ラスタリア防衛戦 一頁目
訪れたその場所はシェンジェンにとってはなじみ深い場所であった。
今でこそオルレイユを拠点としているものの、十年近くのあいだシェンジェンにとってその地は足繁く通う場所であり、今回訪れた際の感想は『久々に顔を出すなぁ』程度のものであったのだ。
「ここがラスタリア! エルドラ様も認めた神の座が座す世界の中心!!」
しかしそれは、この地に通っていたシェンジェンであるからこそ抱ける感想で、他の者は異なる。
良照や馬郎は無言で周囲を見渡していたし、ガルゴネシアは感嘆の息を吐きながら声を震わせていた。
「何度か来たことがありますが、その度に気圧されますね。この場所特有の空気がそうさせているのでしょうか」
「ギルド『ウォーグレン』が使ってたっていうキャラバンの展示はどこで行われてる! 今回の旅行の目玉はアレだろ!」
この場所に何度か訪れた事がある勇美さえ緊張感を抱えた面持ちであるし、我龍に至っては普段の態度を明後日の方角に投げ捨て、小学生のようにはしゃいでいる。
(さてと、ここの案内人はだれかな?)
その様子を微笑ましく見るシェンジェンがそのような事を考えていると、彼の問い掛けの答えたる人物が、彼等の前にやって来た。
「君達がシェンジェンを中心とした旅行客だな。初めまして。今回ラスタリアを案内させていただくティキってものだ」
下にはジーパンを、上には空色のワイシャツを着て、真っ黒な髪の毛をオールバックにした浅黒い肌をしたその人物は、土いじりをしていたからか上から羽織っている真っ白なエプロンを汚しており、掌についている泥を自身が生成した水で洗い流しながら現れた。
「あ、えーと、よろしくお願いします」
「はっはっは! 有名人じゃないってわかった瞬間に落胆したのが一目でわかったぞ少年少女。けど安心しな。お兄さんはな、名前こそ知られてないが、十年前までは戦場で結構活躍してたんだぜ。それこそ神の座になった古賀蒼野や、その大側近たちともドンパチやったくらいなんだぞ!」
今でこそ新しい名前を得て太陽の下を歩くその人物は、かつて暗殺ギルド『彼岸の魔手』に属していた暗殺者。かつてはイレイザーと名乗っていた人物で、右手の親指で自身の胸を突きながら語った経歴を聞き、子供たちの彼を見る目が変わったのを察しながら念話をシェンジェンに飛ばす。
(ところで今日明日の予定に関して何だが、できるだけ端のエリアにはいかないよう他の奴らをひっそりと誘導してくれ)
(なんでさ? そんな面倒な事せず口にしちゃえばいいんじゃない?)
(そりゃそうだが、せっかくやって来たお客さんに『ラスタリアを襲撃するって宣戦布告があった』なんて説明をするのは心苦しいだろ)
最初は気軽な声色なのもあって軽い調子で返事をしていたシェンジェンであるが、具体的な内容を聞いた瞬間、心が刃のように鋭いものになる。
(ラスタリアに襲撃!? なら僕も!!)
(いやいや。今のお前さんは『戦士』じゃなくて『旅行客の学生』だからな。戦場に出ろなんて言わないって)
(でも!)
(俺やお前さんが参加しない程度で、今のラスタリアが歪むとでも思うのかよお前さん?)
