1-1.兄や姉ではありません side悠
前回までのあらすじ
ここは『クアルト』というそれはもうファンキーな街!
そこに住む女装男子である悠が、男装女子である葵を騎士にしちゃったよ!
全くこいつらはとんだ変態だな!
あの日。
勢いに任せて……と言うより、なんか勢いに呑まれて――うん、こっちの方がしっくりくるな――まぁ、何はともあれ、葵君を私の『騎士』にした。
私の近衛騎士の任命枠が余っていた事もあり、また、その場に互いの後見人である涼さんがいた事もあって、それはもうすんなりと、葵君は私の騎士になった。
ただ私の騎士にしただけなのだが、これはとても重要で重大な事だった。
それを改めて実感する事になる。
そうれはもう『身をもって』という言葉通りに……ね。
今日も今日とて、超絶美少女(笑)である私――二神悠は、いつものように学園に通う。
最近は楓を置き去りにしたり、存在を忘れて登園する私であったが、今日は楓と共に学園に向かう。
隣にあざと可愛く、誰もが羨む美少女楓たんがいる……なんて素晴らしい朝だろうか!
「悠。もう噂になっているらしいよ?」
しかし、ロリ巨乳の名を欲しい侭にしている楓にとっては、そうでもないようだ。
「な、何の事かしら?楓が可愛いって事かしら?」
楓との会話は、とりあえず惚ける事から始める。
これは誰と交わした約束か分からないが、私にとって『お約束』であり、我が女神こと楓ちゃんなら、ちょろいから、もしかしたら、これで話を逸らす事に成功するかと思われたが、そこまでちょろくはなかったようだ。
やはりと言うべきか、無常にも、どうやら惚ける事は出来ないようだ。
「え!?えへへ……じゃなくって!……葵君の事だよ?」
「Oh……」
忘れようと努力をしていたが、そうは問屋が卸さない。卸してくれないようだ。
私も欧米風に反応してしまうほど、動揺を隠せない。
なぜなら、私達の後ろを付き従う様に葵君がニコニコと王子様スマイルのまま、共に登園しているのだから。
いくら存在を忘れようとしても無理だろうな。あんなフェロモンだだ漏れの笑顔の人を、そうそう無視できないな。
そりゃ、噂にもなるでしょうね。ならない方がおかしいかもしれない。
「いや、だって……騎士にするって言ちゃったもん」
「『言っちゃったもん』じゃないよ?今日も寮の前で待ってたよね?このままじゃ……いや、もう手遅れなんだけど……」
「ですよねぇー」
あの日から葵君の献身的な奉仕?と言えばいいのか分からないが、それが凄いのだ。
人の噂が広まる速度を舐めていた訳ではないが、数日でこれだ。
私だって、今は楓と会話する事で現実逃避をしている真っ最中なのだから、あまり痛い所を突いてほしくない。
学園の生徒は噂の真相が気になるのか、今も私と楓の会話を興味津々と言わんばかりに、盗み聞きしようと一定の距離を保ちつつ、私達に着かず離れずの距離を保ちながら登園している生徒がいる。
もうね、これ「やっぱアレ無し!」と言うのは……無理だよなぁ?
「そ、それより!今日は入学式よね!」
ということで、私は話を逸らす事にした。
だって、もう考えても仕方が無いのだから。
ほら、覆水盆に返らずって言うじゃん?
頷いた私も元には戻らないんだ。新しい諺として登録申請だけはしておこう。
なので、気にしない方向にシフトする。するったらするんだ!
「え?ああ、うん……そうだね」
しかし、どうやら楓にはあまり興味がある話題ではなかったようだ。
ナウでヤングな若者の話題としては適してなかったのだろうか?
