シェンジェン・ノースパスVSデリシャラボラス 二頁目
デリシャラボラスは告げていた。
今の自分は百メートルほどあった身長の際に備わっていた力を、二メートル程度の体にまで凝縮したのだと。
それにより引き出された力は凄まじいもので、光速で動く物体を完璧に捉え反撃する事ができるシェンジェンでさえ影も形も捉える事ができない速度であったし、撃ち込まれた拳は術技や能力を使っていないにも関わらず、シェンジェンを死に至らしめるほどの力を誇っていた。
つまり間違いなくデリシャラボラスは口にした通りの状態。
百メートルあった身長が備えていた力を、人間サイズになってなお行使できるものになっていた。
いや凝縮させたという言葉通りであるならば、それ以上の力を発揮していた。
「あ あ あ あ~」
「フヨフヨ風船みたいに浮かんでると思えば発声練習とはな………………何のつもりだクソカス?」
「へぇ。普通に話せるんだ」
「あ?」
「同じように光速以上で動けるガーディアさんはさ、すっごく苦労してたよ。人と同じ目線で話すのがさ、すっごく大変だって」
だがそれが制御できるものであるかと問われれば話は大きく異なり、端的に言えば彼は、圧倒的な力と速度を行使できる土台は備わっていなかった。
持っている力を細かく調整することはできないため触れるもの全てを破壊してしまうし、光速を超えた速度を制御する事ができない。
つまり、
「そのクセそこまで自由自在に動かせるなんてさぁ、絶対タネがあるよね、それ」
そこにはそれを成し得るだけのトリックがあるとシェンジェンは見抜いた。
「向かう場所に対して線を引いて、そこに向かって動く………………自動操縦の類だね」
「テメェッ」
そして今、その正体を把握する。
浮かんでいた彼の体の至る所に突然無数の穴が開き、元に戻ることなく彼の体は四散する。
それは本来の世界ならば十分にあり得る凄惨極まりない光景であるがこの練習施設。
すなわち『万能闘技場』と呼ばれる場所ならばあり得ぬ事で、空気となって散っていく様子を前にデリシャラボラスは悟る。
今、自分は釣られてしまったのだと。
「腹が立つけど認めてやる。総合力で見れば君の方が強いってね。けどさ」
「!」
直後に聞こえてきた声は戦場一帯に木霊し、デリシャラボラスは動けずに固まってしまい、
「勝つのは僕だ!」
そんな彼に、シェンジェンは襲い掛かる。
己が姿を晒すことなく
前動作を見せることなく
彼を彼たら占める真骨頂
すなわちエアボムが火を噴く。
「こ、の野郎!」
当然デリシャラボラスは回避行動に移るのだが、ここで問題になるのがその範囲だ。
(僕らのいる戦場は半径二百メートルの半円。それくらいなら………………包み込める!)
かつて起きた大事件。
ガーディア・ガルフが起こした少数で行われた世界を相手にした大戦争において、シェンジェン・ノースパスは幾度となく大立ち回りを演じてきたのだが、その際に問題になったのは駆使するエアボムの火力に奇襲能力の高さ。何より範囲の広さにあり、それ等を何度もミスなく繰り返し、息切れする事がなかったことこそ彼の脅威であったのだ。
「こ、このガキャ! いつまで続けるつもりなんだよ!」
そんなシェンジェンからすれば、半径二百メートルの空間を包み込み爆発させるなど赤子の手をひねるよりも簡単な事で、どこにいようとも襲い掛かる爆発が、デリシャラボラスの体についてるペイントボールを三つ目、四つ目と割っていく。
「畜生が!」
そのまま五つ目に到達するよりも早くデリシャラボラスは足を止め、全身に纏っている真っ黒な鱗の一部を隆起させると、肩についてる最後のペイントボールを覆うように変形させていき、
「絶対に崩せない強固な鱗で目標を守るってさ、ルールに接触しないのそれ」
完璧に包み込むよりも早く、シェンジェンが動く。
デリシャラボラスの目と鼻の先にまで距離を詰め、最後の一つが包まれるよりも早く腕を伸ばす。
「テメェ!」
それがペイントボールに到達するよりも早く腕を振り抜けば、彼は危機的状況から脱する事ができた。
けれどその際に発揮した動きに先ほどまでの鋭さは微塵もなく、シェンジェンは確信を持つ。
「時間切れ? それとも集中してないと全力を発揮できないタイプ?」
「!」
デリシャラボラスは当初みせていたほどの力を発揮できない状態であると。
今ならば、真正面から挑んでも勝機があると。
「もしくは他に理由があるのかもしれないけど、なんにせよ、怖さはなくなったね七光り」
そんなデリシャラボラスを挑発するように意地の悪い笑みを浮かべ言葉を紡げば、デリシャラボラスの表情が険しいものに変貌。
「余計な一言を付け足したなクソカス。それがテメェの敗因だ!」
直後に襲い掛かったのはシェンジェンが感知できない速度による移動と攻撃で、それはシェンジェンの体に残っていた三つのペイントボールを瞬く間に破壊する………………はずだったのだが上手くいかない。
