子供達、エインセルを観光する
「ご馳走様でした………………いやぁ、これが賢教の伝統的な料理なんですね」
「我が家の給仕係が作った者よりもおいしい事は認めます。ですけど………………………………普通すぎる献立でしたわね」
一夜明け午前八時、食堂に食堂に十人以上の若者ができたての朝食を口にするのだが、出てくる感想は良照とメイが口にしたものは相応しいものであった。
こんがり焼かれた食パンにバターとイチゴジャム。コーンスープと新鮮な野菜を使ったサラダ。それにケチャップが添えられたスクランブルエッグとカリカリに焼かれたベーコン。
飲み物は牛乳にリンゴジュース。コーヒーに紅茶と多種多様なものが揃えられていたので目を見張るものがあったのだが、食事を始める直前に言われた『伝統的な料理』という言葉に関しては首を傾げる献立だったのだ。
「確かに極々一般的なものだけどさ、それが逆にすごい所なんだよね」
「どういうことですか?」
「普段から食べてる色々な料理のルーツ。それが全て賢教から始まっていると考えると、感慨深いものがあるんじゃないかな?」
これに答えたのは歴史のテストに関してはいつも満点近い点数を取っている馬郎で、それを聞くと幾人かが納得した様子で頷いた。
ギルドや神教、それに貴族衆などどの勢力と比べ比較にならないほど長い歴史の積み重ねを持っている賢教。
それがどれほど自分たちの生活の基盤となっているかを思い知らされるという意味では、今朝の食事は満点であると思えたからだ。
「お、おはようございますぅ」
「!」
「あ、あ、そ、そんなに警戒していただかなくても大丈夫です! きょ、今日はぁ、いい物を貰って来たんです!」
そんな風に思っていると、朝食を取っていた彼等の前に見覚えのある姿が現れる。
昨日と変わらず腕に包帯を巻き、気弱そうな表情と自身のなさそうな声を上げているのは案内役を務めるリイン・アンリアルで、彼女の姿を見たと同時に数人が身構えると、発した言葉の意味を伝えるため、黒いローブを身に纏ってなお存在感を主張する胸部の前にぶら下げている星型のネックレスを彼女は持ち上げた。
「それは?」
「エインセル様が貸してくれたんです。な、なんでも幸運の上昇に関する能力が付与された物らしくて、こ、これを持ってるなら貴方の運勢も普段よりもよくなるでしょうって………………」
「それはいいですね。可能であればエインセル様に頼み込んで、ずっと持っていられるようにしておいた方がいのでは?」
その効果はまさに彼女が日頃から最も必要としているもので、昨日負った怪我を全て直したガルゴネシアが尋ねかけてみるのだが、彼女は首を左右に振った。
「ざ、残念ながらずっといただけるわけではないんです。付与された効果が永遠に続くネックレスはとっても希少だから、今日中には返すようにって」
「持続可能なタイプで、しかも『永遠』と来たか。そりゃ一信者にずっと渡しておけるものではないね」
「い、一応言っておくと、これでもまだ一般人並みにはギリギリ届かないらしいです。で、ですからぁ、一応周りの警戒はお願いしますね!」
「改めて聞くとおかしな話だよな。なんで観光に来て必要以上に身の危険を感じなきゃいけないんだよ」
その理由は納得できるもので、頬杖をしながらシェンジェンは同意したのだが、なんにせよ今日一日の運勢は昨日よりも遥かにマシであるという事で、我龍が少々の不満を漏らしつつも、彼等は部屋の外へと移動。
「え、ええと、まずは内部の案内をさせてもらいますね」
「「はーい」」
自分達が一夜を過ごした賢教のど真ん中。『賢者の栄華』の中を学生らしい間延びした返事をした後に歩き始めていく。
「ま、まず初めにこの石造りの古城に関してなんですがぁ、伝説によると賢者王様が初めて建てた大型建築物とのことで、これを披露する事で、当時の人に『粒子を扱う』という事が手品ではなく魔法に属するものであると証明したとのことでぇ………………」
その途中で語られる内容の大半が初代教皇の座。すなわち賢者王と呼ばれている人物の偉業で、それに合わせて歴代の教皇に関しても多少ながら触れていく事があった。
賢者王に直接選ばれた二代目教皇の座や、数年前に亡くなるまで数百年に渡り賢教を支えたアヴァ・ゴーントに関する話。
