7-2
本日1話目
あの後。
追いすがる葵君の姿を見て、なんやかんやで話だけでも……と頷いてしまい、屋上に舞い戻った。
「では、改めて。我が名は葵=フォン=アインスブルク!騎士の称号を受け継ぎし者の末裔である!二神悠!貴女に決闘を申し込む!」
「お断りしま――」
「その決闘認めよう!」
「「え!?」」
葵君の決闘を全力で拒否しようとしたが、私の言葉に被せる様に、いきなり現れて決闘を認めたのは、我らが担任教師兼保護者であり、自由の代名詞こと涼さんだった。
「では、ルールを決めようか。先に有効な攻撃を入れるか『参った』と言わせた方の勝ちとしよう。そうだなぁ、葵君が使用可能な武器は刃の潰してある剣とその体。そして、悠の使える武器は杖と魔法だな。もちろん肉弾戦もアリだ。後、殺す様な攻撃はダメだぞ?その場合は先生が止めに入るからな?」
戸惑う私達を裏腹に、ポンポンとルールを決めていく。
その涼さんの顔はとてもニコニコしている。
私は知っている。経験則で理解している。
こういう場面で笑いながら現れるこの人は、本当に厄介だ。
逆らうだけ無駄なのだ。ここで逆らうと、私にとって更に悪い展開が待っている。
「え?涼さん……マジですか?」
「悠。俺はいつも言っているだろう?男は度胸、女も度胸、そして――」
――女装男子なら尚の事ですね。
「……分かりました。私『黒百合の魔女姫』二神悠は、葵=フォン=アインスブルクの決闘をお受け致します」
私の頭が重力に耐えきれなくなった様に垂れる。
どうか、何事もなく終わるようにと祈るように。
さて、正直言いたい事は山ほどある。
例えば「決闘とか正気ですか?」とか「貴方はどこかの戦闘民族ですか?」とか、言いだしたらキリが無いかもしれない。
だが、不本意ではあるが、これでも私は『黒百合の魔女姫』と呼ばれている。
そう、姫だ。姫なのだ。
そして、葵君は騎士だ。
「騎士様と姫の決闘ってどうなのでしょうか?」とか……ね。
しかし、今の状況でそんな事言ってもしょうがないのだろう。
目の前には、剣を抜いて構えている葵君がいるのだから。
「はぁ」
溜息を吐いて、念のために持って来ておいた愛用の杖を取り出し、右手を突きだすように構える。
「準備はいいですか?」
「ええ、いつでもどうぞ」
「では、尋常に……勝負!」
その言葉と共に、葵君は常人ではありえないスピード突っ込んでくる。
「なっ!?」
正直、前のレクレーションで凄く速いとは思っていたが、見るだけじゃなく相対してみると分かる。
これは想定外だ。速過ぎる。
即座に斜め後ろに回避行動を取りながら、呪文を唱える。
「阻め!『水壁』」
「ふっ!」
葵君は私の水壁の事など分かりきっていたように、右に跳んで水の壁を避ける。
「撃て!『火弾』」
逃げた方向に向けて、ピンポン玉サイズの火の球を数発撃ち込むが……
「はぁぁああ!!」
葵君の気合いの咆哮と共にあっけなく斬り伏せられる。
「嘘!?」
いや、嘘ではない。
レクリエーションの時もあの生徒会長の攻撃を防いでいたのだ。
これぐらい出来て当たり前……なのか?
でも、炎の魔法だよ?結構威力あるんだよ?
正直決闘なんて、適当にやれば良いかなと思っていたが、やられっぱなしは私のなけなしのプライドが許さないようだ。
負けたくなくなった。
「貫け!『土槍』」
葵君の背後の地面に干渉して、死角から生やした土槍が葵君を襲うが、振り返りざまに斬られる。
「なんで!?」
正直焦る。
なんで、死角からの攻撃が対処できるか理解できない。
後ろに目でもついているのか?
「吹け!『風撃』」
ならば、後ろを向いた状態から、見えない攻撃なら当たるだろうと、考えて撃ってみる――
「ふっ!くっ!」
撃ってみたが、葵君は剣を横に寝かせ、見事に防御してみせた。
しかし、風撃の威力で葵君が後ろに下がったので、再び私との距離が開いた。
その隙に追撃をしようかと思ったが、葵君は風撃を受けている間も、油断なく私の事を視界に収め警戒している。
「…………」
「…………」
私と葵君は互いに無言で睨み合う。
さて、葵君がここまで強いとは思ってもみなかった。
もしかしたら、今までの攻撃は葵君からしたら、小手調べなのかもしれない。
私も初めはそのつもりだったが、途中から頑張ったのに、全て防がれてしまった。
彼の速度も大体掴んだが、こちらの攻撃が当たるビジョンが全く見えない。
更に速くなられると、正直捉えられる気がしない。
となれば……
「はぁ……仕方がないか……」
私はため息交じりに呟き、杖を葵君に向ける。
「お見せしましょう――本物の魔法を」
このクアルトには『魔法』が存在するという『設定』になっている。
魔法は科学技術の粋を結集させたものとされている。
魔法学の講義もそうだ。
あの講義では『最先端の科学技術』である『魔法』を学ぶ事が出来るとされている。
しかし、考えてみて欲しい。
それが「本当に科学技術であるのか?」と。
例えば、クアルトコロシアムの『サブスタンシエーションフィールド』という科学技術。
あんなもの、現代の科学技術だけで出来る筈が無い。
ならば、アレは何なのか?
