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今日も朝から我が姫の住まう『睦月寮』に向かう。
男子の恰好をした僕が、女子寮に行くのはあまりいい事ではない様だけど、僕はあの御方の警護があるので、そこは目を瞑ってもらいたい。
田中君は、僕があの御方の騎士になった事を知っているので「くそぉ〜羨ましいな!この野郎がぁあ!!!」なんて言いながら、毎朝、血の涙を流し、僕の肩をばしばしと叩き、快く送り出してくれる。
これが山本さんの言う「男同士の友情」なのかもしれない。
僕なりに考察すると、今回は叩いた田中君が『攻め』で、叩かれた僕が『受け』なのかな?
しかし、山本さん曰く「そんな簡単なものではない」ようなので、今日にでも山本さんに聞いてみようと思う。
今日は入学式と言う事もあって、僕の住む『如月寮』も、ここ『睦月寮』も寮生達は慌ただしくしていた。
僕は寮の門の前で邪魔にならない様に、少し端によって、あの御方が来るのを待っている。
田中君が言うには、なにやら『新入生歓迎会』と言う名のイベントがあるらしく、この入学式から『勧誘合戦』を行うというのだ。
先の『レクリエーション』といい、この学園はこういうお祭り事が好きな様だ。
でも、部活をしている学園生は、お祭りを楽しむという感覚ではなく、学園公認の部活動勧誘合戦という、この絶好の機会を逃すことが出来ない様で、皆の目が血走っている様な気がしないでもない。
この学園は僕の知っている学校と違っていて、本当に面白いね。
僕も早くこの学園に慣れて、楽しい事を我が主と共にしていきたいものだ。
そんな事を考えていると、あの御方と三井さんが玄関から出てくる。
「おはようございます!」
「あっ、うん……おはよう」
僕はクアルト風の敬礼をして、彼女達の数歩後ろを歩き、口を紡ぎ、登園の間の警護を開始する。
こうして、護るべき、仕えるべき人の側に居られるなんて!
嗚呼!今日もなんて素晴らしい日なんだろう!
図らずとも笑顔になってしまう。
学園に到着すると、新入生と在校生の激しい攻防が目に入った。
我が姫達の会話を拝聴する限り、どうやら、これが『新入生歓迎会』の勧誘活動らしい。
正直、勧誘と言うレベルを逸脱している様な気もするけど、ここに来て一週間ちょっとで、僕もこの学園に慣れてきているのか、今の様な光景を見ても「まぁ、こういう事もあるよね」程度の感覚になっている。
これが良い変化かどうか分からないけど、パッと見る限り、不思議な事に新入生には怪我人が出ておらず、在校生の新入生の捕縛に関して、謎の技術の高さを見せつけられた。
彼らの動きに学ぶ所があるかもしれない。
「さぁ、私達も裏門に回りましょう?」
そんな所に関心をしながら見ていると、あの御方達はどうやら裏門に回る様だ。
確かにこの中を突っ切るのは、色々な意味で骨が折れるからね。
「うん……あれ?ちょっと待って」
「ん?どうかしたの?」
「あれはちょっとまずいんじゃいかな?」
「ん?」
すると、三井さんが校門の方を指差し、僕も釣られて目を向けると、二人の生徒が剣を手に向かい合って戦っていた。
僕は彼らの戦闘を見ながら「流石にこの街は一味違うなぁ」と思っていると、あの御方から声がかかる。
「……はぁ。葵君」
「はっ!ここに」
僕は今考えていた思考を投げ捨て、すぐさま我が姫の前で片膝をつく。
次の言葉を待とうとも思ったが、ここはあの御方が他の人に軽んじられかねないので、臣である僕は、恐れながらも上奏する。
「しかし、姫。恐れながら、僕の事は呼び捨てにして頂きたく――」
「姫は禁止で!名前で呼んで!」
我が主は姫なのに、人に姫と言われるのを嫌っているけど、御自身の立場というものを、ご留意して頂かないといけない。
それに、これは個人的な理由だけど、僕的には姫に仕えるという憧れのシチュエーションで、姫と呼びたい。しかし、ここまで嫌がられ、更に命令されたのなら、誠に遺憾ながら従わざるを得ない。
「くっ……分かりました。では、悠様とお呼び致します」
「え、ええ。それでいいわ……葵」
我が姫――いや、悠様は、僕の発言に頬をひきつかせながら頷き、少し間を置いて僕の名を呼び捨てにした。
「ありがとうございます!」
名前を呼び捨てにされるだけで、僕の心は満たされて、高揚していく。
今なら、苦戦した生徒会長を一閃出来る、そんな全能感がこの体を支配する。
「悠?」
そんな僕の浮ついた気持ちを戻してくれたのは、三井さんの悠様を呼ぶ声だった。
僕は膝をついいたまま頭を振り、冷静さを取り戻し、悠様の次なる言葉を待つ。
「さて、私と葵で一人ずつね。流石にこのタイミングで、新入生同士のオイタは見逃せないわね。私が女の子方を止めるから、葵は男の子の方ね」
「はっ!御心のままに!」
悠様の命を受け、戦っている新入生達を止めるべく直ぐに人垣へ向かって、走った。
悠様も直ぐに走り出したのを背で感じながら、僕は邪魔な人垣を跳び越え、戦っている二人の間に割って入る。
悠様が怪我をしては大事なので、男子生徒の大剣を、腰に帯剣していた我が愛剣で受け止める。
「貴方達!いい加減にしなさい!」
悠様も同様に女子生徒の方も双剣を魔法で凍らせ、戦っていた新入生達を一喝した。
「「何者!?」」
叫んだ目の前の男子生徒を見ると、ここにいる筈のない……僕の弟の……。
「え?……レオ?」
「あ、姉……上?」
そう、入学式が始まる前から喧嘩騒ぎを起こしていた新入生の方割れは、僕の弟――レオンハルト=フォン=アインスブルグだった。




