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さて、現実逃避もそこそこにして、聖がここで生活するのならば、色々と話し合わなければなるまい。
「でだ、聖……お兄ちゃんとお話ししようか?」
「はいっ!」
とてもいい返事なのに、なぜか私は顔をしかめてしまう。
昔からしっかりとした子で、とても可愛らしい妹なのに、何故だろう?……不安で仕方が無い。
いや、私の妹に限ってそんな事はないだろう。
なんせ頭脳明晰、超絶美少女で、人々に慕われるこの私の妹なのだ。
ただ、普通に会話する事が出来ない筈がない。
「まず、とても簡単なことから話そうか?お兄ちゃんはここでは、聖の『お姉ちゃん』になるからな?」
「な、なんです……って……」
「え?嘘?そこからなの?流石に嘘だよな?」
まさかそこから説明しないといけないのだろうか?
いやいや、そんな筈は無い。
この子は頭の良い子だった。
「ふふっ、冗談ですよ。そこは涼叔父様から聞いております」
「あ、ああ。そうだろうな……うん」
「ええ。少しお兄様との会話を楽しみたかっただけですよ」
私の心の中での前振りに応えてくれる、その気概は買うが、今はそんなお笑い的な「おいしい」はいらない。
溝に捨てるか、犬にでもくれてやれ!
ここは会話を円滑に進める為にも釘を刺しておこう。
「そっか〜。でも、今真面目な話だから、次やったらお仕置きだからな?」
「お、お仕置き!?」
お仕置きという言葉を聞き、聖は興奮している……ように見える。
いやいや、まさかな?これは私の勘違いか、何かの間違いだろう。
私の妹に限って、エロ川君の様な、そんな事は――
「そう、お仕置きだ」
「つ、つまり……荒縄や手錠で両手を縛って、あんな事やこんな事をするんですね!……勿論、性的な意味で!」
「いや、しねぇーよ!」
――あったよ!
しかも、勿論ってなんだ?
「え?なぜです!?」
「え!?」
「え!?」
「「…………」」
そして、互いに無言で見つめ合う。
私はあまりにも酷い会話の内容に、言葉を失ったのだが……聖の方は、この沈黙がどういう意味か分からない。
くそぅ。我が妹ながら、あまりにもぶっ飛び過ぎて、ツッコミが間に合わないし、まともな会話が続かない。
今日やっと『頭痛が痛い』という言葉の意味が分かった。
これは私の言葉のチョイスが間違っているのだろうか?
いやいや、そんな事はない筈だ。
しかし、我が妹の奇行は留まる事を知らない。
よく「現実は小説より奇なり」と言うが、この妹は、更に想像の斜め上をいく猛者だった。
「ん〜」
この無言の見つめ合いを、恋人の甘い見つめ合いと勘違いしたのか、頬を赤く染め、目を閉じ、少し上を向き、身を私に委ねてきた。
つまりなんと言うか、我が妹はキスを御所望なのだろう。
「…………うわぁ。流石にないわ〜」
それを見て、私の口からついつい本心が漏れてしまう。
いや、確かに可愛いし、性に目覚めた私は、女の子を抱きしめて、キスするのも吝かではないが……相手は妹だ。
こういう戯れは勘弁して頂きたい。切実に。
しかも、これキスしたらしたで、既成事実がうんたらかんたら言いだす気だ。
そんな『BAD END』直行のルート、誰が選ぶものかッ!
「な!?お、お兄様は、妹の愛を受け入れないのですか?」
「いや、受け入れたいけど、愛がちょっと重過ぎて、対戦できるウェイトが違うな。階級で言うと、聖の愛は無差別級だろ?」
「何を当たり前の事を!」
「うんうん。ありがとう。でも、お兄ちゃんはヘビー級でも、ちょっと難しいかなって思うんだ。減量頑張って」
「くっ。愛のウェイトに、まさかこのような弊害があるとは……」
聖は心底悔しそうにしている。
私は心底どうでもいい。
うん。このままでは話が全く先に進まないので……今の内に話を戻そう。
「さて、おふざけはここまでにして話を戻すぞ?」
「おふざけ!?……いえ、はい」
「確認の必要もないと思うけど、私はここでは性別を偽って生活をしている。ここまではいいよな?」
「はい……嘆かわしい事です」
「……そうだな」
ここで「お前にだけは言われたくないっ!」と、ツッコミを入れそうになるが、気合いで我慢する。
実際、自分でもそう思っているのもあるし、何より会話が進まないからな。
「そして、聖は私の妹として――いや、私達は姉妹として振舞わなければならない。それは守れるよな?」
「……はい。頑張ります」
聖は残念そうに、それでいて少し不機嫌な表情で頷いた。
私はそんな聖の頭を撫で、明るい声で聖に言う。
「よしっ!じゃあ、とりあえず話はここまでだ。入学式もあるし、詳しい事はまた時間がある時に話そう」
「……はい」
「後、遅くなったけど……聖、おかえり。また共に暮らせて嬉しいよ。その事に関しては、心からそう思うんだ」
「っ!?……お、お兄様!!」
言葉にならなったのか、聖は私の胸に飛び込んで来る。
私は優しく聖を抱きしめ、久々の家族の再会のやり直しをする。
聖もこれまでの生活で私に会えないのが寂しったのか、それとも共にまた生活ができる事が嬉しかったのか、目に涙を浮かべその顔を隠す様に、それでいて、甘える様に私の胸に顔を押し付けた。
私はそれを見て、苦笑いしながら、聖の頭を撫でる。
「聖。これから、またよろしく」
「はいっ!お兄……お姉様!!」
聖は顔を上げ私を見つめながら、とてもいい返事で答える。
しかし、頬を赤くし、私の腕の中で鼻息の荒くする、そんな可愛くもぶっ飛んだ妹を見ると、やはりなぜだか不安で一杯になった。




