3-1.入学式 side悠
「お前ら?どうかしたのか?もう、教室行かないと時間がヤバいぞ?」
私が色んな意味で諦めかけたその時、誰かの声がする。
いや、もう、誰かなんて誤魔化さなくても声で分かる。
私が生まれてからずっと聞いていた声だ。
忘れる筈もないし、忘れられる筈もない。
そして、この声を聞き間違える筈もない。
「……涼さん」
「おう!どうした?悠と聖?……それに葵君もいるじゃねーか?なんだなんだ?この面白い状況はよぉ!!」
そう、それは私の保護者であり、トラブルメーカーでもある、我が叔父涼さんだ。
この人がいるとまた話がややこしくなるので、出来れば直ぐにこの場から立ち去って欲しい。
「ええ、その……色々ありまして……」
「ほほう……俺も混ぜてくれよ?」
正直に言うと、この人をこの話に混ぜたくはない。
ほら?あの憎たらしい涼さんの顔には「混ぜるな!危険!」と書いてある。
もうね、この場をこれ以上かき回さないで欲しいというのが私の本音なのだが、場を治めるにはこの人の『教師』と『保護者』という肩書が、誠に遺憾ながら役に立つ上に、この人以上に最適な人が他に見つからない。
肩書だけで言うと、この人はとても立派な人物なのだが、中身が面白い事が大好きなダメ人間なので、逃げ出したい気持ちで一杯だ。
中身って本当に大事だ。
反面教師として、これほど優秀な人物は他に居ないだろうさ。
ん?いや、待てよ……逃げるという一点では間違いではないだろう。
となれば、私がすべき事は……これだな。
「涼さん。この場は涼さんにお任せしますね?」
「え?」
「先生の言う通り、私と葵は遅刻しそうなので教室に向かいます!」
「はぁ!?」
「ではっ!」
「あっ!?おい!悠!」
「行くわよ!葵!」
「え?はい!」
私は現状を理解する前の涼さんに、たたみ掛ける様に言葉をぶつけ、葵の手を取って逃げる様に校舎に入る。
後ろで何か叫んでいるが、今は無視だ。
三十六計「逃げるに如かず」だ。
私と葵は何もかも放り投げて逃げ出した。
*****
校舎の中を走り教室に向かっていると、私達の他に生徒はまだ居り、なぜだかジロジロとこちらを見ている。
私が美しいのは当たり前で、私の美貌に目を奪われるのも普通の事で、何もおかしな所はないのだが、どうもそんな感じではない。
では、なぜ皆は私達の事を見ているのだろうか?
「ゆ、悠様?」
「ん?どうしたの、葵?」
「そのですね……なんと申しましょうか?」
私がそのような疑問を抱いていると、葵が何か言いにくそうな様子でこちらを見てくる。
何かと思い、歩みを止めると、それに合わせて葵も止まる。
そこで私は葵の視線を追って行くと、私と葵は手を繋いでいたようだ。
「……え?」
あれ?なんで私は葵と手を繋いでいるんだ?
「うわっ!?」
いや、なんでじゃないな。
私は涼さんという非常に面倒くさい人から逃げる為に、葵の手を掴んだんじゃないか。
という事は……何これ?
こんな『逃げる為に手を繋いで、気が付くまでずっと握ってしまい、嬉し恥ずかしの状況』みたいな、ラブコメ的ベタな展開って訳か……本気で止めてほしい。
「こ、これは……ね」
ここで、台詞を噛んだり、頬を赤らめながら、文句の言い合いなんて始めたら、私が最も嫌なラブコメ的な展開に嵌ってしまう。
いや、ラブコメは好きだけど、こんなラブコメの皮を被ったBL展開……断じて、そんな事をしてたまるものかっ!
「これは――」
「な、なんて事なの!?二神さんと葵君のカップリングはナシよ!」
私が言い訳をしようとすると、突然現れた山本さんが抗議してきた。
止めて!周りに聞こえるようなその声量で、そんな怖い事言わないでっ!!
もう、今日はなんて間が悪いのだろうか?厄日か?厄日なのか?
涼さんに続いて、山本さんか……なんでこんな面倒な人ばかりに会ってしまうのだろうか?
