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竜人族の行きつく先 三頁目


 夜になり、田舎臭さを残しつつも温かみを感じる竜人族の里の至る所に提灯の火がともる。

 祭囃子が鳴り響き、観光客も、現地に住む竜人族も、楽しそうに話しだす。踊り出す。食事をして酒を飲む。力比べを行い腹いっぱいに笑い続ける。


「まぁ、僕らはまだ飲めないんだけどね」


 そんな中を歩き回っているシェンジェンの隣には親しい友人の姿があり、後ろに視線を向ければ、色々と複雑な思いを抱いている先輩らの姿がある。

 更に視線を動かせば見知った顔がたくさんあり、そんな人らと平和な時間を過ごせる今この瞬間を前に、少年はこう思うのだ。


 あぁ、幸せだ………………と


「!?」


 そんな世界が、後頭部に襲い掛かった強烈な痛みにより奪われる。

 目にしていた光景に無数の亀裂が奔り、ぐちゃぐちゃに歪んだかと思えば木っ端みじんに爆ぜて消えた。


「いっっっっっっっっだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!?」


 口から突いて出た言葉は、何かを考えた末の物ではない。

 まさしく反射的に飛び出したものなのだが、すぐにそれが今の状況に相応しいものであると把握した。


「二個目のペイントボールが割れてる。デリシャラボラスさんの攻撃で一個。壁に衝突した際の衝撃で一個ってことか。言葉通り五個の残機があるとは思わない方が良さそう」


 迸る痛みにより正気に戻り事態を正確に把握し、体の節々に異常がない事を確認しながら言葉を吐き出す。

 鼻を衝く土と草の野性味あふれる臭いに顔をしかめ、かと思えば自身の顔面に手を当てる。


「これ、喜べることではないよね」


 驚いた事に、意識を失うほどの衝撃を受けたにも関わらず鼻血さえ出ていない。


「本来なら致命傷扱いの傷だったってことか。やっばぁ………………」


 ただそれが喜ばしい事であるかと言われると否である。

 なにせ、もしここが本当の戦場であるならば今の一撃で死んでいる可能性が濃厚で、こうして呼吸尾して言葉を紡げているのは、これが練習試合ゆえだからなのだ。

 それで喜べるほど、シェンジェンは戦士としての自覚を捨てているわけではない。


「これは………………ちょっと気を引き締めなくちゃいけないかなっ」

「そうしろ。鼻水垂らした馬鹿に勝ったところで、十年前から蓄積してた溜飲は解消されねぇんだからな」

「!」


 ゆえに全身に襲い掛かっていた痛みを無理やり捻じ伏せながら立ち上がり、力強い声を発し状況打開の念を込めて言葉を紡ぐのだが、危機は既に、シェンジェンの側に、まで迫っていた。


「精々足掻け! オレサマを楽しませろ! 満足させろ!」

「っ!」


 壁を背にしていたシェンジェンの逃げ場を奪うように、デリシャラボラスの拳が左右前方を埋め尽くし、シェンジェンが両腕を交差させながら身を守る。


「君を君たらしめる無駄にデカい図体はどうしたのさ? 邪魔になって捨てちゃったの?」

 

 そうしながら口から突いて出るのは、気になっていた事柄。


 一般的な成人竜人族よりも更に大きな肉体。

 百メートル近い大きさを誇っていたデリシャラボラスが今、自分よりも僅かに大きな二メートル程度にまで縮んでいる事実に関してで、質問の内容を聞き、真っ黒な鱗に包まれた竜人族の青年が嗤う。


「捨てたんじゃねぇ。凝縮したんだよ」

「?」

「何もわからず負けるのも哀れだからな。このオレサマ直々に説明してやるよ」

「!」

「なぁクソガキ、テメェは『超進化』と呼ばれる秘術に関して知ってるか?」

「………………『超進化』?」

「十年前に亡くなったノスウェル家の当主だった竜人族の生き字引。ヴァン・B・ノスウェルが示した新たな考えでな。それまでのオレサマ達竜人族は、下等生物に紛れる際には全身に宿らせている力を『吐き出し』ながら縮んだ。これはお前らと同じ大きさになった場合、竜人族が体内に宿している圧倒的なパワーをそのままにしておくと、最悪の場合体が破裂しちまう可能性があったからだ」


 心底悔しい事ではあるが、絶え間なく繰り出される拳の嵐が、三方向のどこからどれだけの数迫ってくるのか、防戦一方のシェンジェンは把握する事が出来なかった。


 なので完全な直感。

 肩と膝についているペイントボールを守るように体を丸め、被害が最小限になるよう願う。


「けどなぁ『超進化』って技術はちげぇ。体を縮める際、力を外に『吐き出す』のではなく、『凝縮』することを選んだ! つまり!」

「竜人族が持つ圧倒的な身体能力を小さな体の中に集中させることで、想像を絶するほどの力を得るってことか。おっそろしいねそれ」


 結果、シェンジェンは思った通りに二つのペイントボールを守る事はできたのだが、脇腹に付けておいた最後の一つは、草花を吹き飛ばしながら振り抜かれた真っ黒な尾による叩きつけの被害に遭い破裂。


(馬鹿みたいに単純な考え方だけど馬鹿にすることはできないね。だってここまで凄いんだもん!)


