ? ラスタリアに何かあったら、世界中が大混乱に陥ることくらいわかるはずだ」
なので素直にそう尋ねてみるのだが、幸運な事に聖野の直感は的中した。
話を聞いた小人族の勇者が、しばし考えた後に返事をしたのだ。
「我らが王の考えは拙者にはわからぬが、何らかの目的があるのは確かであろう。そして拙者を含めた他の者に関してならば、大きく分けて二種類に分かれるだろう」
「二種類?」
「さよう。『自発的に参加した者』と『嫌々従っている者』だ」
彼が語り出したのは蘇った者達一人一人の態度や姿勢に関するもので、これは先の説明にある通り、大きく二つに分かれているという事であった。
大前提として全員が何らかの目的を持って蘇っているという事であったのだが、それは『飽くなき闘いの日々を続けたい者』と『それ以外』に大別できるということだった。
「それ以外っていうのは?」
「第二の生を戦い以外の形で楽しみたい者のことで、こ奴らは生前出来なかった事をしたいがために蘇った。ゆえに戦いなどは、可能ならば避けたいと考えているのだ」
例として出されたのはつい先日謎の存在によって殺害されたエスカッティ・バンピーロで、彼女の場合は生前成し得なかった目的のために動いているという事であった。
「………………いやそもそもの話としてなんでアンタらは生き返ってるのさ。死者の蘇生なんて、絶対にできないはずだけど?」
続いて聖野が気になり尋ねたのは今回の一件において最大の謎。
何十年も何百年も前。それどころか歴史の資料にさえ残っていないほど遥か昔に生きていた者達がどうやって生き返ったかに関してあり、
「ちなみに拙者は前者。飽くなき武の道を追求するためだ」
その答えを聞くことができない事が、小さなロッセニム覇者の発する言葉を聞き即座に分かった。
なぜなら彼は暗に伝えてきたのだ。
『知りたい情報があるならば勝ってから聞け』と。
「――――参る」
聖野が見ている前で、小さな体がしゃがんだ事で更に小さくなり――――消える。
(消えた!)
それが何らかの能力を行使した物では無い。本人の健脚によってなし得たものであることをすぐに把握すると、聖野は神経を極限まで研ぎ澄まし自身の周囲を観察。
「そこ!」
拳が届く距離まであと一歩という所で目標である小さすぎる敵影を見つけると、大きく一歩前に踏み込みながら正拳突きを撃ち込む。
「うむ! 見事也!」
それらの動きに無駄な部分など一つもなく、構えから発射に至るまでの所作に関しても、極信が口にした通り見事というほかない。
「う、おぉ?」
なのでこの結果は極信が強かったゆえに訪れたもので、攻撃が当たる直前に空を蹴った彼は、伸びきる直前の聖野の右腕に着地。
蛇が木の上を体を捩じりながら伝うよう螺旋を描きながら駆けていくと、手にした極小の刀で聖野の腕に線を引いていき、
「うぉ!?」
鮮血が吹き出るよりも遥かに早く首筋にまで接近するが、それが突き刺さる直前に聖野が屈みながら大きく後退し九死に一生を得た。
(早いし細かい! 『最小最速の剣豪』が異名らしいけど、その看板に偽りなしか!)
自身の右腕から勢いよく流れ出る血液など気にも留めず、過去の記録に書いてあった異名を思い出し唸る聖野。
彼は苦戦必至の厳しい戦いが始まることを予期し、
「決定打を撃ち込めぬか。凄まじい集中力に反射神経。それに動物的な勘だな。ならばまずはそれらを削ぐとしよう」
「っ!?」
直後に知ることになる。
この戦いが、自身が考えている以上に厳しいものであると。
(しまった! この場にはまだコイツがいた!)
そのとき聖野を真横から蹴り上げたのは、先ほど吹き飛ばしたマビアガランではない。
本体が姿を表したゆえに役割を終えたとばかり思っていた空洞の鎧で、
「一度目の生では不敗を誇った拙者の剣、受けてみよ!」
吹き飛んだ先に待ち構えていたもの。
それは風属性粒子で刀身を、人間どころか一軒家を真っ二つにできるほどまで伸ばしていた極信の姿であった。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
VS第二十二代ロッセニム覇者、極信戦開始。
これまでで間違いなく最小サイズの相手が猛威を振るい、聖野が突き崩すため動きます。
なお、声に関しては色々なアニメに出てくる大御所レベルの渋い声を想像して書いていまが、誰を思い浮かべてるかはご想像にお任せします。こういうのって、個々人によって合う合わないがあると思うので。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




