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薔薇や百合ではありません  作者: 小林 あきら
第二章 兄や姉ではありません
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2-1.姉や兄ではありません side葵


 僕はあの日騎士になった。

 僕のこれからの命を――いや、人生を懸けると誓い、あの御方の騎士になった。


 小さい頃から憧れていた騎士。

 姫に付き従い、姫の事を命に変えても護る、そんな騎士だ。

 この現代には存在しない、物語の中にしか存在しないと思っていた騎士になったんだ。


 この街に来たのは騎士になる為だった。

 運命とも呼べる出会い方であの御方に会い、まるで恋に落ちたかのように、あの御方の騎士になる事を決めた。


 騎士になるという当初の目標は達成されたけど、でも、ここで終わりじゃない。

 僕の夢は、騎士になれたらそこで終わりじゃない。

 むしろ、ここから始まるんだ。


 姫の事を護れる「立派な騎士」になるんだ。



 そう、僕の主人である――二神悠様を護る、立派な騎士に。




 あの日から、僕はあの御方に付き従った。

 寮から学園への送り迎えは勿論。

 お出かけとなれば、付き従うのは当然の事で、あの御方の数歩後ろを、気配を消しながら歩き、いつ襲われても護れる様に警戒を怠らない。

 教室内でも側に控えようとしたけど、あの御方は「ほら?教室内は大丈夫だから?私達はクラスメイトであると同時に『戦友』でもあるのだから」と言われて、渋々と引き下がった。


 我が主は、なんてお心が広いんだろう!


 でも、確かに彼らは我が主に付き従い、共に戦った『戦友』なので、あの御方に危害を加えることはないだろう。

 そう考えると、僕もこの教室でする事が変わってくる。

 クラスメイトともっとコミュニケーションを取った方が良いのだろう……ね。

 まずは、柔らかい話し方を心掛けて、少し砕けた感じで接してみよう。

 いつまでも、皆に敬語のままじゃ、壁を作ってしまうしね。


 となれば、僕は僕で、この時間を有効に活用すべきだろう。

 見聞を広めるのは大切な事であり、また、知らない事や分からない事をそのままにせずに、知っている人に教わる事は恥ずかしい事ではないと、お爺様が言っていたからね。

 まず、あの日からずっと疑問に思っていた事を聞きに行こう。


 僕は教卓から見て右後ろの席から、席替えで場所の変わった彼女に話しかけた。


「おはよう、山本さん」

「え?葵君?あ、うん。おはよう」


 山本さんは僕に話しかけられると思っていなかったらしく、ビックリしていた。


「あの、突然で申し訳ないのだけど、山本さんに聞きたい事があるんだ」

「え?え?な、何かな?」

「え〜っと『攻め』と『受け』についいて教えて欲しいんだ」


 僕がこの言葉を発した瞬間、教室が静かになり、その後クラスメイト達は、次々に何かを口にする。


「マジか?」

「え?アイツってあっちの趣味だったの?」

「いや、分からんぞ?あの顔だからな……」

「ガチなのか……アリだな」

「え?」

「え?」


 僕の事じゃないよね?

 変な事していないし……誰か分からないけど、何かしたのかな?


「なん……だと……!?」


 僕は目の前の山本さんの動揺の意味が分からなかったので、首を捻り、続きを話すことにする。


「ほら?前、涼さんが話していた時、山本さんが詳しそうだったから、その、教えて欲しくて……ね」

「え?う、うん……いや、そんな詳しい訳じゃないよ?私なんて齧っただけだし、上には上がいると言うかなんと言うか……そうだね?一般常識程度だよ?」

「そうなの?僕には詳しそうに見えたから、聞くなら山本さんがいいと思ったんだ。ほら?僕はどうやら、色々と知識が無いようだからね」


 僕は山本さんの目を見て、にっこりほほ笑み、お願いする。


「くっ!?これがイケメンスマイルなのか!?あ、危なかった……私があちら側の人間じゃなかったら、持っていかれていたわ!!」


 すると、山本さんは胸を押さえ、息を荒くし、顔を逸らしながら何か大声で叫んでいる。

 これまでこうして、話していなかったから分からなかったけど、山本さんは中々面白い人みたいだ。

 これも新しい発見だね。


「そ、それで……葵きゅん……失礼。葵君は、何が知りたいのかしら?攻めの種類かしら?受けの種類かしら?それとも、自分に合いそうなシチュエーションかしら?ふふっ、私にそんな事を言わせたいなんて、とんだ物好きね。でも、どうしても言うのならば、吝かではないわ。いえ、私は既に引退して、一線を退いた身だから、軽い助言。そう助言ね。それぐらいしかできないけど、吝かでもないわ。そうね……葵君だったら、やはり涼先生との絡みが良いと思うの。いえ、もう良いと言うのも、吝かではなく――」

