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シェンジェン・ノースパスVSデリシャラボラス 一頁目


 昼食として用意された最高のステーキを頬張り、ルーエンスによる案内の終わった午後には竜人族の里で思うがままに時間を過ごす。

 それは倭都やハンティプンで過ごす時間と比べても決して見劣りする事のない贅沢な時間の使い方であり、この場所に旅行に来た一行は、それを全員が享受できるはずであった。


「端的に言っちゃうとさぁ、よく耳にするデリシャラボラスさんの癇癪を僕に止めて欲しいってことでいいんだよね?」

「ドラドラドラ! ズバリと言うじゃねぇか。まぁ否定しきれないんだけどな!」

「勘弁してほしいよ。今の僕は完全なオフなんですからさ!」

「何てこと言いながらも、仕事なら受けるわけだもんな。いい奴だよ、お前さんは!」

「社畜根性が身に染みてると言ってくれ。正直、自分が嫌になってくるよ………………」


 その未来をたった一人奪われてしまった不幸な少年。

 それこそが元のサイズに戻り依頼人エルドラの頭の上で不平不満を零しているシェンジェン・ノースパスで、しかしそんな彼の感想を、外の牧歌的な風景を眺める事の出来ない石の廊下を歩きながらエルドラは否定。


「ま、お前さんの意見も最もだがな。それ相応の礼くらいはさせてもらうさ。それにな、話はお前さんが思うほど単純なものでもねぇ。この依頼は、超がつくほど重要なもんなのさ」

「どういう事さ?」

「余所の人間に告白するのは少々どころではなく恥ずかしいんだが、ここ最近のアイツの蛮行は行き過ぎたものでな。危険思想と呼んでも遜色ないレベルにまで達してんだよ」

「………………危険思想って、どんな?」

「『最強種である竜人族が、わざわざ他者と同じ目線で話し合う必要はない。我々は、この力をもっと世界に誇示すべきだ!』なんて感じさ」

「………………………………具体的には何をするつもりなのさ?」

「アイツの周囲に潜らせていた知り合いによると、すぐ側に迫ってる『記念日』にひと暴れするらしい………………これを見逃せるかお前さん?」

「見逃せないね。ヤバいね。片足どころか腰まで危険思想に浸かってるね。そして監督責任に問われるねエルドラさん!」

「だろだろ? そんなことになってみろ。既にかなり具体的な形にまでなってる『団結商会』の話まで空中分解しちまう可能性がある。それを止める大きな一手になってほしいと俺は思ってるんだよ!」

「僕が思ってるよりも遥かに責任重大ってわけだね。最悪だよ!」


 石作りの廊下を歩く途中で話を詳しく聞いていけば、自身が背負わされた役割の大きさに吐き気を覚え、その全てを最後の一言と共に吐き出しながら、意味がないと理解している上で頭をバシバシと叩く。


「何が最悪だって?」

「『お気楽気分』とまではいかないけど、そこそこ以上に楽しんでた旅行の最中に、責任重大な依頼を受けちゃった今の気分の事だよ」

「そりゃ残念だったな。断ってくれてもいいんだぜ?」


 と同時に辿り着いた場所は、半径二百メートルほどの距離があるドーム状の部屋なのだが、そこは質素かつ殺風景だ。

 真っ白なタイルで四方八方を埋め尽くされたその部屋にはここを訪れた三人以外には何も存在せず、この場所がベルラテスにある他の場所とは大きく異なる世界であることを示していた。


「ちょっと待ってなお二人さん。これをこうして、だ」

 

 そんな中、五十メートルを超える巨体をしたエルドラが虚空に自分に合ったサイズの巨大な立体画面を浮かび上がらせると、あらゆるものを切り裂き、貫くことができるであろう爪で画面の一部をタッチし始め、それに合わせ周囲の空気と風景が変化。


 神教首都ラスタリアに設けられた衝撃や音を外に漏らさず、命の危機を覚えることなく戦える最高の練習施設。


 それを改良して作られた『万能闘技場』と呼ばれているベルラテスの地下にあるその場所は、内蔵している効果を遺憾なく発揮し、屋内一帯に様々な粒子を振りまくと、木々生い茂り湿気100%が特徴の高温地帯。すなわち熱帯雨林の戦場を形成していく。


「既に知ってることではあると思うがこの場所ならお互いが死ぬことはまずない。攻撃を受け負うはずだった傷は痛みに変換され全身に叩き込まれる仕様だからな」

「つまり?」

「敷かれたルールを守りながら、存分に戦えってことだ!」


 周囲に生えている木々よりも高い身長をしているエルドラは、自身の頭の上から飛び降りたシェンジェンの側に自身が見ている物と同じ画面を作り出すのだが、そこに書いてあるルールと共に記されているのは五つの桃色のペイントボールだ。


