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ACELERAR


 戦いを進めていく最中に行われた鮮血女帝エスカッティ・バンピーロの考察は全て正しい。

 ヌーベ・レイの持つスカーフの神器『ブファンダ・コンプレシオン』の持つ力は、自分を含めたあらゆる物体の『圧縮』であり、彼が攻撃を瞬く間に躱した方法に関しても間違っていなかった。


 けれども一つだけ、彼女は気づいていない事があった。


 それは全ての神器が持つ能力無効化に関する判定に関してで、端的に言ってしまうと彼女はその定義を見誤った。


(これ、は………………!)


 神器が無効化する能力というものは、大別すれば二種類に分けられる。


 一つは、二つ以上の属性を混ぜ発現した『理に背く特殊な力を物質』である。


 水と炎属性を混ぜて発現する『触れたもの全てを燃やす水』。

 雷と風属性を混ぜて発現する『敵を切り裂く鋭さと硬度を秘めた雷』。

 風と炎と闇属性を混ぜて発現する『触れたものを爆発させる無色透明の風』。


 他にも様々な、単一属性では起こるはずがない『異常な現象』を、神器は理から外れた物事であると判断し無効化する。


 もう一つは特殊粒子を使ったもの


 『時間操作』に『空間操作』

 『必中』に『無敵』

 『本体と同性能をした分身の大量発生』や『あらゆる事象の自由な操作』など、多岐にわたる反則的な能力の悉くを神器は不要であると断じ消滅させる。

 これは最強の能力である二つの因果律とて逃れられない。


 見方を変えればこの枠組みから外れた場合、全ての神器が持つ能力無効化の理を突破できるという事。

 『単一属性で可能な事柄』であるとすれば、能力として行使した力も無効化されないのだ。


 炎属性をどれほど能力で熱くしても無効化されないし、氷属性の特性である冷気を能力で強化しても無効化される事はない。

 水属性の回復力を極限まで高めたとしても、それが理を破り過程を全て吹き飛ばすような不条理なものでなければ、神器は容認する。


 そしてその例をヌーベが持つ神器の能力『圧縮』に当てはめた場合、自分自身を紐のように細長くする行為は神器の能力無効化に引っかかるが、属性粒子を極細のレーザーに変えるところで無効化される事はない。


 『属性粒子を圧縮し特性や威力・貫通力を高める』という行為は、誰だって行っている普遍的な事柄。

 不条理なことなど何一つとして行っていないからで、この特性を正確に把握しているゆえに、ヌーベはこの神器を賢教が抱える樹から生まれたものの中では当たり、もしくは大当たりの部類であると考えていた。


「っ!」


 判断を誤った女帝が、一歩二歩と後退し体を後ろに傾ける。

 全身の至る所に直径一センチほどの風穴を開け、大量の血を吐き出しながら尻餅をつく。


(瞬時に全身を治せる再生能力や術技を持っているわけじゃない、か。ならここで一気に決める!)


 この好機をヌーベは逃さない。

 己が側にまで迫っていた神器の箱を寸でのところで躱すと、羊毛を連想させる白の長髪をたなびかせながらかき混ぜられ柔らかくなっていた地面に着地し、今しがた彼女を射抜いた物と同じ、属性粒子を超圧縮した貫通弾を続けて発射。


「agra!!」

「ッ!」


 その行く手を遮ったのは彼女が最も信頼する下僕マルコラーブで、迫る貫通弾の射線に自身の体を飛び込ませると、神器の持つ硬度によって次々と弾いていく。


「………………っ」


 その衝突は五秒ほど続き、全てが終わったところで周囲に広がっていたのは、飛び散った雷熱の余波により生まれた焼け焦げた地面や、冷気により凍った地面で、難を逃れた鮮血の女帝はと言えば、覚束ない足取りではあるが闘気を滲ませながら立ち上がった。


「………………………………癪だけど認めるわよ。手を抜いてたって。けど当然でしょ」


 体中に空いていた風穴全てを塞いだわけではない。

 けれど十全に動くことができる程度には肉体の修復を終えた彼女は腕を掲げ、するとマルコラーブに繋がっていた鎖が凄まじい速度でかざした掌へと集まっていき、


「ロッセニムで長年トップの座に就いてた英雄が、まだ二十歳も超えていない子供相手に本気を出したなんて。身内に知られたら面倒で仕方がないのよ。貴方にそれがわかって?」


