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薔薇や百合ではありません  作者: 小林 あきら
第一章 薔薇や百合ではありません
34/48

7-2

本日1話目

 あの後。

 追いすがる葵君の姿を見て、なんやかんやで話だけでも……と頷いてしまい、屋上に舞い戻った。


「では、改めて。我が名は葵=フォン=アインスブルク!騎士の称号を受け継ぎし者の末裔である!二神悠!貴女に決闘を申し込む!」

「お断りしま――」

「その決闘認めよう!」

「「え!?」」


 葵君の決闘を全力で拒否しようとしたが、私の言葉に被せる様に、いきなり現れて決闘を認めたのは、我らが担任教師兼保護者であり、自由の代名詞こと涼さんだった。


「では、ルールを決めようか。先に有効な攻撃を入れるか『参った』と言わせた方の勝ちとしよう。そうだなぁ、葵君が使用可能な武器は刃の潰してある剣とその体。そして、悠の使える武器は杖と魔法だな。もちろん肉弾戦もアリだ。後、殺す様な攻撃はダメだぞ?その場合は先生が止めに入るからな?」


 戸惑う私達を裏腹に、ポンポンとルールを決めていく。

 その涼さんの顔はとてもニコニコしている。


 私は知っている。経験則で理解している。

 こういう場面で笑いながら現れるこの人は、本当に厄介だ。

 逆らうだけ無駄なのだ。ここで逆らうと、私にとって更に悪い展開が待っている。


「え?涼さん……マジですか?」

「悠。俺はいつも言っているだろう?男は度胸、女も度胸、そして――」


 ――女装男子なら尚の事ですね。


「……分かりました。私『黒百合の魔女姫』二神悠は、葵=フォン=アインスブルクの決闘をお受け致します」


 私の頭が重力に耐えきれなくなった様に垂れる。

 どうか、何事もなく終わるようにと祈るように。




 さて、正直言いたい事は山ほどある。

 例えば「決闘とか正気ですか?」とか「貴方はどこかの戦闘民族ですか?」とか、言いだしたらキリが無いかもしれない。

 だが、不本意ではあるが、これでも私は『黒百合の魔女姫』と呼ばれている。

 そう、姫だ。姫なのだ。

 そして、葵君は騎士だ。

 「騎士様と姫の決闘ってどうなのでしょうか?」とか……ね。


 しかし、今の状況でそんな事言ってもしょうがないのだろう。

 目の前には、剣を抜いて構えている葵君がいるのだから。


「はぁ」


 溜息を吐いて、念のために持って来ておいた愛用の杖を取り出し、右手を突きだすように構える。


「準備はいいですか?」

「ええ、いつでもどうぞ」

「では、尋常に……勝負!」


 その言葉と共に、葵君は常人ではありえないスピード突っ込んでくる。


「なっ!?」


 正直、前のレクレーションで凄く速いとは思っていたが、見るだけじゃなく相対してみると分かる。

 これは想定外だ。速過ぎる。

 即座に斜め後ろに回避行動を取りながら、呪文を唱える。


「阻め!『水壁』」

「ふっ!」


 葵君は私の水壁の事など分かりきっていたように、右に跳んで水の壁を避ける。


「撃て!『火弾』」


 逃げた方向に向けて、ピンポン玉サイズの火の球を数発撃ち込むが……


「はぁぁああ!!」


 葵君の気合いの咆哮と共にあっけなく斬り伏せられる。


「嘘!?」


 いや、嘘ではない。

 レクリエーションの時もあの生徒会長の攻撃を防いでいたのだ。

 これぐらい出来て当たり前……なのか?

 でも、炎の魔法だよ?結構威力あるんだよ?


 正直決闘なんて、適当にやれば良いかなと思っていたが、やられっぱなしは私のなけなしのプライドが許さないようだ。

 負けたくなくなった。


「貫け!『土槍』」


 葵君の背後の地面に干渉して、死角から生やした土槍が葵君を襲うが、振り返りざまに斬られる。


「なんで!?」


 正直焦る。

 なんで、死角からの攻撃が対処できるか理解できない。

 後ろに目でもついているのか?


「吹け!『風撃』」


 ならば、後ろを向いた状態から、見えない攻撃なら当たるだろうと、考えて撃ってみる――


「ふっ!くっ!」


 撃ってみたが、葵君は剣を横に寝かせ、見事に防御してみせた。

 しかし、風撃の威力で葵君が後ろに下がったので、再び私との距離が開いた。

 その隙に追撃をしようかと思ったが、葵君は風撃を受けている間も、油断なく私の事を視界に収め警戒している。


「…………」

「…………」


 私と葵君は互いに無言で睨み合う。

 さて、葵君がここまで強いとは思ってもみなかった。

 もしかしたら、今までの攻撃は葵君からしたら、小手調べなのかもしれない。

 私も初めはそのつもりだったが、途中から頑張ったのに、全て防がれてしまった。


 彼の速度も大体掴んだが、こちらの攻撃が当たるビジョンが全く見えない。

 更に速くなられると、正直捉えられる気がしない。

 となれば……


「はぁ……仕方がないか……」


 私はため息交じりに呟き、杖を葵君に向ける。


「お見せしましょう――本物の魔法(・・・・・)を」




 このクアルトには『魔法』が存在するという『設定』になっている。

 魔法は科学技術の粋を結集させたものとされている。

 魔法学の講義もそうだ。

 あの講義では『最先端の科学技術』である『魔法』を学ぶ事が出来るとされている。

 しかし、考えてみて欲しい。

 それが「本当に科学技術(・・・・・・・)であるのか?」と。


 例えば、クアルトコロシアムの『サブスタンシエーションフィールド』という科学技術。

 あんなもの、現代の科学技術だけで出来る筈が無い。

 ならば、アレは何なのか?

