シェンジェンの夏休み 一頁目
八月十一日午前八時十五分。
一週間ほど前に戦いを繰り広げた『ワンダネスハイランド』から少し離れた場所に集まる少年少女の集団があった。
「さてと…………最初の目的地は賢教総本山エルレインなわけだけど、まずは四大支部の一つ西本部に向かう必要があるんだよね」
「なんでだ?」
「十年前と比べたら良好な関係の四大勢力だけど、流石に出入には多少のルールを設けててね。非常時を除いて、各勢力が所有してる四大支部を経由しなくちゃいけないんだ」
「それ知ってるよ。前にパパとママ一緒に旅行に言った時がそうだったもん」
「そゆこと。最初の案内人との合流地点もそこだから、とりあえず行こっか」
保護者無しの十人を超える学生だけによる七泊八日にもわたる大旅行。
これが行われるきっかけになったのは、一週間前にシェンジェンにかかって来た蒼野からの電話がきっかけだ。
『他の勢力の様子を見てもらいたい?』
『ああ。シェンジェンも知ってると思うんだが、特に賢教はかなり不安定でな。教皇不在に加えて一番の腕利きまで隠居してる状態なわけだから当然ではあるんだが、様子を見て来てほしいんだ』
『いいけどなんで僕なのさ。立場的にもっと上の人が行くべきじゃない?』
仕事用の端末からかかってきたのだ。告げられる内容は当然新たな任務に関するものだと思っていたのだが、語られる内容は常日頃のような血生臭い物ではなく、これまで聞いたことがない類の物だった。
なのでシェンジェンは探るような声色で質問。
『若者目線の情報が欲しくなったってのが一つ。それに相手の警戒心を薄められるんじゃないかってのも理由だな』
『なるほどね。それなりの理由があると』
返って来た答えを聞き頷きかけるシェンジェンであるが、直後に彼は考えを改める事になる。
『そうだ。でだ、その策の一環として友人達を多めに連れていってほしい』
『………………どういうこと?』
『その、あれだ。いくら相手が若者と言えど、お前一人だと警戒されるだろ? だから何も事情を知らない奴を増やして、相手の警戒心を薄れさせようと思うんだよ。あ、もちろん彼らの安全確保のためにボディーガードを付けるから安心してくれ!』
これは任務などではない。
自分に学生生活を堪能して欲しいと願った蒼野からシェンジェンに対するプレゼントの類なのだと。
それがわかったシェンジェンは夕日に照らされたオルレイユの風景から視線を外すと、頬を緩ませながらベットに腰掛け質問。
『オッケオッケー。じゃあ仲のいい人を誘うよ。人数はどのくらいがいい?』
『できるだけ多く。大所帯の方がいいと思ってる。だから学校に通ってからできた友達はみんな連れていくといい』
蒼野は先ほどのやや取り乱していた様子を顰めると冷静に返事を行い、シェンジェンが了承すると日程や集合場所。それに集合時間など細々とした点に関して説明。
全て聞き終えたところで、シェンジェンはここ数か月で知り合った多くの人らに連絡を入れた。
『一緒に旅行に行きませんか』と。
「よーしそれじゃあ全員揃ったみたいだしいこっかー」
時は現在に戻り集合時間直後。
参加者全員が集まりシェンジェンが声をあげたところで、勢いよく挙手した者がいた。
「ちょっと待ったちょっと待った! シェンジェン君シェンジェン君? 賢教の入り口である西本部まではどうやって行くつもりかしらかしら?」
「そんなの転送装置を使ってひとっ飛びに決まってるじゃありませんか。わかりきったことを聞かないでくれませんかイレ・スペンディオ!」
彼女こそ第七高校どころか全八校においても並ぶ者のいない美女。
父にアル・スペンディオを持つイレ・スペンディオであり、間延びした声でシェンジェンへと話しかけるのだが、ほとんど間を置かず猫目メイが厳しい声で一喝。
「なーんかワタシに厳しいなー仲良くしようよー」
「………………ふんですわ!」