加えて捕まってしまったものの、歴代信者の中でも指折りの傑物であったクライシス・デルエスクに関しても触れていった。
(今度会った時に聞いてみようかな)
それらの話を聞きながらシェンジェンがふと思い浮かべたのは、つい先日遭遇した人物との記憶。
すなわち自身w本物の賢者王であると名乗る金髪の少年に関してであるが、正直なところ。シェンジェンは自分よりも小さなあの少年が本物の賢者王であるとは全く信じていなかった。
「こ、こちらが初大賢者王様の肖像ですっ!」
「絵ではなく写真ですね。本物ですか?」
「あ、はい。本人が持っていた能力を使って、絵ではなく写真で残されています。ま、まぁ、当時は写真なんてものありませんでしたから、言葉としては不適切かもしれませんが………………」
なにせ姿が大きく異なる。
今自分の目の前にあるのは金の額縁に収められた一枚の肖像であるのだが、長く伸びた白髪や鷹のように鋭い瞳。それにこけた頬などは、賢者王として自分に接してきた少年がどれだけ時を経ても得られないものであるように感じたのだ。
「えっと、次は城下町を歩き回りましょ………………ヒャウ!?」
「あ、何もないところで転んだ」
「まぁワタシ達に被害のない不幸なら問題ないでしょ!」
内部の案内は一時間と少しで終わり、次に回ったのは古城周辺に広がる城下町で、彼等はそこで昼食を行い、一部の者は『過去に実際に使われていた正装』という事で売られていたとんがり帽子や杖を購入。
年齢相応のキャッキャとした声を上げる中、別の者達は『エインセル名物 色変わり綿あめ』と書いてあるものを買い、色の変化を堪能していた。
「え、えっとですね………………案内の予定はここまでです。あの、その………………約一日半、本当にありがとうございましたぁ!」
全ての解説が終わったのは十五時半過ぎで、それから彼女に見守られる中、およそ二時間程の自由時間を堪能。
十八時直前に集まった頃には日が傾いており、そんな景色を背景にしてリインが勢いよく頭を下げた。
「本当に、本当に無事に観光を終えられてよかったですっ! だ、誰か死んじゃったらどうしようって………………私ずっと思ってたんです!」
「縁起でもないこと言わないで下さいよ………………」
次いで彼女が物騒な話を始めると何人かが呆れた様子で笑い出すのだが、そんな中、シェンジェンだけは別の事柄に思いを馳せていた。
(会えなかった、か。残念だな)
今回の大旅行を行う際に、シェンジェンは蒼野から賢教絡みの課題を貰っていた。
それが賢教の現状を調べる事であったのだが、その中には隠居中のシャロウズ・フォンデュ。それに賢教のどこかで身を寄せている古賀康太の様子を見るというものが含まれていた。
なので彼は今朝から風属性粒子を周囲に散布させ二人がどこにいるか探っていたのだが、結局見つける事が出来ず、その結果に関してだけは不満を抱いていたのだ。
「そろそろ電車が来る時間だ。大丈夫かいシェンジェン君」
これに加えてエインセルから頼まれた最後の四星創作に関する手がかりも見つからなかった。
そのため『観光』という意味では満足できたものの『任務』という意味では不満が残る結果に終わっていた。
「あ、うん。問題ない問題ない」
しかしである。今回の最重要課題はこの旅行を楽しむ事である。
それがわかっているゆえにさして気落ちするような事もなく、ヌーベに大声で呼ばれたシェンジェンは急いで他の面々の元へと移動。
分身ができる勢いでお辞儀を続けるリインに見送られる中、他の者らと一緒に次なる目的地へと続く列車に乗り込んだ。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
シェンジェンの大旅行における最初の目的地。賢教編はこれにて終了。
結構長いこと続きましたが、おそらくこれが今回の旅行で一番長い章になると思います。
ところで今回の話で触れた康太ですが、振り返ってみると少年時代編の最後から100話以上出てないんですね。ちょっと意外です。なおそれは積も同じ模様。
さて次回は新たな土地へ。行き先に関しては初めて訪れる場所となります
それではまた次回、ぜひご覧ください!