 答えは簡単だ。最初から、ずっと言っている事だ。



 あれは、あれらは『魔法』だ。

 本物の魔法(・・・・・)なのだ。



 この世には、科学では証明できない、摩訶不思議な力が『魔法』が存在しているのだ。


 ある有名な作家は「十分に発達した科学は魔術と見分けがつかない」と言った。

 そこで総学園長――いや、銀次郎氏は「ならば、その逆もあってもいいのではないか?」と考え、そして、銀次郎氏は『魔法は十分に発達した科学と見分けがつかない』と考えたのだ。


 しかし、現代では認められない『魔法』を隠匿する為に、科学技術として『魔法』が存在するという、ややこしい事をした。

 そう、この街は『魔法で発展した都市』であり『魔法使いを管理する都市』でもあるのだ。


 そして、約束していた私のもう一つの秘密をお教えしよう。



 ――私、二神悠は、何を隠そう『魔法』を自在に操る『魔法使い』だ。




「我願うは、断罪の剣!」


 私は葵君に向けていた杖を天に掲げて叫ぶ。


「咎人に罰を、罪人に死を、虚無の安らぎを与え給え」


 私の詠唱に葵君は危険を感じたのか、こちらに突っ込んで来るが……残念ながらもう遅い。


「穿て!『雷剣の勲章菊(ガザニア)』」


 私の言葉と共に閃光が走り、轟音が鳴り響く。


「ぐぁぁあああああああ!!!!」


 光の速さを避けも斬れる訳もなく、直撃した葵くんは地面に両膝を着き、腕をだらりと下げ、こちらを「信じられない!」といった表情で見ている。


 当たり前だ。

 手加減したと言っても、本物の雷を体に浴びたのだ。

 動ける訳がないし、何をしたか分かる筈もない。


 私はゆっくりと歩き葵君に近づき、その首元に杖を添えた。


「まだやりますか?」

「……参りました」

「それまで!勝者!二神悠!」


 涼さんの言葉を聞いて、杖を下ろす。


「完敗だったよ」

「いえ、流石は騎士様ね。強かったわよ」


 しかし、葵君はなんとも言えない表情だった。

 まぁ「負けたのに強いと言われても……」って事なのかな。

 だが、お世辞ではなく本当に強かった。

 こっちは本物の魔法を使うほどに、だ。

 鬼畜眼鏡にはレクリエーションだった為、本物の魔法は使えなかったけど、今回は、久々に全力で戦った。


 それより、あれ程の魔法を使ってしまったが、涼さんは何も言わないのが気がかりだ。

 私はちらりと涼さんを見るが、肩を竦めるだけで何も言わなかった。

 まぁ「決闘を受けろ」と言ったのは涼さんだし「本物の魔法を使うな」とは言われてないし、問題なったのだろう。

 その姿に安堵の溜息を吐く。


「ふぅ」

「やはり、あの時の胸の高鳴りは、こういう事だったのでしょう」

「え?何?」


 葵君がいきなり語りだすから、素で首を傾げてしまう。

 しかし、私の質問の答えは返されることはなく、葵君は私を見つめる。


「では、御手を失礼します」

「え?」


 葵君はそう言って、私の手を取った。

 彼は負けて膝を突いたままだったので、自然と私を見上げる様な状態だ。

 その姿は一見、上目遣いにもみえる。


「え?え?」


 少し葵君は体勢を変え、片膝を立て私の右手で握り――そして、手の甲にキスをした。


「な!?」


 葵君の突然の行動に驚き、体が固まり、羞恥で顔が真っ赤になるのが自分でも分かる。


「僕――葵=フォン=アインスブルクは、二神悠――貴女に忠誠を誓いましょう」

「なっ?……えっ!?」


 口をパクパクと開けて、何か喋ろうとするが、言葉にならない。

 そして、葵君の行動の意味が分からない。


 そんな私の事など気にせずに、葵君は言葉を続ける。


「貴女に負けた身でおこがましいかもしれません。けれど、我が生涯、微力ながら貴女の力になりましょう。いついかなる時でも貴女の下に馳せ参じ、命を賭して貴女を守る事を……ここに誓います」


 その言葉に、想いに、頭を鈍器で殴られた様な衝撃が襲う。

 心臓が破裂するのではないかと思うほど、激しく鳴っているのが分かる。

 なぜだか、葵君の軽く添えられるように握られた手を、振りほどく事が出来ない。


「我が忠義を受け入れてもらえませんか?」


 そんな事を言いながら下から私を見上げる。

 その目は少しの不安の色が見えるが、覚悟の、決意の籠った眼差しだった。


 これは……この展開はまるで物語に出てくる姫と騎士のようではないか!?

 こんなのダメだ。

 そもそも私は姫だけど、姫じゃない。

 自分で何を言っているか分からないけど、姫でないことは確かだ。

 ならば、この申し出を受ける訳にはいかないだろう。

 私は彼の想いを、願いを、否定をしなければならないのだ。


 しかし、私の首と口は自分の意志と異なり――


「……は、はぃ」


 葵君の言葉に頷いてしまった。


「っ!!ありがとうございます!!」


 私の手を握り、お礼を言いながら笑う葵君は、今までに見た笑顔の中でも、一際美しかった。



 こうして、私に騎士が出来た。





次は18時です。

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