独立国家『倭都』の旅 一頁目
「それにしても随分と性格が悪いことをする。彼女が来るのなら、最初からそう言ってくれればよかったじゃないか」
「前の戦いの後の険悪な様子を見てたらさ、彼女が参加するって聞いた瞬間、尻尾を巻いて逃げ出すんじゃないかって思ったんだ。だからまぁ、参加する件に関しては一応伏せておこうかと思ってね」
「流石にそこまで警戒しなくてもいいよ。僕だって楽しみにしてたんだ。ちゃんと参加するよ」
「ホントぉ?」
「ホントさホント。確実に、高確率で……たぶん………………きっと、いや行けたら行くさ!」
「どんどん確率が下がってるじゃん。最後のなんて参加しない時の奴だし」
寝台列車を降りた子供たちを出迎えたのはこれまでとは一味違う建物で、いくつもの木を組み立てて作り上げた木造の駅は、賢教の首都エルレインの趣とも異なる、『年月の重さ』ではなく『静かな美しさと奥深さ』を感じさせるもので、先頭を歩いていたシェンジェンとヌーベの二人が肩を並べながら話をする。
「数日ぶりですね大将。お元気でしたか?」
「確か用事があるとかいう事でしたが」
「用事は無事に終わらせたよ。これで皆と共に旅行に参加できる」
そんな二人から最も離れた位置。すなわち最後尾で話をしているのは、同じ高校に通っている東一郎とアレクシィ、それに途中参加の天到勇美であったのだが、その言葉を耳にして良照が振り返った。
「用事、とはなんですか?」
「この季節の風物詩であるお祭りが、ちょうど旅行期間中に始まるんだが、その開催の宣言を今年は私がやらなくちゃいけなかったんだ。だから途中参加にした」
ここで彼女が答えたのはシェンジェンがこのタイミングでこの場所に訪れた理由。
つまり縁日に関する事柄であり、彼女が語った内容を聞き参加者の半数以上が目を輝かせるのだが、直後に駅を出て彼らは目にするのだ。
「こ、これが噂に名だたる大都市『倭都』の姿か!」
「なんつーか異世界に迷い込んだ気持ちに襲われるな」
四大勢力に属さずとも自営が可能な都市。
『独立国家』と呼ばれる枠組みにおいて最大規模かつ最大の戦力を備えていると言われている『倭都』の姿を。
「地面はコンクリートなどで整備しているわけでもなければ、昨日滞在したエルレインのような石畳でもない。これは………………砂利を敷き詰めているのですかね?」
「木の建物がこれだけ連なってる光景もすごいけど、それ以上に服装が変わってるね。これが噂に聞く着物って奴かな?」
まず彼らが気にしたのはガルゴネシアが口にした地面の様子。それに良照が口にした近くを通り過ぎる在住者らしき人々の格好で、過ごしやすい上に動きやすい夏服に身を包んでいる旅行客とは大きく異なっていた。
彼らの着ている着物の主な特徴は、誰もが足元や手首を隠すように裾や袖を伸ばしているというもので、夏ど真ん中にも関わらず汗一つかいていない彼らの姿には目を見張るものがあった。
それこそガルゴネシアや我龍などは修行の一環ではないかと思ったほどであるが、ふと考えてみると、確かに夏の強烈な日差しが当たっているにも関わらず暑くない。
「倭都の特徴の一つにね粒子濃度がどの季節でも最適な事が挙げられるんだよー」
「どういう事でしょうか?」
「夏は暑さに対抗できるような氷属性粒子が他の場所と比べて多くて、冬は寒さに対抗できるような火属性粒子が増える…………そんな最高の立地条件の場所に、倭都は建てられてるってわけ!」
「それでは、時折絵葉書で見るような雪景色というのは………………」
「本当に稀だね。なんてったって冬でも他の場所で言う秋くらいの気温だからねー。ああいうのが見れるのは年一回、いや十年に一回あるかどうかってくらいの確率だよー」
その理由を説明したのは父であるアルと共に何度かこの場所を訪れていたイレで、投げかけた質問の答えを聞くと、ユイが『残念です』と呟きながら肩を落とした。
「意外だな」
「何がです?」
「倭都は黄金の王ミレニアムや、千年前の戦争から蘇った英雄でさえ落としきれなかった難攻不落の土地と聞く。にしては警備がザラだ。こんなもんで本当に守れてたのか?」
別のところでは我龍が隣を歩く東一郎とそのような会話をするが、これに答えたのはこの場所が出身である勇美で、