そんな事はない筈だ。
クアルトの外の女子学生は「え?今日入学式?うっわー、ないわー、マジダルいわー」とか、そんな会話をするってネットに書いていたのだから間違いない。
「ど、どんな子が入学するか楽しみね?」
「うん……そうだね。あっ!確か、どこかの国のお姫様が入学するらしいよ」
「え?そうなの?」
「うん」
ふぅ。やっと楓の顔に笑顔が戻る。
情報弱者的な思考でゴリゴリいってみたが、案外なんとかなるものだ。
ネットの全てが嘘とは限らないらしいな。
さて、楓に笑顔が戻ったのは良い事だが、これから会話を膨らませていって、姫だの騎士だのそういう会話を頭の隅へと除外していこうと思ったのだが……また姫か。
神はまだまだ私を苦しめ足りないのかね?
「ふふっ、悠の姫の座も奪われるかもしれないね?」
「え?そ、そう?」
「あれ?なんで嬉しそうなの?」
「え?そんな事……ないよ?」
言葉では否定するが、そんな事ありまくる。是非そうして頂きたい。
奪えるものなら奪ってみて欲しい。
私は好きで『〜の姫』を名乗っている訳ではないので、本当にもう……切実にね。
学園に着くと新入生が校門の近くで戸惑っていた。
なぜ戸惑っており、校門をくぐらないのかは理由がある。
毎年この入学式から始まるのは『新入生歓迎会』と言う名の部活動や研究会に『勧誘合戦』である。
勧誘合戦。読んで字の如く勧誘の合戦だ。そう、つまりは戦なのだ。
皆も薄々気づいていると思うのだけど、レクリエーションでやった『バルーンウォー』然り、この学園はこういう馬鹿な事が大好きなのだ。
それもこれも、あの総学園長の「普通の新歓じゃつまらんのぉ」の一言から始まった事だ。
四月末まで続く『新歓』と言う名のお祭り。
必ずと言っていいほど何か事件が起きる『新歓』であり、毎回事件が起こるのに中止にならない『新歓』である。
そして、これは毎年恒例のイベントだ。
校門から学園へと続く道に、在校生が魑魅魍魎の如く犇めいている。
この学園では、入学する前から戦いは始まっているのだ。
情報収集を怠ると……
「君?新入生だよね?」
「え?はい。そうですけど?え?なんですか?」
「そうか。君のその肉体は実に鍛えられていて素晴らしい。是非我が、UFO研究会でUMAと戦うべきだよね!」
「待ちたまえ!彼の筋肉はガーデニングする為に鍛え上げたに違いない!つまり、我が部で共に土を耕そう!」
「いやいや、君のその眼鏡は将棋をする為にかけているんだろ?いや、皆まで言わずとも分かる!さぁ、共にプロの棋士を目指そう!」
「え?え?なんですか?」
「大丈夫、うちの部活は月水金だ」
「うちは火木ね」
「じゃあ、土日は我が部だな」
「え?え?いや、無理ですって!」
「まぁまぁ」
「さぁ!さぁ!」
「大丈夫!痛いのは最初だけだから!」
「え?え?嘘?運動部だった俺よりも力が強い!?」
「ふははははは!」
「ちょっと、こっち来ようか?」
「鍛えているのは運動部だけじゃないんだよ?」
「ぎゃぁぁああああああああ!!!!!」
……という風に、何も知らない新入生が一歩足踏み入れたが最後、学園へ辿り着く前に複数の部活や研究会の部員になっているという寸法だ。
先程の彼は、日々花壇を耕しながら、合間に将棋をし、土日はUMAと戦う青春を送るのだろう。
これを避けるためにはいくつかの方法がある。
一つ、実力突破。
「君!待ちたまえ!是非我がUDON研究会に!」
「無駄だ!俺は何者にも捕らえる事は出来んのだ!!」
「ぐはぁ!」
「な、なんてパワーだ!」
とまぁ、実力で在校生を排除するパターン。
一つ、取引。
「せ、先輩!自分、空手部入るんで、守って下さい!」
「よかろう!我が空手部へようこそ!教室まで彼らをつけよう。おいっ!」
「「はっ!お任せ下さい!」」
「あ、ありがとうございます!」
と、そうそうにどこかの部活に入り、保護してもらう。
一つ、協力。