「う、うん。僕が聞きたいのは、その『攻め』と『受け』の意味なんだ。攻撃とか防御と言う意味じゃないんだよね?」


 少し失礼かなとは思ったけど、山本さんの会話に割り込む様に言葉を滑り込ませる。

 このまま話されては、僕の聞きたい事を聞けない気がしたからね。

 殆ど山本さんの言っている意味が、分からなかったけど、一つだけ『吝かではある』と言う事だけは分かった。


「そ、そう?そんな初歩的な事でいいの?ご、ごめんなさいね?私も少しはしゃいじゃったみたいだわ」

「いや、いいんだ。人は好きな事の話となると少し、そう、少しだけ我を忘れる事があると言うしね」

「そうよね?……いえ、そこまで好きと言う訳ではないのだけど……まぁいいわ」


 山本さんは誰かに言い訳するように言葉を紡ぐが、僕はそれを笑って受け流す。


「では、葵君は男同士の絡みについてどう思う?」

「絡み?ああ、肩を組んだり、ハイタッチしたり、拳同士をぶつけたり、男同士の友情って、女の子にはない『爽やかさ』と、互いを信頼しているからこその『絆』って言うのかな?そういうのが合っていいよね。僕も男だから、そういう関係の男友達が欲しいんだけどね。中々直ぐには難しいよね」

「そ、そう……くっ!なんて穢れが無い瞳なの!?……私にこの瞳を穢せと言うの?神はなんて残酷な事をお望みなのかしら?でも、それがまた背徳感があって滾ってしまいそうね!でも、いえ、だからこそ――」


 山本さんは僕の事を、眩しそうに目を細めて見つめ、最後の方は言葉を小さくして、独り言を呟くように喋っている。


 僕は首を捻り、彼女の問いの答えを間違えたのか少し不安になった。

 山本さんの質問の意味が分からなかったけど、でも、これは『攻め』や『受け』と言うものを、学ぶのには必須な事なのだと思えば、何もおかしな事は無い。

 しかし、ブツブツ一人の世界に行かずに、こっちに帰ってきて欲しいと切に願う。


「それでどういう意味なのかな?」


 我慢できずに僕は山本さんに質問すると、山本さんは「整いました」と言わんばかりに、素敵な笑顔を僕に向ける。


「ふふっ。男同士の友情を重んじる葵君には、この本を渡します。これを読んで勉強する事をおススメします」

「???」


 山本さんは何処から出したのか分からないけど、半裸の男の人が肩を組んでいる一冊の『薄い本』を手渡された。


「あれ?直ぐには教えてくれないの?」

「ふふふ、葵君。焦ってはダメよ!何事も人に聞くのではなく、自分で見つける事も大事よ。それにその本は初級編なの!」

「しょ……初級編か。なるほど、その『攻め』や『受け』と言うのは、武道などと同じ様に、一言で表せる事が出来ないほど、奥が深いものなんだね?」

「ええ!ええそうよ!流石葵君!『攻め』と『受け』とは、とても深く、人によって見解が異なる事もあって、簡単なものではないの!これを間違えたり、軽く扱うと、殴り合いの喧嘩には発展しかねないのよ?ふふっ、それが直ぐに分かるなんて……もしかしたら、葵君は逸材なのかもしれないわ!」

「ははっ、そこまで言われると少し照れるね。じゃあ、ありがとう。この本は、寮に帰ったら読んでみるよ」

「か、感想も!感想も聞かせてね!」


 僕は山本さんにお礼を言って、自分の席に着いた。

 周りの視線が少し気になったけど、僕があの御方の騎士になった事の影響かもしれない。

 田中君は「姫の騎士になるのは凄い事」と言っていたので、きっとそうなのだろう。

 確かこういうのが「有名税」とか言ったっけ?



 そして、その後。

 僕は寮に帰って、山本さんから借りた『薄い本』を読んでみた。

 その本の内容は「男同士の友情」をテーマにしたものだった。


 なぜかスキンシップが過剰だったり、なぜか直ぐに上半身裸になったり、無暗に服をはだける場面があったけど、そこだけ目をつむれば、美しい男同士の友情の物語だった。

 きっと、暑かったり、汗をかき過ぎたのかもしれないし、もしかしたら、女である私には少し分からないだけであって、男同士ならこれが普通なのかもしれない。


 そう、思う事にした。





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