ゆえにすぐに戦線に加わる事を告げるシェンジェンであるが、笑いながら告げるティキの言葉を聞き、反論する事しかできなかった。
なぜなら彼はよく知っていたのだ。
今のラスタリアが抱える戦力。
それがどれほど凄まじいものであるかを。
「一応緊急事態なわけだが、積から連絡は?」
「あったわよ。『ヤバくなりそうなら連絡してくれ』って」
「なるほど。サボりか」
「…………そういうわけでもなかろう。ラスタリアに火の手が上がればすぐに駆け付けるのは実証済みだからな」
ラスタリアに存在する一際大きな建物。
世界樹を背景とする白亜の城の廊下を、三つの声と足音が木霊する。
さほど広くない廊下に他に影はなく、彼等はそんな空間を我が物顔で歩き続けるのだが、それを咎めるような者はいないだろう。
「俺としては、そうなる前に来てほしい所なんだよなぁ」
なにせ彼らはそれほどまでの地位を得ていた。
中央ど真ん中を歩くのは文字通りこの世界の支配者たる人物。すなわち十年前に紙の座となった古賀蒼野で、その両脇を固めるのは彼の心身を支える大側近である尾羽優とゼオス・ハザードの二者であるのだが、歩くその姿には十年前には備わっていなかった威厳があった。
「待たせてすまなかった。それで、状況は?」
とはいえだ、薄暗い部屋の中心に置かれている円卓を囲うように集まった面々に関して言えば、彼等が得た威厳などなんの効果もない。
玉座の間からほど近い場所にある神の居城第一会議室に集まった面々。
その顔触れは十年前に様々な苦楽を過ごした者達であり、地位に差はあれど誰もが平等に意見を言えるような立場であった。
「んもう! 待ちくたびれちゃったわよ! 三人とももっと早く来なさいよ!」
二人の家族を失ってなお神教の守護に勤めるアイビス・フォーカスの姿と態度に変化はなく、
「そうだぜ。俺なんか三十分前に到着してて、うたた寝しちゃってたぞ」
「それはそれでどうなんだよ」
善に拾われた少年。十年経ってもさして身長が伸びる事のなかった聖野に彼等を敬うような態度はない。
「で、相手はどんな奴らだ。大急ぎで呼ばれたから私は何も知らんのだ。さっさと教えろ」
自身が用意した椅子に腰かけ退屈そうな表情を浮かべながら頬杖をついているエヴァ・フォーネスなどはもはや彼らを見下しているのだが彼らが不平不満を漏らすような事はなく、ここであえて言葉を挟むような事はしないレオン・マクドウェルやシュバルツ・シャークスも蒼野らを崇めるような事はない。
「ならアタシから説明をさせてもらいますね。今からおよそ二時間前、ラスタリアに対して正体不明の集団から宣戦布告の旨を伝えるメールが送られてきました。事前に周囲の状況を調べた結果、ここ最近巷を騒がしている、過去にロッセニムでチャンピオンを務めていた連中が率いる集団みたいです」
「ロッセニムか! なぁなぁ! どう思うレオン・マクドウェル?」
「正直なところ………………謝罪するしかない!」
すると優が返答し、それを聞いたエヴァがレオンをなじると、蒼野が咳払いを行い全員の視線を集め、
「とりあえずここにいる面々の他にも、近場にいた『超越者』クラスに援軍要請を出しておいた。戦力が足りなかった場合、彼等の力も借りる算段だ」
「別にいいけどちょっと過剰過ぎじゃない? 敵さんがかわいそうになってくるわね」
そう発言。
神教に仇なす者に対しては最も苛烈な攻撃を加えるアイビスが苦笑するが蒼野は首を左右に振り、
「万が一があっちゃいけませんからね。やるのなら完璧な準備を行っていきますよ」
そう告げる。
イグドラシルの時代が終わって十年。
そうして築かれた新時代の戦力が今、侵略者を相手に牙を剥く。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
さてさて変わらぬ様子のアイビス殿や背が伸びなくて悔し涙を流している聖野など、久々に色々な人物が本格的に集まります修学旅行ラスタリア編。
いや正直に言いますと、今回の話では『修学旅行』の部分が完全に抜け、短い間ですが蒼野達主体で話が進みます。久々ですね。
そんな彼らと戦うのは五章に入ってから何度も語られていたロッセニムの者達。
彼等との戦いがどんな事になるか、楽しみにしていただければ幸いです。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




