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薔薇や百合ではありません  作者: 小林 あきら
第二章 兄や姉ではありません
41/48

1-2

 あまりの状況に、私と聖はフリーズしてしまう。

 それはそうだろう。


 男である私が、この年になってまで、本格的な女装している所を血の繋がった妹に――家族に見られたのだ。

 固まる私を誰が責める事が出来よう?

 また、離れて暮らしていた兄が――いい年をした家族が、ガチの女装をして自分の前に現れたのだ。

 固まる妹の聖を誰が責める事が出来よう?


 言わせていただこう。

 そりゃ、無理だろ!!


「うぉおおお!」

「すげー見たか?」

「アレって、もしかして……『黒百合の魔女姫』じゃね?」

「え?マジで?あれが?」

「じゃあ、あれが二神悠って人?」

「馬鹿!お前『様』か、最低でも『さん』をつけろ!殺されんぞ!?」

「え?聖母の様に優しいって聞いたけど?」

「本人が優しくても、どこかに闇の親衛隊がいてだな――」

「何それ!超怖い!?」


 そのフリーズを解いたのが、周りの野次馬達だ。


「本当にお兄ちゃ……わっぷ!?」

「ちょっと、こっち来ようか?聖」


 私は聖の口を塞いで、人垣から離れる。

 それはもう脱兎――いや、龍が如く!


「ああ!悠!ゆう〜!」


 楓が何か言っている気がしたが、今はそれすら無視して聖を抱える様に抱き上げて、人気のない場所へと移動した。




「それで……なんで聖がここに居るんだ?」


 私は私の腕の中で静かになった我が妹へ話しかける……が。


「うへへ〜。お兄様ったら強引なんですから〜。あ〜聖は、聖はこのまま『初体験』を迎えるのですね?うへへ〜。強引な感じも嫌いじゃないですよ?壁ドンされながら『おい、目を閉じろ』なんて言われて『え?でも……』なんて言いながら、お兄様のその眼光に抵抗できなくて……それでそれで〜、ちょっと恥ずかしいけど目を瞑っちゃって……きゃ〜!それも嫌いじゃないのですが、でもでも!やっぱり『初めて』はもっとロマンチックな所で『……聖』なんて言いながら、優しく微笑んでもらって、それでそれで〜!『お、お兄様……聖とお兄様は兄妹なのに……』なんて言いながら、それでもお兄様のその慈愛と欲情の孕んだ視線に……きゃ〜!辛抱堪りませんね!非常に捗りますね!あ〜でも、優しくして頂くのもやはり捨てがたいかな〜なんて、なんてね!」


 と、まぁ、変な世界へとトリップしている。

 しかも、私の胸に顔を埋め、匂いを嗅いで息を荒くして、頬を染めて、濡れた瞳でヤバい妄想を垂れ流している。

 私は妹の発言や態度にドン引きしながらも、状況確認……の前に普通に会話をする為に妹の脳天にチョップし、正気に戻す。


「ていっ!」

「うにゃ!な、何をされるのですか!?お兄様!?」

「いや、お兄ちゃん。妹のぶっ飛んだ発言にドン引きしているからな?」

「うふふ。お兄様は相変わらず照れ屋さんなのですね?ええ!皆まで言わずとも分かります!聖はお兄様の妹ですからっ!」

「…………」


 どうやら、私の妹は会わなかった間に、何があったかは分からないが、色々とダメな方向に超絶進化してしまったようだ。

 女装して『姫』とか呼ばれている私に言われたくはないだろうが、嘆かわしい。

 本当に嘆かわしいが、今は現状の整理だ。

 ちょっと色々な意味で危ない妹に再び同じ質問をする。


「それで、なぜ聖がここに居るの?」

「うふふ、それはですね〜。涼叔父様と約束したからです。いえ、これは『誓約』と言った方が良いかもしれませんね」

「…………マジか?」

「ええ、マジです」

「マジかぁ」


 私はそう呟き、天を仰ぐ。



 二神聖。

 年齢は私の一個下で、とても可愛らしい女の子。

 私と同じ美しい黒い髪をツーサイドアップにして、少し幼さを残しながらも、それでいて可憐な顔立ちだ。

 我が麗しの女神である楓とタメを張れるのではないかと思うぐらいの美少女だ。


 まぁ、私と同じ血が流れているのだから、美しくない筈が無いのだけどな。


 それと、ここからが重要な所だ。

 女装をしている私が言うのもなんだが、我が妹は変態だ。

 一言で言えば、ブラコンだ。それも重度のブラコンである。

 またも女装している私が言うもなんだが、聖は『倫理ブレイカー』でもあり、この子は「禁忌なんて糞喰らえ!」と声を大にしながら、全世界に喧嘩を売れるほどの豪の者だ。


 例えば、兄妹で本気で結婚しようとしている、とかだな。

 きっと、義妹フラグなんて立てようものなら「え?私とお兄様は血が繋がっていない……つまり、堂々と結婚出来るのですね!」なんて言っちゃう系女子――いや、妹だ。


 幼い頃は、アレだ。

 よくある「大きくなったら、お兄ちゃんと結婚する〜」や「お父さんと結婚する〜」みたいな子供の可愛い戯言だと思い、私も「そっか〜。聖は本当に可愛いなぁ〜」なんて言いながら、軽くあしらっていた。

 だが、大きくなっても、私にべったりで、この子はこんな性格をしていたものだから、涼さんは「これマジでヤバくね?」と考え、私と聖を離して生活させた……筈だったのに、なぜかここに再び聖がいる。


 そして、これは聖曰く、これは約束――いや、誓約らしい。


 兄としては、妹に好かれるのはとても嬉しいものだ。

 なんやかんや言いながら、こんな妹ではあるが、可愛く、愛おしい。

 また、共に家族として生活出来るのも嬉しい。

 嬉しいのだがが……結婚は勘弁して欲しい。

 諺で『過ぎたるは猶及ばざるが如し』と言えばいいのだろうか?

 意味は違うかもしれないが、ニュアンスで言うならそんな感じで、何事も程々が良いと思うのだ。



 ――つまり、妹の愛が重すぎるんだよッ!




 私はそんな現実逃避の思考をしながら、天に向けた視線を戻し、我が愛しの妹を見る。


「ん?どうされたのですか?」

「いや、なんでもないよ」

「これからはずっと一緒ですよ?」


 幼いながらも妖艶に輝く妹の瞳にたじろぎながらも、嫌な予感しかしないその言葉に笑って対応する。


「そっか〜」

「ええ、そうですよ。お兄様っ!死が二人を別つまでです!」

「そっか〜」


 私は遠い目をしながら、とりあえず、我が妹の頭を撫でておいた。



 こうして、波乱が起こる気しかしない、とても長い一日が始まった。





 お読み頂きありがとうございます。

 さて、毎日楽しみにして頂いている方がおられるか分かりませんが、そろそろ毎日の投稿が厳しくなってきました。

 活動報告にも書こうと思いますが、少しばかり、投稿の頻度を下げたいと思います。申し訳ありません。

 では、引き続き見捨てずに、楽しんで頂けると幸いです。


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