「えっと………………イレさんはどうしたの? 何かいい案があるんだよね?」
(良照君は気配りの鬼だな。この旅行でストレスがたまらなければいいが………………)
二人の仲が良好なものでないのはそんな僅かな会話からでも察せられ、このタイミングで良照が二人の会話を断ち切るように声を上げる。
とするとその様子を見ていたヌーベがそのような感想を抱き、同じような感想を抱いていた様子の我龍がメイとイレの間に物理的に介入。
「む、むむむぅ!」
イレの姿形が見えなくなるほどの巨躯が目の前に立ち塞がり、更に強烈な威圧感が襲い掛かれば、小柄な彼女は口をつぐむしかなく、『無様ですわね』と嘲笑する狗椛ユイに標的を変更。
「ワタシのしたい話は簡単だよ! せっかくの旅なんだからさ! 移動の過程も楽しまなくちゃ損って思わない?」
「察するに貴方の作るロボットにちょうどいいのがあると?」
「も~、何度も言うけどロボットじゃなくてロボッチョだよエラッタさん! で、その問いに関する答えだけどモチ! ロン! 今回のためにいい奴を開発したんだー!」
そんな二人を一瞥したエラッタが尋ねた直後、イレは右腕に装着している腕時計型の端末を操作。
それにより朝日を背負いながらやって来たのは、二足歩行かつ人が乗れるだけの胴体を備えたイレ製のロボット達である。
「な、なにこれ………………配色最悪過ぎだろお前」
「あの………………鳥型の中に、二体ほど生命への冒涜を感じる物が混ざってるのですが………………」
なのだが、現れたメンツには問題があった。
ダチョウをベースに雄々しい見た目をした大多数のロボットに関しては配色の問題があり、目がチカチカするショッキングピンクで全身を塗りたくっていた。
その中に混ざっているのは、エラッタの指摘した『生命への冒涜を感じる物』という類のロボット二体で、それらは他の物と同じくダチョウの頭を付けているのだが、下半身部分がムカデのように無数の足で構築。
人を乗せるための胴体部分は亀の甲羅に凹凸を付けたもので、頭部はピンク。ムカデのように無数の足がついた部分は灰色。そして甲羅部分は茶色と、実にアンバランスであった。
「あ、それね。実は極々一般的なサイズの物はしっかり開発できたんだけどさ~、巨体の人向きのは中々上手くいかなかったんだよね~。だから色々なパーツを組み合わせて見た目はいまいちだけど機能だけはしっかりしてるのを作ったんだよね~」
「てことはこいつは」
「私や我龍さん向け、ということですかね!?」
そのような機体が混じっている理由をイレが語ると、ボロボロの学ランを纏った我龍と山羊頭のガルゴネシアが顔を引きつらせ、
「そうだよ! さ! 乗って乗って!!」
断ろうと思うも、天使を連想させる輝くばかりの笑顔を前に言葉は出ず、無言で乗車。
「待ってくださいまし待ってくださいまし! こ、この子揺れがひどいですわ!!」
「ある程度体重があれば安定するんだけどね~。メイちゃんはちょっと軽すぎたのカモ」
「うわキモ! その動きで僕らより早いとかキモ過ぎるわ。もうちょっと考えてよね!」
「うるせぇな。遅いお前らが悪いんだろ! 俺に文句言うな!」
不平不満を漏らす者はあれど、誰もがこれから待つ未知の数々に胸を弾ませながら、西本部へと向け動き出した。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
夏休み編、本格始動。
という事でシェンジェンの夏休みは前回も語った通りこの七泊八日の旅行のお話となります。
参加メンバーに関してはまた語っていく事ができればと思いますが、
基本的にはこれまで出てきた学生たちがほぼ全員出てくると思っていただければと思います。
次回は西本部へ。この場所を纏める新たな本部長が出てきます。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