「いいか!固まって一気に駆け抜けるぞ!」
「「「「おう!」」」」
「とつげーーーーき!」
「「「「うおぉーーーーー!!!」」」」
「皆無事か?」
「た、隊長!遠藤がいません!」
「くっ、奴は尊い犠牲になったのだ……遠藤に敬礼!」
「「「えんどーーーーう!!」」」
と、互いに協力し合い切り抜けるパターン。
まぁ、他にも裏技もあるけど、これは新入生に対する洗礼でもあるので、先生方も大怪我しない限り止めない。
在校生もそれが分かっているので、ギリギリの所を攻めてくるのだ。
こうして、逞しくもあり、優秀で変な人材が育つのだろう。
全くもってファ●キンアメージングだ。
「今年も……凄いね」
「そうね。先に情報収集している生徒は、早めに登園したり、裏門から入っているんでしょうけどね」
「去年、私は悠の近くにいたから無事だったけど……」
「そうね」
そう去年、私は実力突破した。
楓と会話しながら、全力で魔法を使って、私の周り半径1メートルを重力3倍ぐらいにした。
それにより、近寄る先輩方を膝まずかせながら進んだ。
それでも、近づく猛者には直々に魔法で撃退したのだ。
あの時、私の二つ名が『絶対領域の女王様』になりかけたのは良い思い出だ。
ただ私の服装が『ニーソではないから』という理由で、その二つ名を却下した馬鹿がいたが……正直そこだけは、その馬鹿にお礼を言いたい。
理由は本当にしょうもないけどな。
「さぁ、私達も裏門に回りましょう?」
「うん……あれ?ちょっと待って」
「ん?どうかしたの?」
「あれはちょっとまずいんじゃいかな?」
「ん?」
楓に言われて校門を見ると、二人の生徒が向かい合って……というか、剣を取り出してバトルしていた。
いつからこの学園はこんなバトル漫画的な物騒な学園になったのだろうか?
いくらこの街が実力主義と言えども、常日頃から「ひゃっはー」していい訳ではない。
クアルト外の様に、是非この街にも銃刀法違反の法を適用してほしいと、切に願う。
「……はぁ。葵君」
「はっ!ここに」
私はため息を吐いて、先程まで存在感を消し私達の後ろにいた葵君に声をかけると、すぐさま私の前に片膝をついた。
「しかし、姫。恐れながら、僕の事は呼び捨てにして頂きたく――」
「姫は禁止で!名前で呼んで!」
葵君の言葉を遮り、名前呼びを強要する。
マジで姫は勘弁して欲しい。
「くっ……分かりました。では、悠様とお呼び致します」
葵君は悔しそうに私の言葉に従った。
なぜ悔しそうなのかは……ここでは深くツッコまない。
「え、ええ。それでいいわ……葵」
「ありがとうございます!」
私も葵君――いや、葵の言葉通り呼び捨てにする。
ただ、呼び捨てにするだけで、気恥ずかしい気もしないでもない。
「悠?」
そんな気持ちを戻してくれるのは、私の精神の守護天使でもある楓ちゃんだ。
危なかった。危うくラブコメの波動を感じかけた。
相手は男だ。
そう、間違ってはいけない。
ラブコメをするなら、相手は隣の楓ちゃんだ。
「さて、私と葵で一人ずつね。流石にこのタイミングで、新入生同士のオイタは見逃せないわね。私が女の子方を止めるから、葵は男の子の方ね」
「はっ!御心のままに!」
葵く――葵はレクリエーションの掛け声が気に入ったようで、そう返事をすると、直ぐに人垣へ向かって、走っていった。
私も遅れないように走って向かい、邪魔な人垣を、魔法を使って跳び越え、戦っている二人の間に割って入る。
「貴方達!いい加減にしなさい!」
喧嘩をしていた片方の大剣は、葵が剣で受け止めた。
そして、もう一方のお転婆なお譲さんの双剣は、私の魔法で凍りつかせる。
「「何者!?」」
叫んだ少女は、幼さが残る顔立ちで、どこかお母様に似ていて……そう、その子はまるで、私の妹の……。
「おにい……ちゃん?」
「え?……ひ……じり?」
そう、入学式が始まる前から暴れていた新入生の方割れは、私の妹――二神聖だった。




