5-6
本日一話目
「これは酷い……ですね」
本陣に戻ると、そこは激しい攻防が繰り広げられていた。
重兵隊は全身水浸しで、今にも倒れそうだ。
「報告を!」
私の言葉に、疲れた顔をした参謀の上P君が私の前に跪く。
「はっ!敵は水風船による広範囲爆撃を行ってきています!そして、その隙を突くように銃撃も継続して行われております!」
水風船による絨毯爆撃。
そうか、その手があったか。
私達の命とも呼ぶべき紙風船は脆い。紙製の物なので特に水に弱い。
流石生徒会長様だ。よく考えている。
「あっ!また来ます!」
その言葉に上を見ると、水風船が何個も飛んで来ていたが……舐めるなよ?
「甘いですね!『風撃』!」
私は腕に巻いたデバイスを即座に軌道させ、私の魔法の発動と同時に、その水風船たちを元あった方向に弾き返しておく。
「うわぁぁ!」
「なんで!?」
「ぎゃぁああ!」
「水がぁぁあああ!」
敵陣にはね返した水風船は、そのままあちらで爆発したようだ。
これでしばらくは安全だろう。
「お見事です!」
「ふふ、報告を続けてください」
私はにこやかに笑って続きを促す。
まぁね。この『魔女姫』の名は伊達じゃないさ。
……いや、女でも、姫じゃないけどな。
「はっ!広範囲の大量の爆撃と、上に注意を向けたその隙に、敵の狙撃によって、こちらも数を削られました」
「やはり、狙撃は厄介ですね」
分かっていた事だが、狙撃は姿が見えず遠距離からの攻撃なので、警戒していても、防ぐのは容易ではない。
それを崩す事が出来れば、こちらには突破力のある部隊で強襲できるのだけど……
「安心下さい!斥候部隊が見事やりました」
そんな事を考えていたら、上P君が素晴らしい報告をしてくれた。
「嘘!?どこの部隊ですか?」
「B班です。ですが……彼らも相討ちになりました」
「無茶しやがって……分かりました。指揮をまた私に戻します。留守中の指揮ご苦労様でした」
「はっ!勿体無きお言葉!」
上P君は敬礼して脇に下がる。
狙撃兵がいないのなら、こちらもやり様がある。
「皆、聞いてください!」
前線の人達にも聞こえる様に声を張る。
「我ら遊撃隊により、敵に多大なダメージを与えました!また、斥候部隊が見事敵の狙撃兵を打ち倒しました。その間、ここを守っていてくれた諸君に多大な感謝と賛辞を送ります!今も戦闘で辛いでしょうが、もうひと踏ん張りです!もう一度、我が下で死力を尽くし、戦ってはくれませんか?」
私の問いかけに、彼らは練習していたかのように叫び出す。
「「「「御心のままに!」」」」
「ありがとう!皆の素晴らしき忠誠に感謝する!」
皆に感謝の言葉を口にし、刃の潰してある剣を腰から抜き、大きな動作で前に振り下ろしながら、もう一度息を大きく吸って、叫ぶ。
「全軍進めぇぇーー!鬼畜眼鏡を討ち取りなさい!!!」
「「「「うおぉぉおおおおおお!!!!!!」」」」
私もこの「ごっこ遊び」が随分板についてきた。
彼らも部下という役を楽しんでいるようでなによりだ。
そこからは総戦力で、ボクシングのインファイター同士の殴り合いの様な、ガチンコの潰し合いとなった。
流石は鬼畜眼鏡の部下と言うべきか、敵兵も一筋縄ではいかず、一進一退の状況で事態は進んでいったが、それでも、私達が先に遊撃部隊を潰しておいたためか、確実に敵軍を追い詰めていった。
そして、遂に生徒会長をある一角の廃屋に追い詰める事に成功した。
その廃屋には生徒会長が、私の様に数人の近衛兵に守られた状態で、椅子に座っていた。
「ふふふっ。とうとう追い詰めましたよ。さぁ、逃げ場はありませんよ?生徒会長!その首、頂きましょう!」
「……やれやれ。やはり、一筋縄ではいきませんでしたか。流石ですね。まさかここまで追い詰められるとは……ね。少し姫を侮っていた様ですね」
私はどこぞの悪役の様にそんな事を言って、腰にある模擬剣を抜き、生徒会長に剣を向ける。
生徒会長もやれやれと大げさに首を振り、ラスボスの様なセリフを口にし、その重い腰を上げこちらを見る。
これじゃあ、どちらが悪者か分からないが、どっちも性格は悪いのでこれでいいのだろう。
