不幸女リインさん!
目の前の光景をホテル『バンピーロ』の主エスカッティ・バンピーロは信じられなかった。
それというのも彼女が駆使した一手が覆されたからであり、『なぜここにいる』とでも言いたげな視線が、年齢より遥かに老けて見える少年。すなわち刃渡東一郎へと注がれる。
「俺一人だったら、あそこで消耗しきって終わりだったでしょうね」
その胸中を察し、片目を閉じ苦笑した彼が親指で指した先にいるのは瀕死の重傷を負ったガルゴネシア。
「ま、待っててくださいねぇ。ちゃーんと助けてあげますからねぇ………………ひぇ!?」
そして側に駆け寄り彼の治療を行っているリイン・アンリアルの姿であり、射抜くような視線に突き刺された直後、彼女は大きく体を揺らした後、あろうことか回復させなければならないガルゴネシアの影に隠れ、両手と両足を地面につけ体を丸め、顔だけは持ち上げた状態で口を開いた。
「え、えと………………た、たぶん私が居たせいで、皆さんが不幸になったんじゃないかなぁって思うんですよね」
「不幸ですって?」
「ひぃ!? す、すいませぇぇぇぇん!!」
エスカッティ・バンピーロは知らない事、いや彼女だけでなく東一郎も実際に体験するまで知らなかった事であるのだが、リイン・アンリアルが生まれつき授かっている異能『不幸』というものは、周囲に感染するタイプのもの。
すなわち彼女の周囲に居る者達にも届くのだ。
そしてその対象は、生物非生物の枠組みさえ飛び越える。
「アンタの放った人形らは、偶発的に起きた不幸の連続で負けちまったってわけさ」
つまり彼女と東一郎に襲い掛かった存在。
エスカッティ・バンピーロが使役していた再生能力持ちの襲撃者とて対象に含まれており、各々が持っていた自己再生に必要な核たる部分。
左目や右手の甲。左足のくるぶしやへそ等に、時には東一郎が繰り出した一撃が偶然ぶつかり、時にはいくつもの偶然が重なり生み出されたピタゴラスイッチに巻き込まれ消滅していったのだ。
なお、この彼女の特徴に関しては既に西本部内で知れ渡っており、この特性を活かすために裸一貫で戦場のど真ん中に投げつけられる事が、彼女にとって最大の悩みの種である。
「………………大雑把にだけど事情は分かったわ。それで貴方は?」
「そこで意識を失ってる彼の通ってる高校の系列校の生徒会長をやってる者だよ」
「ずいぶんと離れた縁ね。ここでわざわざ出張る理由があるの?」
その辺りの事情に関して言葉通り大雑把にだが把握した彼女が次に目を向けたのはもう一人の乱入者。すなわちヌーベ・レイで、問われた彼は薄っすらと微笑む。
「僕は系列高校八か所における最高位。言い換えればトップに立つ立場でね、下の者が酷い目に遭ったとなれば見過ごす事はできないさ。それに」
「それに?」
「それ抜きにしても一緒に旅行するくらいの仲ではあるんだ。敵討ちをするのは、さしておかしなことじゃないだろう?」
そのまま発せられた言葉を聞き、エスカッティ・バンピーロは一切日焼けしていない額に手を添えながらため息をつく。
馬鹿馬鹿しいと吐き捨てる類の理由であるが、納得できるものであったゆえに。
「面倒事は貴方で最後にしたいものね」
新たに現れた邪魔者を片付けるため、視線だけでなく体を向け、応じるようにヌーベが掌を持ち上げ己が能力である天候を支配する雲を広げていくと、周囲の状況を探っていた東一郎が回復作業に明け暮れるリインと、意識を取り戻し呻き声を挙げるガルゴネシアの側にまで急いで移動。
「ふん、ぬ!」
野太い声を上げながら友人の体を持ち上げると、側にいるリイン共々距離を取ろうと考え、
「ヌ、ヌーベさん」
「?」
「彼女に関する記憶や考察を、能力で固めたものです。受け取ってください………………!」
「…………申し訳ないけど口頭で教えてもらってもいいかい?」
「な、なぜ!?」
