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薔薇や百合ではありません  作者: 小林 あきら
第一章 薔薇や百合ではありません
30/48

5-6

本日一話目

「これは酷い……ですね」


 本陣に戻ると、そこは激しい攻防が繰り広げられていた。

 重兵隊は全身水浸しで、今にも倒れそうだ。


「報告を!」


 私の言葉に、疲れた顔をした参謀の上P君が私の前に跪く。


「はっ!敵は水風船による広範囲爆撃を行ってきています!そして、その隙を突くように銃撃も継続して行われております!」


 水風船による絨毯爆撃。

 そうか、その手があったか。

 私達の命とも呼ぶべき紙風船は脆い。紙製の物なので特に水に弱い。

 流石生徒会長様だ。よく考えている。


「あっ!また来ます!」


 その言葉に上を見ると、水風船が何個も飛んで来ていたが……舐めるなよ?


「甘いですね!『風撃』!」


 私は腕に巻いたデバイスを即座に軌道させ、私の魔法の発動と同時に、その水風船たちを元あった方向に弾き返しておく。


「うわぁぁ!」

「なんで!?」

「ぎゃぁああ!」

「水がぁぁあああ!」


 敵陣にはね返した水風船は、そのままあちらで爆発したようだ。

 これでしばらくは安全だろう。


「お見事です!」

「ふふ、報告を続けてください」


 私はにこやかに笑って続きを促す。

 まぁね。この『魔女姫』の名は伊達じゃないさ。

 ……いや、女でも、姫じゃないけどな。


「はっ!広範囲の大量の爆撃と、上に注意を向けたその隙に、敵の狙撃によって、こちらも数を削られました」

「やはり、狙撃は厄介ですね」


 分かっていた事だが、狙撃は姿が見えず遠距離からの攻撃なので、警戒していても、防ぐのは容易ではない。

 それを崩す事が出来れば、こちらには突破力のある部隊で強襲できるのだけど……


「安心下さい!斥候部隊が見事やりました」


 そんな事を考えていたら、上P君が素晴らしい報告をしてくれた。


「嘘!?どこの部隊ですか?」

「B班です。ですが……彼らも相討ちになりました」

「無茶しやがって……分かりました。指揮をまた私に戻します。留守中の指揮ご苦労様でした」

「はっ!勿体無きお言葉!」


 上P君は敬礼して脇に下がる。

 狙撃兵がいないのなら、こちらもやり様がある。


「皆、聞いてください!」


 前線の人達にも聞こえる様に声を張る。


「我ら遊撃隊により、敵に多大なダメージを与えました!また、斥候部隊が見事敵の狙撃兵を打ち倒しました。その間、ここを守っていてくれた諸君に多大な感謝と賛辞を送ります!今も戦闘で辛いでしょうが、もうひと踏ん張りです!もう一度、我が下で死力を尽くし、戦ってはくれませんか?」


 私の問いかけに、彼らは練習していたかのように叫び出す。


「「「「御心のままに!」」」」

「ありがとう!皆の素晴らしき忠誠に感謝する!」


 皆に感謝の言葉を口にし、刃の潰してある剣を腰から抜き、大きな動作で前に振り下ろしながら、もう一度息を大きく吸って、叫ぶ。


「全軍進めぇぇーー!鬼畜眼鏡を討ち取りなさい!!!」

「「「「うおぉぉおおおおおお!!!!!!」」」」


 私もこの「ごっこ遊び」が随分板についてきた。


 彼らも部下という役を楽しんでいるようでなによりだ。




 そこからは総戦力で、ボクシングのインファイター同士の殴り合いの様な、ガチンコの潰し合いとなった。

 流石は鬼畜眼鏡の部下と言うべきか、敵兵も一筋縄ではいかず、一進一退の状況で事態は進んでいったが、それでも、私達が先に遊撃部隊を潰しておいたためか、確実に敵軍を追い詰めていった。