だが、こちらを見る鬼畜眼鏡の目は、追い詰められた者のする目ではなかった。
立ちあがった生徒会長の両手には、鬼が描かれた黒い銃が握られている。
「仕方がありませんね。少し私がお相手いたしましょう」
そう言った瞬間。
生徒会長の姿がブレた――
「え?」
――と思ったら、生徒会長を囲んでいた我が兵達の紙風船が割られていた。
「おやおや、貴方達程度では前座にもなりませんね」
生徒会長はそう呟きながら、銃を持ったまま手の甲で眼鏡を押し上げる。
「……嘘……でしょ?」
いや、速過ぎでしょ?人間の動きではない。
私の方にも魔法銃の球は撃たれていたが、エロ川君と葵君に阻まれて私の所まで届いていない。
あの速度を出す生徒会長も化け物だが、それについていく我が近衛兵も十分化け物だ。
「おや?どうしました?かかってこないのですか?ならば、こちらからいきましょう」
台詞が一々悪役の様な生徒会長の気取った言葉がきっかけとなり、そこから残った我が兵達と生徒会長の近衛兵との対決となった。
近接戦闘なので、こちらに分があるかと思われたが、生徒会長のツーハンドの銃捌きが半端ない。
どこの殺し屋だよ。
葵君が何とか生徒会長を抑えているが、それでもこちらが押され始めている。
そして、遂に葵君が生徒会長の蹴りをもらい吹き飛ばされる。
このままでは、葵君がやられると思い、生徒会長に向けて魔法を放つ。
「くらえ!『水弾』」
ピンポン玉サイズの大きさの水の球を複数作り、撃ち出すが――
「ふふふ、ふははっ!」
どこかの魔王様の様に笑いながら、私の水弾を鮮やかに避け、更には銃のマガジンの部分で叩き落とされる。
マジで化け物だ。
「ふはははははは!」
「くっ!『水壁』!」
水で障壁を作りなんとか生徒会長の弾幕を防ぐが、今度は私を標的として認識したのか、じわじわと私との距離を詰めてくる。
色んな意味で恐怖のあまり私は後ろに下がるが、後ろはすでに壁で、逃げ場はない。
私は腹をくくり、前を、生徒会長を見る。
大丈夫、この距離なら当たる筈だ!
「『水球』!!!!」
私を守っていた水壁を凝縮させ、先程までの大きさと異なり、バスケットボールサイズの大きな水の球を生徒会長にぶつける。
何かに当たり、バシャと水球の弾ける音が聞こえる。
「やった?」
「いいえ!」
私の声に答えたのは、水球が当たった筈の生徒会長だった。
私は気付かぬうちに「やってないフラグ」の言葉を口にしていた。
「なんで!?」
「危なかったですよっ!」
そう言いながら濡れた手を私に見せつつ、更に距離を詰めてくる。
先程の攻撃で片手を犠牲にして防いだのだろう。
肩の位置まで水で濡れて、二丁持っていた銃は、片方が無手となっていた。
「しまっ――」
ここまで近づかれた私は、あの速さの生徒会長の攻撃を防ぐ術がない。
生徒会長の無手になった方の手が、そのまま、私の紙風船を掴もうと伸ばされる。
「さよな――」
敗北を覚悟した。
その瞬間――
「そうはいきません!」
ブゥウンと空を斬り割くように、剣が振り下ろされる音と共に、私の前に現れたのは、葵君だった。
どうやら私は生存フラグの方も立てていたようだ。
「以前も言いましたが、この人は貴方の様な人が触れていい人ではありません」
私を背に庇い、手にした剣を、距離を取った生徒会長に向ける。
「それに、約束しましたからね。僕が『あらゆるものから悠さんを守る』と」
葵君の言葉に胸が高なり、顔が熱くなる。
くっそ、ダメだ……カッコよすぎる。
その出で立ちは勇ましく、私を守るように立つ葵君は、凛々しくてキラキラと輝いて見える。
これが勇者や王子と呼ばれる人なのだろうか?眩しくて直視できない。
このキラキラエフェクトは、幻影なのだろうか?
だとしたら、あの少年達が言っていたように、私は『目から膿』に違いない。
早く病院に行かないと……
「私と姫との逢引の邪魔をしないでいただこうか!」
生徒会長の言葉で乙女空間から現実に戻る。
いや……危なかった。
私は男だ。きっとこれは男が、その男の生き様に男に惚れる様なものだ。
いや、それより、クソ眼鏡やめろよ!逢引とか言うな!