その直前に、ガルゴネシアは自身の能力で生成した光る塊を掲げながらそう告白。言葉通り申し訳なさそうにするヌーベに対し戸惑いの声を上げ、
「今の私は他者の能力を無効化してしまうんだ。最低限でもいいから言葉で説明してくれると助かる」
「………………彼女が使役する箱は神器。能力として血と属性粒子を混ぜるものを所有しており、見た目から判断する事は不可能。それに私以上の怪力です!」
けれど帰って来た答えを聞き全てを察し、本当に最低限ではあるが伝えなければならない事を急いで告げ、
「ありがとう。気を付けるよ」
彼らしい余裕を感じさせるのんびりとした声で応答し、同じタイミングでガルゴネシアらに向け赤い津波が接近。
それが第二戦の始まりを告げるゴングとなった。
「彼らに手出しするのは止めてもらいたい。貴方の相手は僕だからね」
即座に動いたヌーベが、自身から視線を外したエスカッティ・バンピーロへと右手の掌を向け、視界を埋める勢いの雷撃を撃ち込む。
「マルコラーブ!」
「agra!」
「おっと!」
(学生が放っているとは思えない威力の遠距離攻撃。それに迫ってくるマルコラーブに対する回避行動の迷いのなさ。さっきの子よりニ、三段階先を進んでるといった具合かしら)
彼女はそれを跳躍して躱すと、己が切り札に指示を。
これを回避する姿に、追撃で放った血の三日月を神器による能力無効化でやり過ごした様子を見てそう判断。
「名の知れた戦士になれるだけの実力はあるようだけど――――その程度の相手に負けるほど私は甘くはないのよ坊や」
その上で彼女は自身の勝利を疑わない。
ヌーベが未だ奥の手を見せていない事をしっかりと把握している彼女は、まず隠している力を出させようと画策。
側に控えている神器の箱をホテル最上階へと届く勢いで跳躍させると、落下させながら巨大化。
「おっと!」
その大きさはヌーベの最高速度を見切った上で繰り出されたもので、彼女の思惑通り、ヌーベはギリギリのところで躱しきる。
「貰ったわ」
「そんな簡単に勝ちを譲るつもりはないよ」
「!」
そうしてヌーベの余裕を大きく削ったタイミングで撃ち出した鮮血の杭であるが、これは彼の放った雷撃で焼き尽くされるが、それも想定済みである。
(目の前に迫った障害を退けただけで僅かでも気を緩めるなんてね。やっぱり経験の足りてないおこちゃまね)
地中に設置していた鮮血の杭は未だ健在で、たとえそれを躱せたとしても、更なる迎撃をするためのマルコラーブが既に背後を奪っている。
つまり状況は彼女にとって極めて都合のいいもので、
「一つ、手品をお見せしよう」
その思惑を砕く声が、彼女の真っ赤な瞳が見据える少年の口から発せられる。
次いで巻き起こったのはヌーベの頭上に控えていた巨大な雲による大雷霆と氷柱の雨で、これ等全てを防いだ彼女は、その直後に目を見開く。
「消えた!?」
全ての障害を捌きながらも決して目を離す事はしなかった幼き戦士。
彼の姿がたった一度瞬きをしただけでなくなったゆえに。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
第二回戦が始まりましたが、その前に東一郎殿側で何があったのかの簡略的な説明を導入しました。
この力を持った彼女を戦場のど真ん中に投げつけた場合、火薬を使った武器はもれなく暴発。撃ち出した遠距離攻撃の流れ弾が味方に当たり、普段は上手く行っている連携はグダグダになるため、本人の戦闘能力は皆無に近い割に、結構投げられています。悲しいね。
なお、本編において最もアンラッキーな男。果て越えガーディア・ガルフの側に置いた場合、五分に一回の頻度で隕石が落ちてくるレベルの不幸が訪れます。すごいね。
次回はヌーベの行った手品の種明かし。そして彼の持つ神器が姿を表します。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




