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十年後、エルレイン


 列車強盗による襲撃が三回。

 側に座っていた子供によるお菓子の投擲が二十二回。

 そして線路からの脱線による命の危機が五回。


 それが、リイン・アンリアルという名の自動災害生成装置を連れて列車に乗った事による結果であった。


『まもなく――――エルレイン。ご降車予定のお客様は――――――」

「あ、あのぉ………………ほ、本当にすいません………………………………!」

「は、はははははは。いいんですよ。旅にトラブルはつきもの、なんて言葉がありますからね」

「だが………………すぐに宿に向かいたいな。体が………………きちぃ」


 八月中旬の午後四時。

 夏のど真ん中ゆえに未だ陽光が照り付けるその時間に、シェンジェンら一行は目的地エルレインに辿り着くのだが、その様子は旅行初日の物とは思えない。

 木属性粒子を大量に込めて作り上げた、自然に生み出そうものなら十万年かけてもできない大樹。

 それを根本付近で真っ二つに切り、その上に作り上げられた木造の趣のある駅に降り立った十数人の子供達。

 彼らが体から発しているのは、これから一週間以上ものあいだ続く楽しい出来事を待ち構える幸福なものではなく、いくつかの死線を潜り抜けてきた戦士が見せる疲労困憊なもので、謝るリインに言葉を投げかけるヌーベと我龍の姿は、普段からは想像できないほど弱弱しい。


「………………………………いや待て! 何だこりゃ!?」

「賢教の中心地エルレインだよ………………いやそうか。君は初見か。なら驚くよな」


 そんな二人であったのだが、なんの目的もなく頭を持ち上げた我龍が声を上げる。

 彼がそのとき目にしたのは、山の麓である現在地から斜面に沿って構築された巨大な山脈都市。


 貴族衆という場所は、大量の資金をつぎ込むことで世界中の最新設備や便利な技術、他にも見目麗しい物を揃えた事で形成された都市が多いが、エルレインという場所にそれらの要素は存在しない。

 ここにあるのは『賢教』全域で研究された粒子術の数々で、斜面に沿って作られた石造の建物はどれも清潔感を気にした様子はなく苔だらけで、上へと続いている坂道は、貴族衆に属する都市のように整備されておらず凹凸が目立つ。

 この場所の住民らしき者達が着ている服は数時間前に会話したマージィアや側にいるリインのような黒いカソックが多く、会話する内容は日常の雑多な物よりも知識の追求の割合が多い。


「えと、あのですね…………よ、ようこそエルレインへぇ!」


 そんなこの場所を過半数のメンバーが物珍しげに見つめていると、案内役であるリインが列車から降り、その際に駅と列車の間にある溝に足を引っかけ横転。

 すぐに立ち上がると、事前に用意していたであろう台詞を、上ずった声で口にした。


「で、どうする~。一回宿に行く?」

「宿の場所ってどこでしたっけ?」

「今は亡き教皇様が座していた賢教の象徴たるお城。『賢者の英華レウ・ベイル』から少し離れた場所にあるところだね」


 それを聞くと、半数が返事を返し、残る半数はこれからの行動に関して思案。

 シェンジェンが詳しい場所の説明をするが、ここで口を挟んだのは一行の中でも特に小さな猫目メイだ。


「それなら少し遠回りして向かいませんこと? そっちの方が皆さん満足されると思いましてよ」

「余裕があるね。お嬢様はこの辺りに来たことがある感じ?」

「……正直に言えば結構緊張していますわ。エルレインに来たことはありますけど、その際は自由に動き回れませんでしたのでね。他の人らと同じくワクワクしていますのよ」


 彼女がいつも通りの様子で提案するとシェンジェンはそう質問。

 しかし言われてから彼女の小さな掌に視線を向ければ僅かに震えており、そんな彼女の掌をシェンジェンはそっと握った。


「い、いきなりどうしましたの!?」

「怖がってるお嬢様を助けるのはナイトの仕事ってね。この旅行のまとめ役は僕なんだからさ、これくらいはするさ」

「ナイトとは大きく出ましたね。野蛮人の間違いでしょう?」


 この行為に最初は驚いたメイも話を聞けばヤレヤレといった具合で笑いながら握り返し、既に歩き出していた他の面々の後を追っていく。


「どうしたのですか?」

「べっつに~。羨ましいなんて思ってませんけど~」

「お二人は幼馴染なのでしょう? 言えばそれくらいしてくれるのでは?」

「ダメ。アイツはワタシにだけは当たりがめっちゃ強いの」

 