神はまだまだ私をイジメ足りないようだな。
「うわ〜……山本さん……」
というか、もっとこう順序を守ってほしい。
登場するなら、私達の会話が終わってからでも遅くはないだろう。
ねぇ、そうでしょ?
それと、ここが一番大事なことだが……山本さん、私的にもそのカップリングはナシだから安心してほしい。
「また、厄介な人に見られたわね……これだからアンデット系女子は……」
「悠様、アンデット系女子とはどういう意味なのでしょうか?」
「あ、ああ〜」
私の心から漏れた言葉を葵が拾ってしまう。
そうか、ここで私にその話題を振るか……本当に説明した方がいいのだろうか?
それが葵の為になるのだろうか?
いや、絶対そんな事はないだろうが、暈して説明をしておこう。
「そうね……生きながら腐っているという意味よ」
「ん???悠様……失礼ですが、山本さんはゾンビや幽霊と違って生きていますが?」
本当に葵は分からないようで、首を傾げている。
不覚にもその仕草に、心が洗われてしまう。
嗚呼、純粋や無垢と呼ばれるものを愛でる気持ちが少しは分かってしまった。
こうして世の中の闇を直視して心が疲れた人達は、癒しを求めるのだろう。
ロリコンやショタコンが生まれるのも納得だよ。
「やはり分からないようね……まぁ、そうでしょうね」
これ以上葵の質問に答えて葵が穢れるのを見たくないので、葵には申し訳ないが、これ以上の回答はナシだ。
さて、そんな事は横に置いておくとして山本さんだな。
普通に生きている一般人、特に男ならば、彼女のような存在や、彼女達の趣味嗜好が分からないだろうし、関わる事がない筈なのだ。
更に葵は外国の人で、この時代には珍しいとてもピュアな人だ。
そんな人が彼女達を理解する事が出来るだろうか?
……それはとても難しいだろうな。
では、いい加減説明しなければならないだろうから説明するが、アンデット系女子とは、その名の通り『腐った女子』の事だ。
彼女達は生きながらにして腐っている。
外の世界では『腐女子』や『貴腐人』と言うらしいく、誰が考えたか分からないが上手く言ったものである。
そんな彼女達を説明するのに、彼女達を「ホモ好き」というと「はぁ?違うし、BLだし」と抗議されるらしく、私にはよく分からない次元の問題ではあるが、とてもデリケートな事案のようだ。
えっと、なんだっけ?そう、確か「BLはファンタジー」らしく、妄想の中の産物であるようだが、実際の人の絡みを見て想像するのもBLらしい。
全く意味が分からない。
まさにファンタジーだよ!
そんな私の心を読み取ったのか、それとも弁解するためなのか、山本さんは胸を張り、ドヤ顔でこうのたまった。
「二神さん誤解しないで!それと、葵君安心して!私は一度この身を闇に落としたけど、今は真っ当な人として蘇ったのよ。そう、言うならば『リッチ』よ!」
「山本さん……それ、カテゴリーではモロにアンデットよ」
しかも、物語やゲームによっては屍の王じゃないか。
パワーアップしてどうするよ。
お前は死ぬ度に強くなるどこぞのラスボスか?
「くっ!?」
いや「くっ!?」じゃねーよ。
ここから本当にどうするんだ?
私はこの空気で話題を続けるのは辛いぞ?
というか、嫌だ。火傷や怪我どころじゃ済まないだろうよ。
『キーンコーンカーンコーン。キーンコーンカーンコーン』
投げっぱなしジャーマンの様な「もうどうにでもして!」の空気を壊したのは、なんと予鈴の鐘の音だった。
私は今まで生きてきた中で、これほど嬉しい予鈴を聞くのは初めてだった。
「さ、さぁ、急いで教室に入りましょう?遅刻は良くないわ、うん、良くないわね。ねぇ?葵?」
「そうですね。悠様のおっしゃる通りです」
「山本さんも、ね?」
「そ、そうね」
こうして、私達は教室に入った。
ただ、私は周りの人達の顔と表情を見る事が出来なかった……という事だけここに記そう。
更新遅くなって申し訳ありません。




