独立国家『倭都』の旅 二頁目
「このお団子おいしいですね! これまで食べた中でも一番ですよ!!」
「お団子にお汁粉。焼き魚にすき焼きにうな重………………あげればキリがないのだが、倭都の食文化は他所と比べ一歩も二歩も先に進んでいる。それを知ってもらえたのだとしたら何よりだ」
我龍と別れたシェンジェンであるが、行きたいと思っていた場所もさしてなかったため、勇美が行うショートツアーに参加する事にした。
その結果最初に訪れたのは『昼食前に小腹を埋める』という名目で訪れたのは、店の左右に掲げられた真っ白な幟に真っ黒な文字で『大吾郎』と書いてある団子屋であったが、その味は良照が顔を綻ばせながら口にした通り確かなものであった。
だんごの上にムラなく均等に塗られている餡子の味はしっかりとした甘味はあれど後味は残らず、二個三個と食べても食べ飽きない。
一緒について来るお茶に関しても絶品で、香ばしい香りと味を備えたそれもまた、二杯三杯と飲むことができるほど優れた品であった。
「ごちそうさまでした………………次はどこに向かう予定なの?」
「倭都の中心にあるお城。虎王様の住処に伺うつもりです。その後は『拳士の滝』に行き、最終的に縁日へ。途中途中でこの場所に関しての説明も入れていくつもりです」
「あぁ。結局例の滝には行くことになるんだね」
勇美が仕切っているこのショートツアーの参加者は、良照やシェンジェンの他にはイレやメイ。それにガルゴネシアがいるのだが、彼等は普段発する事のないシェンジェンのなんともいえぬ声を聞くと、興味深げに見つめてきた。
「なんでこんな反応してるのかって言うとね、その滝で修行してた善さんとコイツってば結構深い因縁があって――――――」
「ストップ! マジでストップ!! 無駄なこと言わなくていいから! 黙ってようねお前は!!」
それに答えたのは本人ではなく隣に居たイレ・スペンディオであったのだが、最後まで言い切るよりも早く、慌てた様子のシェンジェンが急いで彼女の口を防いだ。
「そんな必死に止めなくてもいいじゃない。どうせみんな覚えてないよ?」
その手を何とか外したイレが口にするのは、十年前にあったガーディア・ガルフが起こした戦争に関してである。
「一応そういう風には聞いてるけど、それでも万が一ってのがあるじゃないか! せっかくいい関係が築けてるんだから、それを壊そうとするなって!!」
神の座イグドラシルを下して数日後、蒼野達が関係者たち以外には知らせず行ったことがある。
それが歴史の改変である。
「そこまで気にしなくってもいい気がするけどなー」
これは積の提案により行われた事で、彼はその時点で既に行方不明になっていたガーディア・ガルフと連絡を取り、彼に最強の能力。
すなわち因果律『絶対消滅』を使うよう頼み、その効果を惑星『ウルアーデ』全域に及ぼした。
これによりガーディアらの顔は世間には『バレていなかった』事に改変され、シェンジェンはお天道様の下を歩くことができるようになったのだ。
ただ他の面々に関しては事情が異なり、ギャン・ガイアとゴロレム・ヒュースベルトは顔がバレなくなったとはいえ監獄島の中に幽閉されたままであることを選び、シュバルツにエヴァ。それにアイリーンの三人は、牢屋に閉じ込められるという道こそ選ばなかったものの、『千年前の住民である自分らが現代に深くかかわるべきではない』というスタンスから、身バレしないよう細心の注意を払って動くようになった。
最後に残ったガーディアはと言えばこの一件で生存している事だけは確認でき、それ以来今日まで、誰かの前に姿を表す事はなく、時折まだ生きていることを知らせる連絡を蒼野など信頼できる人物相手に行うようになっていた。
「ここに佇んでいられる虎王様は、少なくとも千年は動いていない人物であるという事で………………シェンジェン君。その………………無理に聞く必要はないと思ってるが、それにしても上の空じゃないか。面白くないのであればすまないね」
「………………いえ! 気にしないでください! 僕が勝手に考えてるだけなので!」
そのような事を考えていると既に団子屋を出てから三十分以上が経っており、気が付いた頃には第二の目的地。倭都を統治する八階建てのお城の玉座におり、そこには今しがた勇美が紹介した人物。
真っ赤な鎧で頭のてっぺんから足のつま先までを隠した伝説の存在。
すなわち虎王と呼ばれる人物が正座したまま微動だにせず佇んでおり、
「そうですか………………では話を続けさせていただきますと、十年前の戦争以降、この倭都で最も力をつけた人物。それが三大将軍が一人富士雷膳殿です。というのも彼はこの数年で、ついに不完全にしか使えなかった神器を完璧に使いこなすことに成功したのです!」
シェンジェンの反応を聞いた勇美が話し出すのは、十年前では未完の大器であった青年。
つまりは富士雷膳の驚くべき成長速度に関してで、彼がそこまで強くなった理由は、当時はまだ完璧には操ることのできなかった神器を、ここ数年のあいだに完全に操る事ができるようになったからであると説明。
「それでは、降りましょう」
天守閣まで登り周囲の風景を一通り見終えたところで、案内人である勇美が真下へと向け跳躍。それに続き参加者全員が跳躍。
百メートルを超える距離の落下を顔色一つ完璧にこなした彼らが周囲の様子を探るように視線を向けたところで目にしたのは、他の場所では中々見られない光景。
数十人から数百人が道場の側にある校庭に集まり、号令役らしき人物の指示に合わせ、水の流れのような自在さで陣形を組む様子。
つまり『一般兵の練度ならば倭都に適う場所無し』などと呼ばれるきっかけとなる訓練である。
「皆様既に知っていると思いますが、倭都に生息している『侍』という生物は、一人一人が精鋭なのは当然の事、周りとの息の合った連携を日夜研鑽しているのです」
自慢げに語る勇美の視線の先には抜身の刀を手にした者。
『侍』と呼ばれている戦士五人が、完璧な形で呼吸を合わせ連携技を繰り出している。
「………………前に見た時よりも一人ひとりの腕が増してる」
その精度も驚くべきとこではあるのだが、シェンジェンが最も気になったのは彼ら一人一人の強さ。
誰もが数か月前に見た時と比べ異常なほど強くなっている様子で、思わず『どれだけすごいコンビネーションを発揮できたとしても、鍛え抜いた個には勝てない』という考えをぐらつかせるほどであった。
「さてと、それじゃあ『拳士の滝』へと向かいましょう」
「あ、じゃあ僕はここで離脱します。他の人で行ってもらえたら嬉しいです」
そんな事を考えていると次なる場所へと移動する時間になるのだが、この時のシェンジェンはまだ知らなかった。
これから起こる、史上初の大事件。
その当事者に自身がなるなど、想像もしていなかったのだ。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
夜分遅くに失礼します。作者の宮田幸司です。
今回の話は説明回。
倭都に関しては当然の事、真に重要なのは三章の後始末に関して。
そしてガーディアが一応生存していることの証明です。
と同時にものすごい不安を煽るような引きですが詳しくは次回で。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