 そして、遂に生徒会長をある一角の廃屋に追い詰める事に成功した。

 その廃屋には生徒会長が、私の様に数人の近衛兵に守られた状態で、椅子に座っていた。


「ふふふっ。とうとう追い詰めましたよ。さぁ、逃げ場はありませんよ?生徒会長!その首、頂きましょう!」

「……やれやれ。やはり、一筋縄ではいきませんでしたか。流石ですね。まさかここまで追い詰められるとは……ね。少し姫を侮っていた様ですね」


 私はどこぞの悪役の様にそんな事を言って、腰にある模擬剣を抜き、生徒会長に剣を向ける。

 生徒会長もやれやれと大げさに首を振り、ラスボスの様なセリフを口にし、その重い腰を上げこちらを見る。

 これじゃあ、どちらが悪者か分からないが、どっちも性格は悪いのでこれでいいのだろう。


 だが、こちらを見る鬼畜眼鏡の目は、追い詰められた者のする目ではなかった。

 立ちあがった生徒会長の両手には、鬼が描かれた黒い銃が握られている。


「仕方がありませんね。少し私がお相手いたしましょう」


 そう言った瞬間。

 生徒会長の姿がブレた――


「え?」


 ――と思ったら、生徒会長を囲んでいた我が兵達の紙風船が割られていた。


「おやおや、貴方達程度では前座にもなりませんね」


 生徒会長はそう呟きながら、銃を持ったまま手の甲で眼鏡を押し上げる。


「……嘘……でしょ?」


 いや、速過ぎでしょ?人間の動きではない。

 私の方にも魔法銃の球は撃たれていたが、エロ川君と葵君に阻まれて私の所まで届いていない。

 あの速度を出す生徒会長も化け物だが、それについていく我が近衛兵も十分化け物だ。


「おや?どうしました?かかってこないのですか?ならば、こちらからいきましょう」


 台詞が一々悪役の様な生徒会長の気取った言葉がきっかけとなり、そこから残った我が兵達と生徒会長の近衛兵との対決となった。

 近接戦闘なので、こちらに分があるかと思われたが、生徒会長のツーハンドの銃捌きが半端ない。

 どこの殺し屋だよ。


 葵君が何とか生徒会長を抑えているが、それでもこちらが押され始めている。

 そして、遂に葵君が生徒会長の蹴りをもらい吹き飛ばされる。

 このままでは、葵君がやられると思い、生徒会長に向けて魔法を放つ。


「くらえ!『水弾』」


 ピンポン玉サイズの大きさの水の球を複数作り、撃ち出すが――


「ふふふ、ふははっ!」


 どこかの魔王様の様に笑いながら、私の水弾を鮮やかに避け、更には銃のマガジンの部分で叩き落とされる。

 マジで化け物だ。


「ふはははははは!」

「くっ!『水壁』!」


 水で障壁を作りなんとか生徒会長の弾幕を防ぐが、今度は私を標的として認識したのか、じわじわと私との距離を詰めてくる。

 色んな意味で恐怖のあまり私は後ろに下がるが、後ろはすでに壁で、逃げ場はない。

 私は腹をくくり、前を、生徒会長を見る。


 大丈夫、この距離なら当たる筈だ!


「『水球』!!!!」


 私を守っていた水壁を凝縮させ、先程までの大きさと異なり、バスケットボールサイズの大きな水の球を生徒会長にぶつける。

 何かに当たり、バシャと水球の弾ける音が聞こえる。


「やった?」

「いいえ!」


 私の声に答えたのは、水球が当たった筈の生徒会長だった。

 私は気付かぬうちに「やってないフラグ」の言葉を口にしていた。


「なんで!?」

「危なかったですよっ!」


 そう言いながら濡れた手を私に見せつつ、更に距離を詰めてくる。

 先程の攻撃で片手を犠牲にして防いだのだろう。

 肩の位置まで水で濡れて、二丁持っていた銃は、片方が無手となっていた。


「しまっ――」


 ここまで近づかれた私は、あの速さの生徒会長の攻撃を防ぐ術がない。

 生徒会長の無手になった方の手が、そのまま、私の紙風船を掴もうと伸ばされる。


「さよな――」


 敗北を覚悟した。

 その瞬間――


「そうはいきません!」


 ブゥウンと空を斬り割くように、剣が振り下ろされる音と共に、私の前に現れたのは、葵君だった。

 どうやら私は生存フラグの方も立てていたようだ。


「以前も言いましたが、この人は貴方の様な人が触れていい人ではありません」


 私を背に庇い、手にした剣を、距離を取った生徒会長に向ける。


「それに、約束しましたからね。僕が『あらゆるものから悠さんを守る』と」


 葵君の言葉に胸が高なり、顔が熱くなる。

 くっそ、ダメだ……カッコよすぎる。

 その出で立ちは勇ましく、私を守るように立つ葵君は、凛々しくてキラキラと輝いて見える。

 これが勇者や王子と呼ばれる人なのだろうか?眩しくて直視できない。

 このキラキラエフェクトは、幻影なのだろうか?


 だとしたら、あの少年達が言っていたように、私は『目から膿』に違いない。

 早く病院に行かないと……


「私と姫との逢引の邪魔をしないでいただこうか!」


 生徒会長の言葉で乙女空間から現実に戻る。

 いや……危なかった。

 私は男だ。きっとこれは男が、その男の生き様に男に惚れる様なものだ。


 いや、それより、クソ眼鏡やめろよ!逢引とか言うな!