「それはこの地を守護する三人の将軍と霧雨のおじ様のおかげよ。まぁもしも彼らが崩れるような事があっても、絶対君主である虎王様がいらっしゃる。だからこの地は絶対に落ちない。外敵を阻むための壁もいらないというわけよ」
誇らしげに語る彼女が告げるのは、富士雷膳と那須鉄子という外部に派遣されている二人の最高戦力。それに表には出ない作戦指揮担当と、『粋の隠者』と呼ばれる男に関してだ。
(まぁそれはちょっと言い過ぎだけど、ここは黙ってた方がいい場面だよね)
これに対する反論を、かつての戦争の際、ガーディアの元で過ごしたシェンジェンは持っている。
ミレニアムの進軍に関しては確かに阻んでいるものの、ガーディア・ガルフによる大戦争に関しては彼女の言葉は正しくないのだ。
本当の理由は攻め入る必要のない場所であったということ。
襲撃する理由となる悪人がおらず、二大宗教を隔てる壁を生成する結界維持装置も存在しなかったからこそ、寄り付かなかったというのが正しい。
(………………いやでも気になることも言ってたっけ)
ただ少し考えてみると、完全に否定する事も出来ないと思い返した。
なぜならガーディア・ガルフは気になることを二つ言っていた。
一つは、奥に控える存在は目覚めさせるべきではないという事。
もう一つは、もし目覚めさせてしまい戦うような事があれば、クライシス・デルエスク同様シュバルツにさえ任せる事はできないという事だ。
「シェンジェン君。そろそろじゃないかい?」
「………………そうですね。そろそろ話をしなくちゃね!」
そんな事を考えていると、この地で待っていた勇美に呼ばれ意識を現実に注ぐのだが、そこは真っ赤に塗られた巨大な鳥居の前で、他の者を止めるように両手を広げ、声を上げる。
「さて! 今日と明日の予定をここで伝えさせてもらうんだけど、端的に言うと独立国家巡りをしようと思ってるんだ」
「独立国家巡り?」
とすると側にいたヌーベが訝しげな声を上げ、それに応じるように頷き、
「そう! 今日の夕方までをこの倭都で過ごして、その後転送装置に乗ってもう一ヶ所別の独立国家に行こうと思ってるんだ。行き先に関してはその時に伝えるとして、それまでは自由行動とします。勇美さんが見どころを纏めたショートツアーをやってくれるけど、それに参加せず縁日に参加しても良し! ちょっと離れたところになる観光名所に行っても良し! という感じで動きたいと思います!」
最奥にいる勇美やアレクシィにも聞こえるように告げ、理解したというように数人が頷く。
こうして倭都の観光は始まり、
「なら俺は『拳士の滝』に行くが、お前も来るか?」
「何それ?」
数人が勇美の側に寄っていく中、側を通り過ぎた我龍に誘われると興味を抱き返答。
「十年前までな、原口善っつースッゲェ打撃戦のエキスパートがいたんだよ。で、その人が一時期通って修行してた滝があるらしいんだ。お前さんも拳主体なら行っておいていいんじゃねぇか?」
「………………前から思ってたんだけどさ、やけにボロボロの学ランを着てる理由ってさ」
「………………………………恥ずかしいからあんま人に言うなよ。いわゆる憧れの人の真似って奴だ」
「………………………………………………………………ア、ソウ」
ここで聞いた新情報と自分が過去に行った所業を思い出すと顔中に滝のような汗が流れ始め、
「で、どうする。行くのか?」
「………………………………………………………………………………………………や、ヤメトキマス」
昨日感じた気まずさとは別の理由を前に、視線を逸らしながらそそくさと立ち去る事しかできなかった。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
さてさて旅行編第二章『独立国家観光編』が開始です。
といっても今回のお話は結構穏やか。
今回みたいな風景描写や観光名所巡り。それに賢教でもあった彼らが楽しむ時間を書くような感じです。
別名今後使う場所に関しての紹介回。
派手なバトルはありませんが、出てくる子らの深掘りをできればと思うのでよろしくお願いします。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




