2-4
「レオ?絶縁状の書き方って分かるかい?」
「あ、姉上?」
「ああ、レオにじゃないよ。お父様に……あっ、違った。アーデルベルトさんに対してだから心配しないで」
お父様が僕の事をこれほど信用していないとは……非常に残念ではあるけど、約束は約束だからね。
僕もそれに対して何かしらをお父様にやり返さなければならないよね。
「お、お待ち下さい。父上も悪気があって私をクアルトに送った訳ではありません。それにそんな物を父上に送られた日には、アインスブルグ家が滅びかねません」
「え?でも、僕が留学する時に、お爺様やお父様とした約束を破った訳だからね。当然こうなるよね?」
「い、いえ。残念ながら……父上は約束を違えていないのです」
「???」
レオは必死に僕に絶縁状を書くのを止めようとしている。
それにレオが言うには約束を違えていないようだ。
あれ?また僕の勘違いなのかな?
「姉上が父上と交わした約束は『父上の息のかかった使用人を送らない』という事でした。なので、私は例外という訳です」
「ああ、なるほどね。レオは使用人じゃなく、家族だからね」
「ええ、なので絶縁状は勘弁して差し上げて下さい」
「う〜ん……でも、これって、グレーだよね?」
「ええ。しかし、約束の間隙を縫った行動ともいえます」
「そう……だね……悠様や生徒会長も『バルーンウォー』でやっていた事だし、見逃すしかないのかな」
何か釈然としないけど……仕方がないのかな。
でも、やっぱり頭に来たから『お父様なんて大っ嫌い』という文を、実家に送っておこう。
うん、それが良い。
では、話を戻そうかな。
「レオがここに居る理由は分かったよ。それで、レオは新入生としてこの学園に入学するのかい?」
「はい、そうなります」
「なるほど。なら、僕も途中まで一緒に行くよ。入学式から遅刻するのは褒められた行為じゃないし、変な風に目立つのも良くないから、少し急がないとね」
「分かりました」
「……ああ、それと」
「な、なんでしょう?」
レオは僕がまだ怒っていると勘違いしたのか、少し怯えている。
それを見て少しおかしくなったけど、それを口にすることなくレオの目を見つめ、言いたかった言葉を口にする。
「折角の再会があんな感じになってしまったけど、レオがここに来てくれて嬉しいよ。一緒に楽しい学園生活を送ろうね」
「っ!?はい!!」
レオは僕の言葉に今日一番のとてもいい笑顔で頷いた。
それから、僕とレオは急ぎ学園の校舎へと向かった。
レオを新入生の教室に案内しようと校舎に入ると、どこからか声がする。
「葵!」
澄み渡った青空の様に綺麗で、天使の歌声の様に美しく、それでいて僕の心を鷲掴みにする様な優しい声。
こんな声を出す人物は僕が知る限り一人しかいない。
そう、それは我が姫君である悠様だ。
「悠様!?」
「え?姉上?そのような顔で、いかがされました?」
僕が悠様の声に反応し辺りを見渡すと、悠様とその隣に居る女生徒を発見する。
レオが僕の顔の事を指摘するけど、そんな事はどうだっていい。
悠様がこの僕をお呼びなのだ。
ならば、馳せ参じなければなるまい。
それ以外の選択肢を僕は持ち得ない。
「レオ!悠様がお呼びだ!ついて来るといい。我が主を紹介するよ」
「え?は、は――い〜〜」
有無を言わさず、レオを引っ張り、レオと共に悠様の元まで急ぐ。
「悠様!申し訳ありません!許可なく御身の前を――」
まず勝手に御側を離れた事を謝罪し跪こうとするが、僕のその行動を手で制される。
なんと、懐が大きな方なのだろう。
「構いません。それより、紹介したい人がいます」
悠様が紹介したい人と口にし、視線を横にズラす。
なるほど、隣の女生徒の事だろう。
僕も弟のレオの事を悠様に紹介したかったし丁度良かったのかもしれない。
悠様がその女生徒の事を紹介しやすいように、話を振ろうとするけど――
「有難きお言葉。して、紹介したい人とは――」
「ふぁ〜〜」
「なっ!?」
「――どなた……で……」
――それを遮るように、僕の隣のレオと、悠様の隣の女生徒から、何と表現していいか分からない変な声がする。
「「え?」」
悠様との会話の途中ではあったけど、どうしたのかと思い隣のレオを見ると、レオは見た事のないような表情で悠様を見ていた。
「レオ!?しっかりするんだ!」
レオに声をかけるが、心此処に在らずといった状態だ。
今のレオは、こことは違う世界に旅立ってしまったようなそんな印象だ。
「ど、どうしよう」
冷静になろうとするが、慌ててしまう。
だけど、これは何かがひっかかる。
え〜っと……これは、まさか……まさか!?
なるほど……これは、この症状は覚えがある。
――レオは僕と同じように、悠様の騎士になりたいんだね?
僕が固まるレオを見ながら納得していると、呪いの言葉を絞り出すような、これまた例えようのない声が聞こえる。
「Oh……holy shit!」
とても汚い言葉遣いを悠様の声で聞こえたようだけど、きっと聞き間違いだ。
もしかしたら、そんな幻聴が聞こえるほど、今の僕は動揺しているのかもしれない。
確か、日本では今のような状況を混沌と言ったっけ?
そんな事を考えながら、僕はレオが再びこの世界に帰還するのを待った。




