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薔薇や百合ではありません  作者: 小林 あきら
第二章 兄や姉ではありません
42/48

1-3


 さて、現実逃避もそこそこにして、聖がここで生活するのならば、色々と話し合わなければなるまい。


「でだ、聖……お兄ちゃんとお話ししようか?」

「はいっ!」


 とてもいい返事なのに、なぜか私は顔をしかめてしまう。


 昔からしっかりとした子で、とても可愛らしい妹なのに、何故だろう?……不安で仕方が無い。

 いや、私の妹に限ってそんな事はないだろう。

 なんせ頭脳明晰、超絶美少女で、人々に慕われるこの私の妹なのだ。


 ただ、普通に会話する事が出来ない筈がない。


「まず、とても簡単なことから話そうか?お兄ちゃんはここでは、聖の『お姉ちゃん』になるからな?」

「な、なんです……って……」

「え?嘘?そこからなの?流石に嘘だよな?」


 まさかそこから説明しないといけないのだろうか?

 いやいや、そんな筈は無い。

 この子は頭の良い子だった。


「ふふっ、冗談ですよ。そこは涼叔父様から聞いております」

「あ、ああ。そうだろうな……うん」

「ええ。少しお兄様との会話を楽しみたかっただけですよ」


 私の心の中での前振りに応えてくれる、その気概は買うが、今はそんなお笑い的な「おいしい」はいらない。

 溝に捨てるか、犬にでもくれてやれ!


 ここは会話を円滑に進める為にも釘を刺しておこう。


「そっか〜。でも、今真面目な話だから、次やったらお仕置きだからな?」

「お、お仕置き!?」


 お仕置きという言葉を聞き、聖は興奮している……ように見える。

 いやいや、まさかな?これは私の勘違いか、何かの間違いだろう。

 私の妹に限って、エロ川君の様な、そんな事は――


「そう、お仕置きだ」

「つ、つまり……荒縄や手錠で両手を縛って、あんな事やこんな事をするんですね!……勿論、性的な意味で!」

「いや、しねぇーよ!」


 ――あったよ!

 しかも、勿論ってなんだ?


「え?なぜです!?」

「え!?」

「え!?」

「「…………」」


 そして、互いに無言で見つめ合う。

 私はあまりにも酷い会話の内容に、言葉を失ったのだが……聖の方は、この沈黙がどういう意味か分からない。


 くそぅ。我が妹ながら、あまりにもぶっ飛び過ぎて、ツッコミが間に合わないし、まともな会話が続かない。

 今日やっと『頭痛が痛い』という言葉の意味が分かった。

 これは私の言葉のチョイスが間違っているのだろうか?

 いやいや、そんな事はない筈だ。


 しかし、我が妹の奇行は留まる事を知らない。

 よく「現実は小説より奇なり」と言うが、この妹は、更に想像の斜め上をいく猛者だった。


「ん〜」


 この無言の見つめ合いを、恋人の甘い見つめ合いと勘違いしたのか、頬を赤く染め、目を閉じ、少し上を向き、身を私に委ねてきた。


 つまりなんと言うか、我が妹はキスを御所望なのだろう。


「…………うわぁ。流石にないわ〜」


 それを見て、私の口からついつい本心が漏れてしまう。

 いや、確かに可愛いし、性に目覚めた私は、女の子を抱きしめて、キスするのも吝かではないが……相手は妹だ。

 こういう戯れは勘弁して頂きたい。切実に。

 しかも、これキスしたらしたで、既成事実がうんたらかんたら言いだす気だ。

 そんな『BAD END』直行のルート、誰が選ぶものかッ!


「な!?お、お兄様は、妹の愛を受け入れないのですか?」

「いや、受け入れたいけど、愛がちょっと重過ぎて、対戦できるウェイトが違うな。階級で言うと、聖の愛は無差別級だろ?」

「何を当たり前の事を!」

「うんうん。ありがとう。でも、お兄ちゃんはヘビー級でも、ちょっと難しいかなって思うんだ。減量頑張って」

「くっ。愛のウェイトに、まさかこのような弊害があるとは……」


 聖は心底悔しそうにしている。

 私は心底どうでもいい。


 うん。このままでは話が全く先に進まないので……今の内に話を戻そう。


「さて、おふざけはここまでにして話を戻すぞ?」

「おふざけ!?……いえ、はい」

「確認の必要もないと思うけど、私はここでは性別を偽って生活をしている。ここまではいいよな?」

「はい……嘆かわしい事です」

「……そうだな」


 ここで「お前にだけは言われたくないっ!」と、ツッコミを入れそうになるが、気合いで我慢する。

 実際、自分でもそう思っているのもあるし、何より会話が進まないからな。


「そして、聖は私の妹として――いや、私達は姉妹として振舞わなければならない。それは守れるよな?」

「……はい。頑張ります」


 聖は残念そうに、それでいて少し不機嫌な表情で頷いた。

 私はそんな聖の頭を撫で、明るい声で聖に言う。


「よしっ!じゃあ、とりあえず話はここまでだ。入学式もあるし、詳しい事はまた時間がある時に話そう」

「……はい」

「後、遅くなったけど……聖、おかえり。また共に暮らせて嬉しいよ。その事に関しては、心からそう思うんだ」

「っ!?……お、お兄様!!」


 言葉にならなったのか、聖は私の胸に飛び込んで来る。

 私は優しく聖を抱きしめ、久々の家族の再会のやり直しをする。


 聖もこれまでの生活で私に会えないのが寂しったのか、それとも共にまた生活ができる事が嬉しかったのか、目に涙を浮かべその顔を隠す様に、それでいて、甘える様に私の胸に顔を押し付けた。

 私はそれを見て、苦笑いしながら、聖の頭を撫でる。


「聖。これから、またよろしく」

「はいっ!お兄……お姉様!!」


 聖は顔を上げ私を見つめながら、とてもいい返事で答える。



 しかし、頬を赤くし、私の腕の中で鼻息の荒くする、そんな可愛くもぶっ飛んだ妹を見ると、やはりなぜだか不安で一杯になった。





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