7-1.姫や騎士ではありません side悠
本日2話目
怒涛の『レクリエーション』が終わり、入学式まであと少しとなったこの善き日に、私は悩みを抱えていた。
結論から言うと、その悩みというのは、葵君から「お手紙」が届いた事だ。
残念ながら私はヤギではないので、別にあの童謡の様に読まずに食べた訳ではないが、その「お手紙」っていうのが問題だった。
何が問題かというと、その「お手紙」という物の表紙というか、表に書かれている文字だ。
その書かれてある文字が何かというと『果たし状』という四文字だった。
一瞬、ラブレターかと思ったが……流石に違うだろう。
見た目が超絶美少女の私でも、こんな斬新なラブレター貰ったことないし、これがラブレターだとしても、私は嫌だ。
出来る事ならば、こんな手紙なんて、読まずに食べて、記憶から消してしまった方が良かったのかもしれない。
自分がホモ・サピエンスであった事を、これほど悔やむ事など、今迄生きてきた中で初めての出来事だ。
涼さん曰く『ティッシュと焼き肉のタレはとても相性が良い』と聞き及んでいるので、今こそ試してみるべきかもしれない。
ティッシュと合うのなら、或いは同じ紙である手紙もまた、合うのかもしれない。
さて、馬鹿な事はいいとして……話を戻そう。
果たし状。
辞書で調べなくても分かるが、果し合いを申し込む書状。
もしくは、決闘状とも言われるモノだ。
これを目にした瞬間、焦って女子トイレに駆け込んで内容を確認した。
流石に教室で『果たし状』と書かれた手紙を確認する度胸は、私にはない。
そこに書かれている内容は至ってシンプルなものだった。
『今日の夕方5時、屋上にて君を待つ 葵』その一文だけだ。
この一文だけ見ると、愛の告白でもされそうだが、表に書かれた『果たし状』の文字のせいで、違うという事は分かる。
いやだが、これを『果たし状』と決めつけるのは早計だ。
違和感がないほど流暢に日本語を話し、不思議なほど日本文化に馴染んではいるが、葵君はクォーターだ。
もしかしたら、誰かにどこかで変な知識を教えられた可能性もある。
そう考えると、これは新手のラブレターなのだろうか?
……くそっ、分からない。
ここで私は更に考える。
それは「なぜ、私は彼にこの様な物を送られているのだろうか?」という事だ。
気になる。気になって葵君を見るが、目と目が合うと自分の顔が熱くなるのが分かり、悔しい気持ちでいっぱいになる。
これでは、異性を意識し始めた小学生にも劣るのではないのだろうか。
いや違う。
そうじゃなくて「なぜ葵君はこんなものを私に送ってきたのか?」という事だ。
今までの事をよく思い出して考えてみる……がダメだ。
私の様な、男としても女としても中途半端な経験しか持たない、変な生物では、彼の行動や思考が予測できない。
「くっ……分からない……」
「悠、どうしたの?」
悩める私の前に現れたのは、私の愛しの女神楓ちゃんだ。
ここはアレだ。悩める子羊達が一度は使う、あの手を使おう。
神の御前だし問題ないよな?
「そ、それがね?私の友達がね?男子から手紙を貰ったらしいの」
そう。これこそ『私の友達がね』って言って、自分の事を相談するという、使い古されているが、とても有効な例のアレだ。
「え〜凄い。ラブレターかなぁ」
「そ、それがね。その書かれている内容は『放課後○○で君を待つ』だけらしいんだけど……その、その手紙の表には『果たし状』って書かれているのよ」
「ラ、ラブレター……かな?」
私の言葉にいつものほほんとしている、癒し系美少女の楓ちゃんも流石に戸惑っている。
「それで、その友達は行くべきかどうか悩んでいるらしいの。そう、友達がね!」
大切な事なので『友達』を強調する。
ここで『私じゃありませんよ〜』と主張する事が大事だ。
「そっか〜。悠も大変だね」
「うん……って、私じゃないよ?友達だからね。うん、友達ね」
「そっか〜……それで相手は葵君?」
「さ、さぁ?友達の事だからそこまで聞いてないわよ。うん、友達の事だからね?」
「そっか〜」
再三にわたって友達と主張する私に対して、この子は私の話を全無視してくる。
おかしいな?こんな事をする子じゃなかったのに……やはり、おっぱいを揉みしだいた事によって、何か楓の中で化学反応でも起こってしまったのだろうか?