なんかゾワッとしたぞ!?
背筋が凍るかと思ったし!さっきとは別の意味で怖い。
なんというか、貞操の危機的な意味で。
生徒会長はそんな戯言を言いながら魔法銃を撃つが、その銃撃を葵君は真正面から斬り伏せ、叫ぶ。
「貴方が悠さんに触れる事は僕が許さない!悠さんは貴方の事を気味悪がっています!」
「くっ!忌々しい騎士だなっ!」
挑発のつもりで言ったのか、素で言っているのか分からないが、天然の葵君の言葉に生徒会長の顔が憎悪で歪む。
全くもって、葵君の言う通りだ。
もっと言ってやって欲しい。
なぜなら、私は男なのだから、イケメンに言い寄られても、ときめいたりなんかしない。
それなのに、あの鬼畜眼鏡ときたらしつこいんだ。
そんな私のどうでもいい考えを他所に、葵君は銃が一つとなった生徒会長と渡り合っている。
周りを見渡せば、残ったのは、もう、私と葵君と生徒会長だけだ。
いつの間にか、我が兵は敵の近衛兵と相討ちになっていたようだ。
エロ川君の癖にいい仕事をしてくれる。
「さぁ、残るは貴方だけです」
葵君の言葉に、初めて生徒会長の表情から余裕の笑みが消えた。
それを見て、こちらの有利な状況となった事を確信する。
「葵君。魔法を使うから、援護をお願い」
「御心のままに!」
私の言葉に葵君は笑顔で応え、私を守るように生徒会長に立ち憚る。
「いきます!『水弾』!」
水でビー玉サイズの大きさの球を出来るだけたくさん作り出し、生徒会長の気持ち左側を狙う。
「そんな攻撃!当たりませんよ!」
その攻撃を生徒会長は右に跳ぶように避ける。
そして、避けながらも的確にこちらの紙風船を狙ってくる。
だが、私の前には葵君がいる。
彼は、生徒会長の攻撃をいともたやすく斬り伏せ、距離を詰めて行っている。
生徒会長はああ言ったが、私の攻撃など別に当たらなくていいのだ。
狙いは別にある。
「かかった!『水壁』!」
そして、生徒会長の逃げた方向に水の壁を作る。
すかさず生徒会長は後ろに逃げるが――残念、そこは壁だよ。
「しまった!?」
その隙を逃さず、葵君が更に詰め寄り、上段から斬撃を加える。
「はぁぁあああ!!」
「まだだ!」
生徒会長は紙風船を守るように銃を構えるが、それで斬撃に耐えきれる訳もなく、残っていた銃は弾き飛ばされる。
紙風船は守られたが、無手となった生徒会長は、それでも体術で葵君の剣撃を乗りきろうと、両手を顔の前に突き出し構える。
だが、葵君の後ろから銃を構えた私が飛び出す。
この銃は敵の遊撃兵を倒した時に、敵兵から奪った魔法銃だ。
さぁ因果応報だ。
こんなセコイ武器使うから悪いんだ。
「ははっ、やはり姫には敵いませんでし――」
「終わりです!」
生徒会長の言葉を最後まで聞かずに、魔法銃で生徒会長の紙風船を撃ち抜いた。
『決まったぁぁああああ!!!!ここで、悠様が生徒会長を討ち破ったぁぁああ!!!!勝負ありだ!勝ったのは『黒百合騎士団』!!!『黒百合騎士団』だぁああああ!!!!!』
『そうですね、素晴らしい戦いでした。魔法銃が出た時は、流石に分が悪いと思いましたが。まさか、これほどまでの接戦になるとは思いませんでしたからね。更に言うと、あの生徒会長を――』
実況の声に、勝った実感が湧いてくる。
そうだ、私は勝った。私達は勝った。勝ったのだ!
決着と共に旧市街のステージが消え、ただ広い空間に戻る。
すると、戦死のスペースにいた我が兵達――いや、我が戦友達は叫びながら近寄ってくる。
「勝鬨を上げろー!」
「ひゃっはー!」
「うおぉぉおおおお!!」
「えいえいおー!」
「やったー!」
「わぁぁあああああ!!」
「姫様ばんざーーい!」
「やっほーーーーい!!」
そして、私達はまるで優勝したかのように、抱き合い、互いを褒め合い、功績を称え、勝利を分かち合った。
次は18時です。




