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薔薇や百合ではありません  作者: 小林 あきら
第二章 兄や姉ではありません
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2-2


 今日も朝から我が姫の住まう『睦月寮』に向かう。

 男子の恰好をした僕が、女子寮に行くのはあまりいい事ではない様だけど、僕はあの御方の警護があるので、そこは目を瞑ってもらいたい。


 田中君は、僕があの御方の騎士になった事を知っているので「くそぉ〜羨ましいな!この野郎がぁあ!!!」なんて言いながら、毎朝、血の涙を流し、僕の肩をばしばしと叩き、快く送り出してくれる。

 これが山本さんの言う「男同士の友情」なのかもしれない。


 僕なりに考察すると、今回は叩いた田中君が『攻め』で、叩かれた僕が『受け』なのかな?

 しかし、山本さん曰く「そんな簡単なものではない」ようなので、今日にでも山本さんに聞いてみようと思う。



 今日は入学式と言う事もあって、僕の住む『如月寮』も、ここ『睦月寮』も寮生達は慌ただしくしていた。

 僕は寮の門の前で邪魔にならない様に、少し端によって、あの御方が来るのを待っている。


 田中君が言うには、なにやら『新入生歓迎会』と言う名のイベントがあるらしく、この入学式から『勧誘合戦』を行うというのだ。

 先の『レクリエーション』といい、この学園はこういうお祭り事が好きな様だ。


 でも、部活をしている学園生は、お祭りを楽しむという感覚ではなく、学園公認の部活動勧誘合戦という、この絶好の機会を逃すことが出来ない様で、皆の目が血走っている様な気がしないでもない。


 この学園は僕の知っている学校と違っていて、本当に面白いね。

 僕も早くこの学園に慣れて、楽しい事を我が主と共にしていきたいものだ。



 そんな事を考えていると、あの御方と三井さんが玄関から出てくる。


「おはようございます!」

「あっ、うん……おはよう」


 僕はクアルト風の敬礼をして、彼女達の数歩後ろを歩き、口を紡ぎ、登園の間の警護を開始する。


 こうして、護るべき、仕えるべき人の側に居られるなんて!

 嗚呼!今日もなんて素晴らしい日なんだろう!


 図らずとも笑顔になってしまう。




 学園に到着すると、新入生と在校生の激しい攻防が目に入った。

 我が姫達の会話を拝聴する限り、どうやら、これが『新入生歓迎会』の勧誘活動らしい。


 正直、勧誘と言うレベルを逸脱している様な気もするけど、ここに来て一週間ちょっとで、僕もこの学園に慣れてきているのか、今の様な光景を見ても「まぁ、こういう事もあるよね」程度の感覚になっている。


 これが良い変化かどうか分からないけど、パッと見る限り、不思議な事に新入生には怪我人が出ておらず、在校生の新入生の捕縛に関して、謎の技術の高さを見せつけられた。

 彼らの動きに学ぶ所があるかもしれない。


「さぁ、私達も裏門に回りましょう?」


 そんな所に関心をしながら見ていると、あの御方達はどうやら裏門に回る様だ。

 確かにこの中を突っ切るのは、色々な意味で骨が折れるからね。


「うん……あれ?ちょっと待って」

「ん?どうかしたの?」

「あれはちょっとまずいんじゃいかな?」

「ん?」


 すると、三井さんが校門の方を指差し、僕も釣られて目を向けると、二人の生徒が剣を手に向かい合って戦っていた。

 僕は彼らの戦闘を見ながら「流石にこの街は一味違うなぁ」と思っていると、あの御方から声がかかる。


「……はぁ。葵君」

「はっ!ここに」


 僕は今考えていた思考を投げ捨て、すぐさま我が姫の前で片膝をつく。

 次の言葉を待とうとも思ったが、ここはあの御方が他の人に軽んじられかねないので、臣である僕は、恐れながらも上奏する。


「しかし、姫。恐れながら、僕の事は呼び捨てにして頂きたく――」

「姫は禁止で!名前で呼んで!」


 我が主は姫なのに、人に姫と言われるのを嫌っているけど、御自身の立場というものを、ご留意して頂かないといけない。

 それに、これは個人的な理由だけど、僕的には姫に仕えるという憧れのシチュエーションで、姫と呼びたい。しかし、ここまで嫌がられ、更に命令されたのなら、誠に遺憾ながら従わざるを得ない。


「くっ……分かりました。では、悠様とお呼び致します」

「え、ええ。それでいいわ……葵」


 我が姫――いや、悠様は、僕の発言に頬をひきつかせながら頷き、少し間を置いて僕の名を呼び捨てにした。


「ありがとうございます!」


 名前を呼び捨てにされるだけで、僕の心は満たされて、高揚していく。

 今なら、苦戦した生徒会長を一閃出来る、そんな全能感がこの体を支配する。


「悠?」


 そんな僕の浮ついた気持ちを戻してくれたのは、三井さんの悠様を呼ぶ声だった。

 僕は膝をついいたまま頭を振り、冷静さを取り戻し、悠様の次なる言葉を待つ。


「さて、私と葵で一人ずつね。流石にこのタイミングで、新入生同士のオイタは見逃せないわね。私が女の子方を止めるから、葵は男の子の方ね」

「はっ!御心のままに!」


 悠様の命を受け、戦っている新入生達を止めるべく直ぐに人垣へ向かって、走った。

 悠様も直ぐに走り出したのを背で感じながら、僕は邪魔な人垣を跳び越え、戦っている二人の間に割って入る。

 悠様が怪我をしては大事なので、男子生徒の大剣を、腰に帯剣していた我が愛剣で受け止める。


「貴方達!いい加減にしなさい!」


 悠様も同様に女子生徒の方も双剣を魔法で凍らせ、戦っていた新入生達を一喝した。


「「何者!?」」


 叫んだ目の前の男子生徒を見ると、ここにいる筈のない……僕の弟の……。


「え?……レオ?」

「あ、姉……上?」


 そう、入学式が始まる前から喧嘩騒ぎを起こしていた新入生の方割れは、僕の弟――レオンハルト=フォン=アインスブルグだった。





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