 なんかゾワッとしたぞ!?

 背筋が凍るかと思ったし!さっきとは別の意味で怖い。

 なんというか、貞操の危機的な意味で。


 生徒会長はそんな戯言を言いながら魔法銃を撃つが、その銃撃を葵君は真正面から斬り伏せ、叫ぶ。


「貴方が悠さんに触れる事は僕が許さない!悠さんは貴方の事を気味悪がっています!」

「くっ!忌々しい騎士だなっ!」


 挑発のつもりで言ったのか、素で言っているのか分からないが、天然の葵君の言葉に生徒会長の顔が憎悪で歪む。


 全くもって、葵君の言う通りだ。

 もっと言ってやって欲しい。

 なぜなら、私は男なのだから、イケメンに言い寄られても、ときめいたりなんかしない。

 それなのに、あの鬼畜眼鏡ときたらしつこいんだ。


 そんな私のどうでもいい考えを他所に、葵君は銃が一つとなった生徒会長と渡り合っている。

 周りを見渡せば、残ったのは、もう、私と葵君と生徒会長だけだ。

 いつの間にか、我が兵は敵の近衛兵と相討ちになっていたようだ。

 エロ川君の癖にいい仕事をしてくれる。


「さぁ、残るは貴方だけです」


 葵君の言葉に、初めて生徒会長の表情から余裕の笑みが消えた。

 それを見て、こちらの有利な状況となった事を確信する。


「葵君。魔法を使うから、援護をお願い」

「御心のままに!」


 私の言葉に葵君は笑顔で応え、私を守るように生徒会長に立ち憚る。


「いきます!『水弾』!」


 水でビー玉サイズの大きさの球を出来るだけたくさん作り出し、生徒会長の気持ち左側を狙う。


「そんな攻撃!当たりませんよ!」


 その攻撃を生徒会長は右に跳ぶように避ける。

 そして、避けながらも的確にこちらの紙風船を狙ってくる。

 だが、私の前には葵君がいる。

 彼は、生徒会長の攻撃をいともたやすく斬り伏せ、距離を詰めて行っている。

 生徒会長はああ言ったが、私の攻撃など別に当たらなくていいのだ。

 狙いは別にある。


「かかった!『水壁』!」


 そして、生徒会長の逃げた方向に水の壁を作る。

 すかさず生徒会長は後ろに逃げるが――残念、そこは壁だよ。


「しまった!?」


 その隙を逃さず、葵君が更に詰め寄り、上段から斬撃を加える。


「はぁぁあああ!!」

「まだだ!」


 生徒会長は紙風船を守るように銃を構えるが、それで斬撃に耐えきれる訳もなく、残っていた銃は弾き飛ばされる。

 紙風船は守られたが、無手となった生徒会長は、それでも体術で葵君の剣撃を乗りきろうと、両手を顔の前に突き出し構える。

 だが、葵君の後ろから銃を構えた私が飛び出す。


 この銃は敵の遊撃兵を倒した時に、敵兵から奪った魔法銃だ。

 さぁ因果応報だ。

 こんなセコイ武器使うから悪いんだ。


「ははっ、やはり姫には敵いませんでし――」

「終わりです!」


 生徒会長の言葉を最後まで聞かずに、魔法銃で生徒会長の紙風船を撃ち抜いた。


『決まったぁぁああああ!!!!ここで、悠様が生徒会長を討ち破ったぁぁああ!!!!勝負ありだ!勝ったのは『黒百合騎士団』!!!『黒百合騎士団』だぁああああ!!!!!』

『そうですね、素晴らしい戦いでした。魔法銃が出た時は、流石に分が悪いと思いましたが。まさか、これほどまでの接戦になるとは思いませんでしたからね。更に言うと、あの生徒会長を――』


 実況の声に、勝った実感が湧いてくる。

 そうだ、私は勝った。私達は勝った。勝ったのだ!

 決着と共に旧市街のステージが消え、ただ広い空間に戻る。

 すると、戦死のスペースにいた我が兵達――いや、我が戦友達は叫びながら近寄ってくる。


「勝鬨を上げろー!」

「ひゃっはー!」

「うおぉぉおおおお!!」

「えいえいおー!」

「やったー!」

「わぁぁあああああ!!」

「姫様ばんざーーい!」

「やっほーーーーい!!」



 そして、私達はまるで優勝したかのように、抱き合い、互いを褒め合い、功績を称え、勝利を分かち合った。





次は18時です。

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