 その姿を見て頬を膨らませたイレに対しアレクシィが話しかけるが、尋ねた問いかけに対する声を聞き少々驚いた。

 それは普段の呑気で間延びした声とは全く異なる。心底からの苛立ちを感じさせる声が美少女イレ・スペンディオの口から発せられたからで、


「ま~そんな事を望むような性格でもないんだけどね~。なんにせよみんなのところに行こ!」


 かと思えばいつも通りの声色に戻るのだが、滅多にみられない彼女の『豹変』と言ってもいい変化を前に、最後尾を歩いていたアレクシィは少々のあいだ、未知の大都市で立ち尽くしてしまった。


「街並みを見たところ科学文明を毛嫌いしてるかと思ったんだけど、そうでもないんですね」


 一方の最前列。先頭を歩くリインについていく馬郎や我龍であるが、彼女の言った言葉を聞き首を傾げた。

 なにせ外側こそ古めかしい石造の建物で統一されているエルレインであるが、中を覗けば貴族衆で日常的に見る物。

 いわゆる冷蔵庫やテレビが設置されており、その周囲に人だかりができているのだ。


「あ、いえ。その感想であってますよぉ。賢教の、特にエルレインの人らはああいう物を嫌っています」


 しかしである直後にリインは両手の人差し指を合わせながら、その認識は間違っていると指摘する。


「そうなのか? 滅茶苦茶人が群がってるぞ?」

「あれはそのぉ………………あれは番組を見たりしてるんじゃなくて、研究しているんです」

「研究?」

「は、はい。例えばですけど、テレビが映る仕組みはどうなっているのか? 配線コードというのはどういうものなのか? そういうのを彼らは事細かに調べているんですぅ」

「んなもん知ってどうするんだ? そんなこと知らずとも、粒子さえ使いこなせれば同じことができるだろ?」


 そんな事をしている理由がどうにも理解できず、躊躇なく尋ねた我龍が首をかしげるが、これに対して答えたのは彼らの後ろを歩いていたヌーベだ。


「十年前ならそうだろうね。けど今の賢教は違う。有り体に言うと、十年前より視野が広くなった」

「どういうことだ?」

「昔の賢教はね、そういう外の技術を鼻で笑って終わりだったんだ。『粒子をちょっと弄ればできる事だ。わざわざ劣化品から学ぶことなんてなにもない』なんていってね」

「今は違うと?」


 両手の指でかつては存在していた人ばらいの霧がなくなった青空を指さしながら語るヌーベは、視線を青空から我龍や馬郎が見ていた家屋の中へ移動。


「ああ違う。今の賢教は劣化品と嘲笑った物にも利点があることを認めてる。無数のコードを規則正しく繋ぐことで出来る科学反応を粒子学に応用していこうとしてるし、他と比べればはるかに遅いが、科学と粒子の融合に着目する者も現れ始めてる。それだけ科学者たちの活躍がめざましいってことだね」

「………………詳しいな」

「元々賢教出身だからね。この程度の事なら説明できるさ」


 視線を先頭を歩くリインに移した直後、彼は肩を竦めながらそう言い切り、このタイミングでずっと続いていた上り坂が終了。

 そこから昇る事も降りる事もせず年季の違いを感じさせる石造りの建物が連なる細道を歩き続けると、五分程して彼等が一泊する予定のホテルに到着。


「じゃ、じゃあ皆さんはここで待っててください。予約の確認をしてきますね」


 ずっと両手の人差し指同士をぶつけて時間つぶしをしていたリインが、時折凸凹した石畳に足を引っかけ転びかけながら入口へと向かって行くのだが、彼女が中に入ったそのタイミングで、事件は起きた。


「「ええ~~~~~~」」


 おそらく近場に派手に喧嘩をしていた者らがいたのであろう。

 飛んできた流れ弾は、彼等が宿泊する予定の五階建てホテルに直撃し、二階から上が木っ端みじんに崩壊。


 つまり、彼等の旅行初日の宿が、プランが、あんまりにもあっさりと崩壊した。

 


 

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


エルレイン探索編その一。

賢教編では他の場所、神教やギルドとは違いトラブル発生装置がいるため、今回の最後みたいなことがザラにあります。

なおかつ最初の場所ながら一番重要な目的地なので、十年前の変化だけでなく、色々なイベントが起きます。

次回はその一つ。これから別行動をとるシェンジェンサイドのお話です。


ただいきなりで本当に申し訳ないのですが、また賞に出す作品を完成させようと思いまして。

今回は私生活が大変忙しいのもあって、明日から12月31日まで一気にお休みをもらいます。


次回更新は1月1日の元旦と離れていますが、必ず投稿しますので、待っていていただければ幸いです。


それではまた次回! およそ二週間後にお会いしましょう!

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