「今回の対戦形式は今から配布するペイントボールの潰し合いだ。制限時間十分の内により多く相手の体に付けたペイントボールを割った方、もしくは先に相手の着けてるペイントボールをすべて破壊した者を勝者とする!」


 それをどのように使うのかエルドラが説明しシェンジェンが頷くのだが、この時点で、他二人は知っており彼だけは知らない事が一つあった。


「………………形は違うが、十年ちょっと前にやった時と同じルールとはな。オレサマに対する嫌味かクソ親父?」

「ドラドラドラ! 自身の我を通したいなら、あの時できなかった事をやって見せろってことさ!」

「何の話だい?」

「気にするな! ただ昔を懐かしんでるだけだ!」


 それはこのルールによる戦いをエルドラとデリシャラボラスは知っているという事。


 今から十年少し前、今や神の座とその側近となった五人の少年少女が、今と同じように世界に自分達の存在を誇示しようとしたデリシャラボラスと戦っていたという思い出に関してで、


「少し詳しくルールを説明するとな、この五個のペイントボールは同時に複数は割れねぇ! たとえ一気に全てが割れるような攻撃を受けたとしても、万能闘技場のシステムが一ヶ所に衝撃を集中させる作りになっている!」

「つまり、僕がエアボムで一気に全て割ろうとしても、一個しか割れないってことだね」

「そういう事だ!」


 そのときとの相違点をエルドラが説明するとシェンジェンが質問し、返事を聞いたところで不敵に笑いながら口を開く。


「よかったじゃないかデリシャラボラスさん」

「あん?」

「その図体じゃ開始早々に試合終了の可能性があったからね。その時間がちょっとだけ伸びたみたいだよ」


 発せられる内容は傲慢な物言いであれど間違ったものではない。

 ピンポイントに無色透明な爆発を起こせるシェンジェンにとって、パワーとタフネスを備えてこそいるものの、速度面に目立ったものはない上に巨大すぎるデリシャラボラスはカモであり、一気に全て破壊できる仕組みであったとするならば、開始早々に終わる可能性は確かに存在していたのだ。


「俺の図体がデカいから狙いやすいってことか」

「ん?」

「十年と少し前に戦ったムカつく連中もな、同じような事を指摘しやがったよ。だがな、今は違う!」

「それ、どういう事さ?」


 それが愚かな思い込みであるとでも言うように力強い言葉がデリシャラボラスの口から吐き出されるが、その言葉の意味を知るよりも早く審判役のエルドラが開口。


「五つ全部付けたな! なら! いっちょ派手にやっていこうじゃねぇの!」


 抱いた疑問の答えを知ることを諦めたシェンジェンは生い茂る木々の中に身を潜め、空を見上げるとすぐに目に飛び込んで来る巨体をじっと見つめながら風属性と炎属性。それに闇属性の三つの属性粒子を戦場一帯に敷き詰めはじめ、


「それでは! よーい―――――――はじめ!」


 エルドラの豪快な声が戦場一帯を包み込んだ瞬間、目にすることになる。


「え?」


 父であるエルドラよりも大きなデリシャラボラスの黒い巨体が、突如その姿を消したという事実を。


「オレサマが積み上げた十年! 竜人族が新時代を迎えるために必要な新たな力!」

「!」

「それを喰らいな哀れな犠牲者! そして見ておけ愚かで古臭いクソ親父!」


 直後にシェンジェンの耳に届いたのはデリシャラボラスの声であるのだが、それは頭上から響く轟音ではなかった。

 少し離れた位置から、自分と同じ視座から発せられたものであり、


「!?」


 訪れたのは、鼻先から顔面全てへと広がっていく強烈な衝撃。

 そして自身の頭部に付けていたペイントボールが割れた音であった。




 

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


余計な前置き無しの戦闘開始回。

この旅行が始まってからは一度もなかった、主人公であるシェンジェンの戦いが今始まります。


その相手は黒い鱗に包まれた巨竜デリシャラボラスなのですが、彼が仕出かそうとしていることに関して、過去の初登場周りの話を見てもらうとすぐにわかるでしょう。


何にも代わってない、と。


これは彼自身が石頭な事に加えて竜人族がものすごく長寿なため、一般的な人らと比べ変化しにくいからなのですが、それにしても笑えるほど同じです。


とはいえ実力に関しては大きく異なりますので、その辺りに関しては次回で


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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