思想犯蹂躙戦 一頁目
『腑抜けた治世。人間という存在を退化させている悪神、古賀蒼野に誅罰を与える』
彼がこの戦いに参加した理由はその『お題目』がとても興味深かったからだ。
十年経った新時代において、四大勢力は手を取り合い、かつてのように争うような事はなくなった。
全世界の強者たちが手を取り合える関係が実現し、二大宗教を筆頭に思想的な衝突はなくなった。
加えて古賀蒼野は理想郷、すなわち平和な世界の実現ために日々邁進していたゆえに、世界中は幸福な方向に向かって進み始めていた。
つまりじゃないとして働いていた男にとって、現環境は退屈な世界に他ならなかった。
世間を賑わす様々な厄介事は彼にとってうまい飯を食べるための種であり、蒼野が作り上げている世界はそんな彼にとって望ましくない事ものだったのだ。
そんな中で舞い降りたかつてを思い返させる、物騒な闘争の匂いを漂わせる種に彼は飛びついた。
一歩引いた目線、安全圏から見守っていれば十分だったはずなのに、今回に限り一人の戦士として、最前列に立つことを決意した。
これは彼がジャーナリストという意味合いだけでこの戦いに興味を持ったからではなく、十年前は日常的であった闘争の日々。
毎日どこかで広がっている今の世にはない空気を、その身で浴びたかったからである。
「これで九割がた片付けたわけだけど、総大将はまだ出てこないんだ。まさか最後の一人になるまで亀みたいに閉じこもってる算段なのかしら? ちょっと部下に対して薄情、というか臆病過ぎない?」
(おいおいおいおいおいおいぃぃぃぃぃぃぃ!!)
そんな自分の甘っちょろすぎる考えを彼は呪った。
崩れ落ちた石の要塞の影に隠れながら、着ている藍色の半纏をたなびかせながら歩くアイビス・フォーカスという超広範囲破壊兵器を見ながら、己が愚かさを恥じた。
(十年、そう十年だ! 平和ボケするには十分な時間だったな畜生!)
なぜならだ、かつては逆に辟易していたはずなのだ。
日々繰り返される人死にが出るような争いを、彼は嫌っていたはずなのだ。
(十年あれば人は変わるってか。ハッ! 笑えねぇな!!)
そんな昔の自分を忘れた事に対し、巨大な瓦礫の破片に身を預けた彼は失笑を零し、
「お、居た居た。反逆者はっけーん」
直後に、その失笑は消え失せた。
この要塞を蹂躙し、なおも意識のある者を丁寧に粉砕している前神の座イグドラシルの懐刀だった女性。
すなわちアイビス・フォーカスに見つかり、首根っこを掴んで持ち上げられたことで。
「!」
直後に彼が行ったのはジャーナリストという性分が成せる技とも言うべきか。
反射的に命乞いの言葉を吐き出すようなことはなく周囲の環境を確認し始め、結果わかったのは意識を失っている者達はみな息があるということ。
つまりものすごい苦痛を受けてこそいるものの死んではいないという事で、
「す、すいませんっした! 自分! 馬鹿なことしたって自覚があります………………!」
「………………………………むむ」
「だ、だから………………………………許してくださぁい!!!!」
といっても結局のところ、辿る結末は同じであった。
『痛いのはやめてください』とか、『意図はわかったので大人しく従います』でもない。ましてはジャーナリストらしく『後でこのことに関して纏めたいので情報をください』などのように小生意気な事を言う事さえできず、
「お、お願いしまぁす!!!!」
なんとも無惨な命乞いをする事しかできずにいた。
「ん~………………………………ダーメ」
そして、そんな者に対してアイビスは容赦しない。
声こそ甘ったるささえ感じる優しいものである。口元も緩めている。
しかし瞳孔が縦に切れた虹色の瞳孔は臨戦態勢かつはっきりとした怒気が込められている事が一目でわかるものであり、直後に彼は悲鳴を上げる暇もなく、足元の瓦礫に頭を埋めて愉快なオブジェクトの一つとなった。
「あ、出てきた」
「そいつが最後の一人だったもんでな。一人ずつ虱潰しによくやるもんだ。感心したぜ」
直後、アイビス・フォーカスの元に目的の男は現れた。
「思ってたのとは全然違う光景だったな」
他方北エリアにいるレオンであるが、こちらもアイビス同様単独で動いていた。
これは単純な問題として北エリアに現れた急造の要塞。
様々な廃材を用いて作られた数キロにも及ぶ空中要塞の周りに当然のことではあるが配備されていた人員がいなかったためで、周辺にいる戦力が集まるよりも一足先に、レオンは中の様子を覗いていた。
結果わかったのはアイビスが感知したものよりも戦力が明らかに多いということ。
ただしこれは彼女がミスをしたというわけではない。無数の人影に混ざり折り紙を使った私兵。いわゆる式神を用いて簡易的な私兵を設置していたのが原因で、実際のところは大小様々なものを含め当初の十倍。五千の兵がロッセニムを連想させる円形の空中要塞の中に潜んでいた。
「お気に召さなかったですかな。現代を生きる同朋よ」
「いや、むしろ感心してた。こういう精細な技術は、俺にはできない分野だからな。ついでに言えば近接戦闘が主体じゃない奴がかつてのロッセニム覇者の中に混ざってたのも意外だ」
その全ての戦力。
すなわち人にも式神にも気づかれずに対処して、彼は今、この騒動の主の一人と対峙する。
真っ白な袴に似た服装。狩衣と呼ばれるものに袖を通し、頭に真っ黒な烏帽子を乗せている耽美な顔つきをした中肉中背の青年は近距離の専門職には思えず、
「おっしゃる通り私の専門職は遠距離です。そして言い方を変えればそれはこういう事になります」
「っっっっ!!」
「敵に目と鼻の先まで近づかれても、対処する実力があると」
そのレオンの推測が正しいと認めながら、彼はなんらかの前準備をすることもなく業火の火柱をあげ、敵対者を包み込んだ。
「お待ちしておりました聖野殿。中で参謀共が待機しています!」
「どもっす」
残るは東西にエリアであるが、西エリアの様子は先に紹介した二ヶ所と異なっていた。
側に潤沢な戦力を控えさせた詰め所があったゆえに聖野はそちらへと足を運んでおり、鎧帷子を着て鉄傘を被った、案内役らしき青年の言葉に従い中へと入っていった。
「!」
そこで目にしたのは、残虐の跡。
詰め所に居た百名近くの命と四肢が無惨かつ派手に散らされている光景で、それを見た直後に全身を硬直させた瞬間、聖野の全身に強い衝撃が襲い掛かる。
「これが本部勤めの精鋭ぃ? ずいぶんと呆気ないなぁ!!!!」
その衝撃を撃ち出した主は聖野の三歩後ろを歩いていた案内役の男で、鉄傘の奥にある獰猛な獣の顔を大きく歪ませ、鋭利な刃物を連想させる鋭い歯が見える口元を歪ませていた。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
引き続き行われるよ蹂躙のお時間な二話目。少年編で語った事ではありますが、アイビス・フォーカスは身内以外かつ神教への敵対者に対しては厳しいです。
次いでレオンや聖野サイドでも戦闘勃発。両者の間に現れたのはロッセニムで首領を務めていた人物らですが、その実力は果たして
次回は残った優サイド。そして本格戦闘開始です。
それではまた次回、ぜひご覧ください!!