それは大変だ。
もしかしたら、楓の命にかかわる事かもしれない。
もう一度私の手で、オペという名の揉みしだきをしなければなるまい。
「悠?手がなんか変だよ?」
「あっいえ、何でもないです。デュフフ」
しまった。乙女らしからぬ笑い声が漏れてしまった。
これじゃ、まるで変態みたいじゃないか……あっ、私女装して学園に通う変態だった。
なら、問題ないのか?
いや、違う。混乱しているぞ?
「悠……よく分からないけど頑張ってね!」
「と、友達だからね!」
私の肩を叩いてなんとも言えない顔で去っていく楓に、震える声で否定だけはしておいた。
ここで私がその事を認める訳にはいかないので、友達の相談という方向で貫き通す。
過去に『嘘も貫き通せば真になる』と聞いた事はあるが、ここでは事実100%なので、正直心が折れそうだ。
しかしながら、ここで私がその事実を認める訳にはいかない。
認めさえしなければ、限りなく黒に近い白という言い訳が出来る筈だ……出来るよな?
「あ〜……どうしよう」
そして、一人机に突っ伏し、頭を抱えたまま無情にも時間は過ぎて行った。
放課後。
時間が経つのは早いもので、とうとうこの時が来てしまった。
正直に言えば行きたくない。
行きたくはないが、ここで行かない訳にもいかない。
まぁ、なんやかんや言っても、私も思うところがあるのだ。
そろそろ、この自分の意味の分からない感情に決着をつける為にも、約束の地へと行くべきなのだ。
それに、だ。
まだ決闘と決まった訳ではないし、あっちから見たら、こっちは女の子だ。
葵君の様な紳士が、まさかこんなか弱い女性(見た目だけ)に手を挙げる筈がない。
そう考えると、気持ちが少し楽になって屋上へと向かう事が出来た。
屋上の扉を開けると、そこには――
「やぁ、待っていたよ」
そこには、完全武装した葵君がいた。
白銀の鎧を身に纏い、騎士の代名詞――いや、誇りと呼ぶべき剣を腰に帯びて立っていた。
「…………」
「来てくれて嬉しいよ」
扉を開けたまま絶句する私に、葵君は朗らかな笑顔を見せ話しかける。
「……マジですか?」
「うん?日本では古来より、決闘の前には果たし状を送るものなんだよね?」
「…………」
そんな事言われても知らないよ。
ここは日本で……まぁ、治外特区だけど、今は現代だ。
某SNSのツゥオッターで呟くなら『二十一世紀なう』だ。
今私がツォッターでそう呟けば、皆は『お、おう……』とか『どうした?悩みがあるのか?』と、返されるぐらい当たり前の事だ。
そんな現代で、決闘の古来よりの風習を出されても困るのだ。
こちとら、ピチピチの十代でナウなヤングな若者なのだ。
「さぁ!さぁ!」
こちらのやる気を察していないのか、葵君がちょっと暑苦しい感じだ。
言いたくはないが、キャラがブレているぞ。
なんか今日は寒いなと思って、ネットで調べたら『あの熱い人が海外出張で外国にいるせいか』と言われるぐらい熱い人の片鱗がある。
いつもの天然王子様の葵君に戻って欲しい。
そんな少し痛々しい葵君から目を逸らして、私は握ったままだった屋上の扉を、そっと閉じた。
「え?なんで?ちょっと待ってー!」
扉越しに葵君の焦る声が聞こえたが、今の私には関係ない事だと思う事にした。
次の更新は明日の12時です。