答えは簡単だ。最初から、ずっと言っている事だ。
あれは、あれらは『魔法』だ。
本物の魔法なのだ。
この世には、科学では証明できない、摩訶不思議な力が『魔法』が存在しているのだ。
ある有名な作家は「十分に発達した科学は魔術と見分けがつかない」と言った。
そこで総学園長――いや、銀次郎氏は「ならば、その逆もあってもいいのではないか?」と考え、そして、銀次郎氏は『魔法は十分に発達した科学と見分けがつかない』と考えたのだ。
しかし、現代では認められない『魔法』を隠匿する為に、科学技術として『魔法』が存在するという、ややこしい事をした。
そう、この街は『魔法で発展した都市』であり『魔法使いを管理する都市』でもあるのだ。
そして、約束していた私のもう一つの秘密をお教えしよう。
――私、二神悠は、何を隠そう『魔法』を自在に操る『魔法使い』だ。
「我願うは、断罪の剣!」
私は葵君に向けていた杖を天に掲げて叫ぶ。
「咎人に罰を、罪人に死を、虚無の安らぎを与え給え」
私の詠唱に葵君は危険を感じたのか、こちらに突っ込んで来るが……残念ながらもう遅い。
「穿て!『雷剣の勲章菊』」
私の言葉と共に閃光が走り、轟音が鳴り響く。
「ぐぁぁあああああああ!!!!」
光の速さを避けも斬れる訳もなく、直撃した葵くんは地面に両膝を着き、腕をだらりと下げ、こちらを「信じられない!」といった表情で見ている。
当たり前だ。
手加減したと言っても、本物の雷を体に浴びたのだ。
動ける訳がないし、何をしたか分かる筈もない。
私はゆっくりと歩き葵君に近づき、その首元に杖を添えた。
「まだやりますか?」
「……参りました」
「それまで!勝者!二神悠!」
涼さんの言葉を聞いて、杖を下ろす。
「完敗だったよ」
「いえ、流石は騎士様ね。強かったわよ」
しかし、葵君はなんとも言えない表情だった。
まぁ「負けたのに強いと言われても……」って事なのかな。
だが、お世辞ではなく本当に強かった。
こっちは本物の魔法を使うほどに、だ。
鬼畜眼鏡にはレクリエーションだった為、本物の魔法は使えなかったけど、今回は、久々に全力で戦った。
それより、あれ程の魔法を使ってしまったが、涼さんは何も言わないのが気がかりだ。
私はちらりと涼さんを見るが、肩を竦めるだけで何も言わなかった。
まぁ「決闘を受けろ」と言ったのは涼さんだし「本物の魔法を使うな」とは言われてないし、問題なったのだろう。
その姿に安堵の溜息を吐く。
「ふぅ」
「やはり、あの時の胸の高鳴りは、こういう事だったのでしょう」
「え?何?」
葵君がいきなり語りだすから、素で首を傾げてしまう。
しかし、私の質問の答えは返されることはなく、葵君は私を見つめる。
「では、御手を失礼します」
「え?」
葵君はそう言って、私の手を取った。
彼は負けて膝を突いたままだったので、自然と私を見上げる様な状態だ。
その姿は一見、上目遣いにもみえる。
「え?え?」
少し葵君は体勢を変え、片膝を立て私の右手で握り――そして、手の甲にキスをした。
「な!?」
葵君の突然の行動に驚き、体が固まり、羞恥で顔が真っ赤になるのが自分でも分かる。
「僕――葵=フォン=アインスブルクは、二神悠――貴女に忠誠を誓いましょう」
「なっ?……えっ!?」
口をパクパクと開けて、何か喋ろうとするが、言葉にならない。
そして、葵君の行動の意味が分からない。
そんな私の事など気にせずに、葵君は言葉を続ける。
「貴女に負けた身でおこがましいかもしれません。けれど、我が生涯、微力ながら貴女の力になりましょう。いついかなる時でも貴女の下に馳せ参じ、命を賭して貴女を守る事を……ここに誓います」
その言葉に、想いに、頭を鈍器で殴られた様な衝撃が襲う。
心臓が破裂するのではないかと思うほど、激しく鳴っているのが分かる。
なぜだか、葵君の軽く添えられるように握られた手を、振りほどく事が出来ない。
「我が忠義を受け入れてもらえませんか?」
そんな事を言いながら下から私を見上げる。
その目は少しの不安の色が見えるが、覚悟の、決意の籠った眼差しだった。
これは……この展開はまるで物語に出てくる姫と騎士のようではないか!?
こんなのダメだ。
そもそも私は姫だけど、姫じゃない。
自分で何を言っているか分からないけど、姫でないことは確かだ。
ならば、この申し出を受ける訳にはいかないだろう。
私は彼の想いを、願いを、否定をしなければならないのだ。
しかし、私の首と口は自分の意志と異なり――
「……は、はぃ」
葵君の言葉に頷いてしまった。
「っ!!ありがとうございます!!」
私の手を握り、お礼を言いながら笑う葵君は、今までに見た笑顔の中でも、一際美しかった。
こうして、私に騎士が出来た。
次は18時です。




