幕間 目が人よりほんの少しだけ細いだけなんだ
ここはとある城の最上階の一室。
「ようっ!爺さん」
「……はぁ……なんじゃ、お主か」
そんな場所に窓からの侵入者が現れる。
老人は侵入者を一瞥するだけで、溜息を吐き再び書類に目を通し始める。
「いつもドアから入れと言うに……」
「まぁ、そう邪険に扱うなよ」
「……嫌に決まっておろうが、お前さんはいつも面倒事を運んで来るからのぉ」
「ぐっ……それに関しては、否定はしないが……そんな事より、今日はとっておきのネタを持って来たぜ?」
「ほぅ?お前さんがとっておきと言うとは……珍しいのぉ」
ある城の最上階の一室で、目が糸の様に細い侵入者と、年老いて尚覇気のある老人が会話を交わす。
侵入者の言葉に老人は興味を示し、持っていた書類から侵入者へと目を向ける。
「爺さんの孫がいるだろ?」
「居るが……どの姫じゃ?」
「黒百合」
「なんじゃ、回りくどい言い方をするのぉ……お前さんが育てておる子じゃな。それがどうしたんじゃ?」
「ああ。実はアイツが恋に落ちた」
「ほうほう。あやつも恋を知るようになったか。あの格好じゃから、ちっとは心配しておったんじゃが、やりおるのぉ。して、相手は誰じゃ?いつもあやつと共に居る娘か?」
「なんと相手はアインスブルグの娘で、互いに一目惚れだ」
「……なん……じゃと?」
「しかも、未だに互いを同姓だと勘違いしているおまけつきだ」
「…………」
老人は、如何に長きに渡り生き、様々な経験をしていようとも、今回の様なケースは初めてだった。
男装して生活する事を条件で留学してきた男装女子と、家の事情で女装をしている女装男子が恋に落ちる。
しかも、互いに一目惚れと言うおまけ付き。
この様な事を誰が予想できようか?
あまりにも予想できない超展開に老人は言葉を失った。
しかし、流石は『魔王』と称される老人。
数秒の間、固まった後にはすぐさま再起動した。
「ふふ、ふははっ、ふはははははは!!」
老人は心底可笑しいと言わんばかりの声色で笑い、それを見た侵入者も、それを見て悪戯が成功した子共の様にニヤリと笑う。
「ふははは!長年生きてきたが、この年になってもまだこのような破天荒な事があるか!くくくっ、なんと面白き事よ!!」
「だろう?めちゃくちゃ面白い展開だろ?俺はこの面白さを誰かに言いたくてな!ついつい爺さんの所に忍びこんだ訳だよ!」
「いや、実に愉快じゃ!うむ、報告感謝するわい!」
そこで会話は終わるものかと思いつつ、老人は満足そうに頷くが、侵入者は片手を突き出し、続きを話出す。
「まぁ、待ちな。更に面白いのがだな……」
「なに?まだあるのか?」
老人は驚きつつもどこか期待した視線を侵入者に送る。
侵入者もその視線を「待ってました」と言わんばかりに受け止め、答える。
「おうよ。しかもあいつら決闘して……まぁ、そこは悠が勝ったんだが、その後だ。葵君が悠に忠誠を誓って、悠の騎士になったんだよ」
「ふはは!ふははは!実に!実に面白い!全く若いもんは、ワシらの予想を良くも悪くも上回るのぉ」
「だよなぁ。アイツ、俺や爺さんの事をいつも『ぶっ飛んでる』なんて言っているけど、十分、アイツの方がブっ飛んでるよなぁ」
「然りじゃ」
侵入者と老人はしみじみと頷き、互いに笑う。
「でだ、爺さん」
「ん?なんじゃ?」
「葵君の実家のアインスブルグ家の事は知っているよな?」
「うむ、当たり前じゃ。彼の一族は各分野で優秀じゃからな。儂は葵という娘にも期待をしておる」
侵入者は老人の言葉に「だよなぁ」と相槌を打ち、本題に入る。
「で、そのアインスブルグの当主が、またとんでもない親馬鹿でな。うちの子や葵君に、いらんちょっかいを掛けようとしているんだが――」
侵入者の目が開き、老人を見つめる。
その侵入者の目には、何かを企んでいる怪しげな色が灯っている。
「――更に面白い事をしたくねぇか?」
「くくくっ、お主は本当に昔から変わらんのう。そこはその話が出た時点で、直ぐ阻止する為に動くものじゃろう?」
「まぁな。普通はそうだろうな……で、どうする?」
「ふははは。そんなもの決まっておろう?」
「だな」
老人と侵入者は、長い付き合いの友人のように、互いに信頼している家族のように、短い確認だけをする。
それだけの言葉で十分伝わる関係であり、互いの事を知り尽くしているのだろう。
「では、この件はお前さんに一任する」
「くくくっ、了解だ。その言葉が聞きたかったんだよ、魔王様」
「ふははは。まぁ、程々にするんじゃぞ?」
「それは了解できないな。形はどうあれ、なんせ――」
侵入者は老人の言葉に、一旦言葉を切って、目を見開き獰猛に笑う。
「――うちの息子に、手を出そうとしているんだからな!」
「ふははは!」
室温が一気に下がる様な凄まじい殺気を放出する侵入者だが、老人はそれすら痛快と言わんばかりに、大いに笑い飛ばした。
そして、夜は暮れていく。新たな波乱の予兆を残し。




