更ける夜、最初の終わり
ガヅッ! ゴンッ!
グシャ!!!!
ッ!!!!
「クソ雑魚が。余計な手間をかけさせやがって」
「ジャック三枚!」
「甘いね。キングが三枚! これで僕の勝ちだ!!」
「残念だったな。エースを三枚だ。ジョーカーも出尽くしたし2のカードも半分は出た。これに叶う奴はいねぇな?」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!? 何してるんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 僕の華麗で美しい道が崩れたじゃゃゃゃん!!?」
「恨むなら俺様の運かお前の不運を恨め」
「チクショ―。明日の朝、頭を爆発させてアフロにしてやるー」
「一々物騒なんだよテメェは!」
午後十一時半になり悲喜こもごもな声が部屋を満たす。
シェンジェンら男性陣はが集まっているその部屋は、並大抵の額ではない事が伺える調度品と雑魚寝するのにちょうどいいように布団がいくつも敷かれた大部屋。
より詳しく言うのならば賢教の総本山たる古城『賢者の栄華』にある貴賓室の一つであったのだが、そんな場所に泊まる事になった経緯には、現在教皇の椅子に座っている女性。
すなわちエインセルが大きく関わっていた。
「この度は私の統治する領土内でご迷惑をおかけしてしまって申し訳ありません。ホテルや旅館と比べるとサービス面では行き届いていないのですが、『賢教の栄華』にある一室でご宿泊していただければと思うのですが如何でしょうか?」
「………………え?」
「はぁ!?」
「あの………………ご冗談ではありませんのよね?」
「もちろんです。ただ残念ながらサービス面や設備に関しては一流ホテルに劣るのですが、それでも歴史と格式だけはどこにも負けないと自負しております。いかがでしょうか?」
今回の大旅行に関して賢教の代表として名を連ねていた彼女は、やってきた子供達が大変な目に遭ってしまった原因が自身にあると説明した後にそう提案。
二大勢力の一角を統治している人物がわざわざ現れ謝罪をしているという事実に絶句していたシェンジェンらは、その後の提案に驚きはすれど言葉を挟む余裕はなく、ただ受け入れる事しかできず、共に『賢者の栄華』の正門前まで歩いてきた後、客人向けに用意された部屋の鍵を男女別に一本ずつ渡された。
「あぁそれと、彼女はこちらで預かっておきましょう」
「ふぇ、ふぇ!?」
「いいんですか?」
「今回の件の原因は彼女の特殊な異能のせいでしょう? でしたらその対策もあるので問題ありません。それに、彼女が近くに居ると、また不幸な目にあるのではと思って落ち着けないのでは?」
「えーと………………それじゃあ頼みます」
シェンジェンらにとって最も嬉しかった事は、別れ間際にエインセルが言った一言にあり、彼女は最後尾で小さくなっていたリインの服の裾を右手で掴むと、左手でメガネの縁を持ち上げながら執務室のある最上階まで引きずっていった。
「僕はツーペア」
「俺はワンペアですね。中々上手くいかないもんですね」
「ぶ、ブタァ………………」
「フルハウスだ」
「さっきから思ってるんだけどさ、デカブツの運が異常じゃない? カードの交換は一回だけなのに、ストレート以下を一度も出してないじゃん。イカサマしてる? 爆死する?」
「してねぇよ。てか逆にお前はクソみてぇな運だな。十回以上やってブタとワンペアだけってどれだけ運がねぇんだよ」
そうして正門前に残された一行は、古城『賢者の栄華』の近くにある大衆料理店で食事を済ますと、割り当てられた部屋に帰還。
朝から積み重ねていた疲労さえ忘れてカードゲームに興じていたのだが、我龍は自身の豪運に関しては気にかけず、しかしシェンジェンの結果には冷笑を飛ばした。
「運が悪いって言ってもポーカーに入ってからじゃん。本当に運が悪い人っていうのはね、もっとひどいもんだよ。ポーカーで言うなら五十回以上ずっとブタ続きだったりする人の事を言うのさ」
「馬鹿言うな。そんな奴いるわけねぇだろ!」
「それが居るんだよね~。イヤホント、世の中って広いよね~」
続く発言を受けたシェンジェンが頭に思い浮かべたのは、これまで出会った人らの中で間違いなく最強であった男の後ろ姿で、それがみるみるうちに小さくなっていった愉快な記憶を思い出しながら頬を緩ませ、
「おっと電話だ。少し席を外すよ」
「そう言って、これ以上負けないための策だったりしませんかい?」
「そんなズルしないって。失礼しますね」
物思いに耽っている最中に懐に収めていた電話が揺れ動き、片目を閉じながら行われた東一郎の軽口を躱しながら奥にあるベランダへと移動。
「もしもし。どしたのさ蒼野さん」
『送ってもらった奴。確かエスカッティ・バンピーロとか言ってたよな』
「らしいね。詳しい事は知らないけど、本人に聞けばわかるでしょ。流石にそこまでは隠しはしないだろうしさ」
石造りの頑丈な手すりに体を預け、夏らしさを感じさせる生暖かい風を堪能しながら電話の向こうにいる相手。
立場上は上ながらも見知った相手であるゆえに気安い様子で語り掛け、
『残念なことなんだけどな、本人の口からはそんな簡単な事も教えてもらえないようになったよ』
「どういうこと?」
「件の人物なんだけどな。殺されたよ。賢教を出るよりも早くに襲撃されてな」
「………………………………え?」
『もう少し詳しく言うとな、エヴァさんの用意した護衛の連中の首を全て潰した上で、全身の骨を砕き尽くされて絶命してたよ』
続く内容を聞き、息を詰まらせる。
『楽しい旅行の最中なんだ。こんな嫌な話をするべきか迷ったんだけどな、現場にいた手前、一応報告しておこうと思ってな』
「………………そっか。気を使わせてごめんね」
『用件はそれだけだ。こんなことを報告しておいてなんだが、明日からも友達との旅行を楽しんでくれ。俺も他の連中も、それを心から願ってる」
「うん。ありがとう。おやすみ」
それから事件の捜査などの面倒事を押し付けられるような事はなく、あいさつをした直後にシェンジェン通話を終わらせるのだが、その時頬を撫でた風には不穏な気配を感じた。
自分の知らぬところで蠢いてる大きな陰謀。
その匂いを肌で感じ取ったゆえに。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
ホテル『バンピーロ』編およびに旅行初日はこれにて終了。
最後の最後に不穏な空気の話になりましたが、この事に関しましては今スグに説明できることはありません。
なので後々のお楽しみに取っておいてください。
さてさて、今後の話でもまた語る気がしますが、今回の旅行は結構目的地が多いです。
なので賢教での話はもう少しだけなのですが、次回はシンプルな観光話。
彼らの平和な日常編です。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