「そんなこともないよ。その証拠にほら、ノーダメージだろ?」
シェンジェンは今、迫ってくるデリシャラボラスを視認する事が出来なかった。これは疑いようのない事実だ。
なのに彼は怪我は勿論の事、ダメージさえ負っていなかったのだが、こうなったタネはシェンジェンがデリシャラボラスの行使する力の正体が『目標に向かって導線を伸ばす』類の物であると把握したからだ。
(思った通りだ。途中で線を無理やり曲げるような事ができれば、アイツの攻撃は僕にまで届かない)
訪れるはずの破滅を免れた仕組みは実に単純。
自分に襲い掛かる物の正体を目的地まで導く無色透明の線上の物体だと把握したシェンジェンが、訪れるはずの未来を捻じ曲げた。
具体的に言うと自分の側にまで敷かれていた粒子の線に、自身が体から発した風属性で作った線を繋げ、デリシャラボラスが至るはずであった終着点を明後日の方角へと移動。
「………………………………」
その種を理解した瞬間、デリシャラボラスは押し黙る。
目の前にいる存在を見下す視線を潜めながらじっと見つめ、
「決めさせてもらう!」
「オラァ!」
厄介な光速超えの移動をさせないため、自身の側にある雑草や木々を距離を詰めてきたシェンジェンへと向け拳を撃ち出す。
それは先程までとは異なる。
自身がコントロールできる範囲に留められたものであり、不意を突かれたシェンジェンの膝を捉え見事にペイントボールを割るのだが、すぐに距離を離れたシェンジェンの顔はかなり険しい。
「………………君のその動きは。まさか」
「クソムカつく事だがな、こと近接戦において、ある男の繰り出すノーモーションの殴打は最高にイカす技だった。実用性も抜群だったしな。となりゃ、少々複雑だが覚えるしかねーだろ」
「『竜人族の自分が下等生物の真似するのは屈辱だ』ってことだろ。そんな風に思うなら、覚えなきゃいいと思うけどね」
その理由は至ってシンプル。
デリシャラボラスが自身の憧れている人物の技の一つを行使したからで、
「全力全開の時と比べりゃあり得ねぇほど弱いんだが、それでも十分に仕留められそうだな。来いよ。残る二つのペイントボールも割ってやる」
「残り一つのクセに偉そうなのはなんなんだよ!」
本来ならエアボムを連打することが最も勝算の高い戦い方であると、シェンジェンは自覚している。
自覚してはいるもののその考えを放り投げ、デリシャラボラスに対抗するよう徒手空拳の構えへと移行。
すると熱帯雨林の中に身を埋めている二人の耳に届くのは、作り物ではあるが鳥の声や昆虫の羽音だけであり、
「「!」」
そんな状態が五秒ほど続いたところで、かち合っていた互いの視線が揺れる。敵対する者を駆逐するために。
「テメェのその動き! もとにしてるのはオレサマと同じあの男か!」
「ッ」
「だがある程度は脳みそが詰まってるテメェならもうわかってるだろう。その戦法は、お前の体にはふさわしくないってなぁ!」
その結果はと言うと、誰の目で見ても明らか。
体格に恵まれたデリシャラボラスがシェンジェンよりも優れた身体能力を活かし、一方的に攻め続けていた。
長年鍛え上げてきたシェンジェンが会得した技術を、生まれつき持っている長所で捻じ伏せたのだ。
シェンジェンの体の着いていた残る二つのペイントボールを素早く捉え、二つの物体が割れる音が、鳥の声や虫の羽音に混ざって聞こえ、
「勝――――!」
勝利を確信したデリシャラボラスが、笑う。
手に入れたかった結果を望み通り手にしたゆえに。
「クソムカつくなぁ。奥の手は、使わずに勝ち越す予定だったのに」
それが誤った判断であるのは立会人であるエルドラの声が勝敗が決したのを告げない事から明白で、未だ動き続けるシェンジェンの口からはいじけた様子の声が漏れ、
「な、に………………!」
「ちょっと前に僕も引っかかった一手だ。君にもしてあげるよ!」
戸惑うデリシャラボラスの肩にある最後の一つを、撃ち抜く。
「試合終了だ! 勝者はシェンジェン! シェンジェン・ノースパスだ!」
直後に聞こえてきたのは闘技場の外で試合を見ていたエルドラの歓声に似た叫びで、それが此度の戦いの終わりを告げる言葉となった。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
遅くなってしまい申し訳ありません。休日前の悪い癖ですね。
ただその分内容は眺めに。勝敗まで一気に進めてしまいました。
結果はと言いますと本編にある通り。
シェンジェンがちょっと前に生徒会長殿からされた事を再現した感じですね。
次回は今回の戦いのエピローグ編です。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




