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一先ず話を終えて、校門の辺りに戻ると、野次馬だけでなく、勧誘を行っていた学生はほとんどいなくなっていた。
入学式までの時間が時間なので、新入生や在校生も各々の教室に行ったのだろう。
この期間に勧誘で遅刻をしたら勧誘活動ができなくなるので、在校生達は始業の時間が迫ると、死に物狂いで、それこそ足が折れていても這ってでも教室を目指すので、当然と言えば当然だろう。
ふと、待っているかもしれない楓を探そうとも思ったが、時間も時間だし、流石にもう教室に行っているだろうな。
そんな事を思いながら、周りを見ながら歩いていると、隣を歩いていた聖が私の服の袖を引いて、上目遣いで見つめてくる。
その仕草に、妹ながら可愛いと不覚にも思ってしまう。
「おに……お姉様、少しいいですか?」
「なにかしら?聖」
しかし、私は妹のハニートラップにかかる程ヤワじゃない。
そんな攻撃など、あのあざと可愛い楓と共に生活を送っていると日常茶飯事だ。
そして、あの子は天然であり、天然だからこそ、それに相応しい破壊力があるのだ。
なので、聖の計算されたかのようなそんな仕草、私には無駄である。つまり「無駄無駄無駄ァッ!」である。
だが、妹の攻撃を華麗にかわしたと思い油断していた私に、死角から必殺のコークスクリューブローが放たれる。
どうやら本命はこっちだった様だ。
「あの、少し小耳に挟んだのですが、お姉様は騎士をお選びなったとか?」
「え?……それは噂じゃないわよね?…………いつ、誰からの情報なのかしら?」
「涼叔父様からです」
あ・の・野・郎!!!!!
どうすんだよ?この状況?私は未だに自分で頷いた事に後悔しているが……って、そうじゃない。
外堀から埋めよう作戦か?いやいや、そうじゃない。
くそっ!なぜ私は動揺している?私は何を恥ずかしがっているんだ?
恋人を家族紹介する訳でもない。そう、彼は騎士だ。ただの騎士なのだ。
何を恥ずかしがる必要がある?別に疾しい事もないし、おかしな事もない……ないのだが、何故だか話したくない自分がいる。
……なので、ここは話を逸らしてしまおう。そのうち誰かが解決してくれるかもしれないしな。うん、それが良い!それしかないな!
私の十八番『棚上げ』だ。
「ああ、そんな事より、聖はなんで喧嘩していたの?」
「え?……それはですね!聞いて下さい!さっきの『筋肉ダルマ』はお姉様を馬鹿にしていたんです!」
「筋肉ダルマ……って、え?私を?」
無事に話は逸らす事に成功したけど、聖の言う「筋肉ダルマ」と言うのは、先程聖と戦っていた人の事だろう。
そうか、その子は私の悪口を言っていたのか……遠目から見ただけなので、じっくりと見ていないが、それならばもう少し顔を見ておけば良かった。
そうすれば、後に闇打ち出来たのに…………惜しい事をした。
「そうです。何処からお姉様の情報を得たのか知りませんが『二神悠という姫は、少し頭が弱いだ』とか『歌と顔が良いだけだ』とか……許せませんわっ!」
「頭が弱い?歌?顔?」
どれも私には当てはまらない。
いや、勿論「顔が良い」のは当たり前であり、下手したら私は霊長類で一番美しいかもしれない。
だが、私は人前で歌った事がないし、成績も学年で10位以内をキープしている。
この街の人には「二神悠は、才色兼備で人類の枠を突き抜けたハイパー美少女」で通っている筈だ。
つまり、それは……。
「あー、たぶんだけど……その人も、聖も、人違いね」
「え?人違いですか?」
「ええ。それはこの街で『向日葵の歌姫』という名で知れ渡っている、私達の従姉の四宮歩ね」
「え?あの歩お姉様ですか?」
「そう、あの歩姉様」
「それは……予想外でした」
「そうね。でも、この街には私以外にも姫はいるのよ?というか、聖が戻ってきたのなら、そのうち貴女も姫の名を名乗る様になるのよ?」
「そ、そうでした……ね。私とした事が、早とちりでしたね。でも、悠お姉様と歩お姉様を混ぜて考えるなんて、やはり罪深いですね。万死に値します!」
聖の発言の方が歩姉様に失礼な気もするが、フォローするのも面倒なので、ここはスルーしておこう。
ここで件の歩姉様の事を語ってもいいが、長くなるので止めておこう。
まぁ、一言で言うのなら『破天荒が服を着た人』と言ったところだろう。
あの四宮銀次郎の孫なのだ、普通の人である筈も無く、普通の人である可能性の方があり得ない。
「それにしても、私の悪口を堂々と校門で言うなんて……命知らずもいた者ね」
「ええ、全くです」
本当に命知らずだ。私が少し泣き真似したら、そいつは怖いお兄さん方か、お姉さん方に連れていかれて、次に会う時は『はい』と『喜んで』と『ありがとうございます』しか言えない、私の忠実な部下になる破目にあったであろう。
なんせ私は皆に愛されているからな!
さて、馬鹿な話はここまでにして、聖を新入生の教室に案内しようとした矢先に、葵君――じゃなくて、葵ともう一人、男子学生が歩いて来ていた。
なんてタイミングが悪いのだろうか。
まるで誰かの掌の上で転がされているかのように、間が悪い。
しかし、こうなると非常に面倒だが、無視する訳にもいかないので、聖にも葵を紹介しないといけない。
「はぁ……聖、私の騎士を紹介するから、こっちに来てくれる?」
「え?は、はい!」
「葵!」
私が葵を呼ぶと、葵は私に気が付いたのか顔を綻ばせて、隣の男子生徒を連れてこちらにやってくる。
その姿は飼い主を見つけた犬の様であり、めちゃくちゃ懐かれていると思い、不覚にも「愛い奴め」と溢してしまった。
「愛い奴?」
「ごほん。何でもないのよ?」
そして、その言葉に私の隣の聖は反応し、私を見つめ何か聞きたそうにしているが、咳払いをしてひとまず流す。
「悠様!申し訳ありません!許可なく御身の前を――」
「構いません。それより、紹介したい人がいます」
葵は謝罪の言葉を垂れ流しながら、すかさず跪こうとするのを手で制し、そして私達は対面する。
「有難きお言葉。して、紹介したい人とは――」
「ふぁ〜〜」
「なっ!?」
「――どなた……で……」
私と葵が話しているとそれを遮る様に、私の隣と葵の隣から変な声が漏れる。
「「え?」」
何事かと思い隣を見ると、聖の顔が蕩けきっており、目がハートマークになっている。
いや、実際にハートマークになってはいないが、そう錯覚するほど聖の眼がヤバい。
血の繋がった妹にこんな事を言いたくないが、まるで発情したメスブタの様だ。
え!?……これは、嘘?マジで?そういう事なの?
「……え〜っと?」
私は驚きと「なんとかして!」という気持ちを込めて、葵を見るが、葵の方も葵の方で、隣の男子生徒が私を見て、フリーズしているのをなんとかしようとオロオロとしている。
この収拾の付かなさそうな混沌とした状況に、今日何度目になるか分からない驚愕と、そして、神への呪いの言葉を口にする。
「Oh……holy shit!」
ああ、もう!くそったれだな!こんちきしょうめ!
こんな展開どうしろと!?
私はもうどうにでもなれという思いで、手で顔を覆い、天を仰いだ。