 襲い掛かる衝撃を耐える事の出来なかったシェンジェンの体が、木々や草花をかき分けながら再度吹き飛んでいき、少し離れた位置にある壁にぶつかり、体中から空気が抜け咳き込む。


 その際に頭に浮かぶのは、デリシャラボラスが得た力の詳細。

 圧倒的なパワーにスピード。それにタフネスに関してである。


「………………攻撃が当たってペイントボールが二つ割れちまった。完勝とはいかねぇか」


 目に見えぬ勢いで繰り出される刺突の数々から身を守る最中に、シェンジェンは反撃に出ていた。

 それは今回の戦いのルールが的当てな事に注目したゆえのもので、第一に彼は、デリシャラボラスを真正面から打ち倒す事を早々に諦めた。

 その代わりに選んだのは暗殺紛いの方法で、目に見えないほど薄く伸ばした風の刃を無数に撃ち出し、デリシャラボラスが肩や頭部に付けているペイントボールを割ろうとしたのだ。


「気づかなかったぜ。貧弱過ぎてなぁ!」


 その目論見は成功しデリシャラボラスの頭部と手の甲にあったペイントボールは割れたのだが、決して安堵できる事ではなかった。

 なにせその時のシェンジェンは相手が死なないとわかっているゆえに、一切の手加減なく本気で殺しにかかっていた。

 繰り出す刃にデリシャラボラスの身を案じるような心遣いは何もなく、首を飛ばす覚悟で全て撃ち出したのだ。


 だというのにデリシャラボラスの体に目立った傷は見えなかった。

 彼の全身を包む真っ黒な鱗に刻まれている斬撃の後は、どれも表面を僅かに傷つけた程度の成果しか挙げていないのだ。


(聞こえてきた音を聞く限り鋼属性で全身をコーティングしてる感じだね。元々丈夫な体を更に丈夫にするなんてアホかな? いや嫌味か) 


 斬撃が届いた際の鉄がこすれるような音を思い出し、無意味であると理解した上で内心で罵倒。


「そろそろ終わらせてやる。精々足掻け。で、その果てに聞き心地のいい悲鳴を上げろ!」


 そんなことに時間を使っていると、度重なる痛みに屈しすぐに立ち上がる事の出来ずにいたシェンジェンへと向け、デリシャラボラスが悠然とした足取りで近づいて来るのだが、無数の鋭い歯を見せつけ、目と口を歪に曲げている様子を見れば、彼がシェンジェンに対しどんな感情を抱いているかは一目でわかり、


「いやだね。負けるとしても、口だけは閉じてやる!」


 その様子が、シェンジェンの癇に障った。

 なんの了承もなく巻き込まれ、不用意に重荷を背負わされた戦いである。

 正直なところ文句を言いながら立ち去ったとしても文句を言われる筋合いはなかった。


 しかし今、シェンジェンはそんな感情を放り投げ、足元に敷いている雑草を強く踏みながら立ち上がった。

 『目の前にいるうざい奴に負けたくない』という子供っぽい理由を体を支える杖にして、未だ勝機の見えない戦いに挑む気概を見せつける。


「………………その顔、気に入らねぇな。苦痛で歪ませたくなる」


 シェンジェンのそんな態度を見ると、デリシャラボラスの心に更なる炎がくべられ、強烈な敵意を発しながら体を屈ませた瞬間、シェンジェンは勢いよく跳んだのだが、彼は自身のその選択を恥じた。


(やっば。判断ミスった!)


 それは戦闘開始から今まで空に逃げてこなかった理由が、デリシャラボラスからの猛攻の範囲を、不必要に広げたくなかった事であったことだったのを思い出したゆえで、すぐに地上へと降下を始め、


「あれ?」


 そのタイミングでシェンジェンは目にした。

 自分の元へと飛来したデリシャラボラスが、わけのわからないところへと向け拳の嵐を撃ち込んでいる光景を。


「チッ」


 直後に耳にしたのは先ほどまでの上機嫌な様子からは考えられない苛立ちを募らせた舌打ちで、シェンジェンの頭はその意味を知るために凄まじい速度で動き出し、


「まさか………………」


 頭上にいるデリシャラボラスを両方の瞳で捉え、得意技であるエアボムを発動する。

 するとデリシャラボラスは躱す動作など一切見せず爆炎に呑まれていき、一歩遅れてシェンジェン同様熱帯雨林の中へと身を沈めていく。


 体に付けていたペイントボールの内の一つが割れたことなど、一切気にしていない様子でだ。


「そっか。メリットばかりというわけでもないんだ………………」


 その様子を見てデリシャラボラスが背負った物を把握したシェンジェンは、降下をやめ真下にいる対象に視線を注ぎ、


「なら、そろそろ反撃させてもらおっかな!」


 生まれた勝機を手繰り寄せるため、脳を勢いよく回転させ始めた。




 

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


VSデリシャラボラス開始。

タイトルは前回までの十数話を見直しても、見当たらないものの続きになります。


この辺りに関するネタバラシをすると、前話に当たる部分は遥か前、ガーディア・ガルフによるラスタリア襲撃編にまで遡ります。


そこであった今回名前を紹介された人物。ヴァン・B・ノスウェルの行った秘術こそが話の焦点だったために長いロングパスの末のタイトルなわけですね。


次回はここまで大暴れのデリシャラボラス攻略回。

見抜いた弱点を突きながら、シェンジェンが暴れます。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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