 細長い黒鉄色の棒へと変貌したかと思えば、それまで主を守るよう前に立っていた神器の箱が跳躍。

 掌に乗ることができるサイズまで縮小したかと思えば、彼女が手にしている棒の先端部に正方形の立方体として収まり、


「けどそれもここまで。たとえ恥をかく事になろうとも――――負けるよりは遥かにマシよ」


 体の至る所に血を滴らせたまま手にした杖の先端部をヌーベに向ける。

 それはあまりにもわかりやすい宣戦布告であり、直後に彼は体感するのだ。


 自身のように『与えられた神器』の使い手とは異なる、己が技を磨き続け会得した『本物の神器』の担い手というものを。


「ッッッッ!!!!?」


 瞬く間に距離を詰めたエスカッティ・バンピーロによる杖の一薙ぎが、咄嗟に屈んだヌーベの頭部を掠める。

 すると具体的な事を考えるよりも早く、全身から発せられる警報に従いヌーベは後退。

 距離を詰められぬよう無数のレーザーを撃ち出すが、それ等は目にも留まらぬ速度で振り抜かれ続ける杖により全て叩き落とされ、開いた分の距離を詰めるようエスカッティ・バンピーロが再度前進。

 姿を眩ませるべきであると判断したヌーベは自身の体を紐状に圧縮し、地面の中を潜りホテル内部へと移動。

 そのまま水道管の中を通り続け屋上にまで移動し元の姿に戻ると、十分な距離が空いていることを把握したうえで周囲に属性粒子を圧縮したレーザーを無数に展開。

 照準を未だ同じ位置に佇んでいるエスカッティ・バンピーロへと向け、


「agra」

「なにっ!?」


 そのまま撃ち出すよりも早く、彼女が手にしている杖の先端部から聞き覚えのある声が発せられ、見覚えのあるギザギザの歯を見せるように口が開いた直後、正方形の立方体から見覚えのあるレーザーが撃ちだされる。


 それはまさしく、つい先ほどヌーベが撃ち出した物。

 神器の箱が叩き落とすタイミングで食い、飲み込むことなく口内でため込んでいたものであり、


「そこね」


 下僕の活躍によりヌーベの位置を把握したエスカッティ・バンピーロが、開いていた距離を一度の跳躍でゼロに。

 ヌーベはクラウン・クラウドで増幅した雷属性を纏い反射神経を飛躍的に上昇させながら回避に徹するが、繰り出される杖術はその程度の抵抗を嘲笑う。

 最初の一振りで身構えていたヌーベの両腕を上へとかち上げると、先端部についている立方体を鋭利な刃物へと変貌させ、目にも止まらぬ速さで前後させ、


「お返しよ。気に入ってくれたかしら?」


 数分前、彼女の体に作られた風穴と同じ数かつ同じ位置に刃が突き刺さり、ヌーベは全身から鮮血を吹き出す。

 次いで勝負を決するべく袈裟斬りが繰り出され、


「………………また姿を変えたのね。けど今度は紐じゃない。もっと小さな………………飴玉とかかしら?」


 ヌーベはそれを隠していた手札。

 自身の体を最大まで圧縮する事で成し得る事ができる、掌に収まるサイズの飴玉へと変化しやり過ごすと、地面に着地する直前に紐状に変化。

 再度地面の中に潜ると安全圏であろうホテル内部、入り口から入ってすぐにある豪奢な調度品が並べられたロビーへとたどり着き元の姿に戻るが、そうして一時とはいえ危機的状況から抜け出し冷静さが戻ると痛感する。


 同じように神器を持ってはいるものの、自身と相手の間には、大きな差があると。

 真正面から張り合ったとしても絶対に勝てないと。


(十分に時間は稼げたかな? 最後の一手に移っても問題ないかな?)


 とはいえ、それが諦める理由になることはない。

 ヌーベは自身の真骨頂が遠距離戦にあることをしっかりと理解しているし、勝利への道筋を既に構築しているのだ。


「無意味な追いかけっこはやめてもらいたいものね」


 だからこそ彼は、ホテルと外を隔てる外壁を砕き中に飛び込んできたエスカッティ・バンピーロを前に覚悟を決める。


 勝敗を決する時が来た事を悟り、腹を括った。




ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


今回のタイトルは日本語訳で『加速する』。

ヌーベの名前や神器の名称がスペイン語由来なので、タイトルもそれに合わせました。


ただ彼に関するタイトルではあれど、本気を出して攻勢に出たのは相手であるエスカッティ・バンピーロ。

闘技場で勝ち続けていた本来の姿。

血を使った人形やマルコラーブに頼らぬ近接戦闘に特化した姿を披露しました。


これに応対するヌーベには策ありの様子。

その結果は次回で。可能ならば勝敗の提示まで一気に行ければと思います。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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