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薔薇や百合ではありません  作者: 小林 あきら
第一章 薔薇や百合ではありません
27/48

5-3


 衣装選びの日から、あれやこれや準備しているうちに、いつの間にかレクリエーション当日となった。

 許可が下りるか分からないので、魔法デバイスや攻城兵器のバリスタなど考えられる限りの武器の申請や、全体の指揮や戦闘訓練。

 そして、衣装合わせなど、多忙な毎日だった。


 まぁ、ここ数日は忙しかったおかげか、あまり葵君と接触が無くてドキドキしなくて済んだ。

 それは本当に良かったのだが、少し寂しい思いもある、今日この頃だ。


 ……ん!?いやいや、何言っているんだ、私!?

 やはり、少しばかり思考がおかしい。

 こんな事なら、もう一度楓のおっぱいを……いや、ダメだ。

 アレは危険すぎる。

 私がここに帰ってこられない可能性もある。


 主に、法的な意味で!


「悠、いよいよだねっ!」


 私のおかしな思考を現実に戻してくれたのは、私の精神の守護天使こと楓ちゃんだ。

 あ〜くそっ!本当に可愛いなっ!楓ちゃんはサイコーだぜっ!


「うふふ、そうね。他のクラスを血祭りに上げましょう!」

「えへへ〜。うん!楽しみだねっ!」


 私の少し物騒な返答にも、こうして笑顔で応えてくれる。

 やっぱり、楓は最高だ。私の女神様に違いない。

 今度、私の部屋に隠し扉を作って、ご神体は何か楓の私物を拝借させて頂くとして、楓を祀る神棚を作ろう。

 そして、こっそりと楓教団を立ち上げよう。

 うん、そうしよう。それしかないな!

 今日の私は、なんて冴えているんだろう!

 私は隠れキリシタンではなく、隠れカエデタンになろう。


 そんな事を考えながら私達は、決戦の地であるクアルトコロシアムに向かう。

 ほら、何も不安なんてない。もう何も怖くない!

 宗教って素晴らしいねっ!



 さて、楓教の事は後日じっくり考えるとして、戦の場所――戦場となるクアルトコロシアムについて説明をしておこう。


 クアルトコロシアム。

 円形闘技場であり、普段はスポーツ競技などもしている為、たくさんの観客席があり、とても広い場所だ。

 そして、特別な日には、ここが戦場となる。

 剣闘大会が開催され『剣闘士』と呼ばれる人が戦う場所でもある。

 なので、ここでは『サブスタンシエーションフィールド』という魔法がかかっており、ボタン一つで、野球場や、トラックフィールド、平野などの、色々なフィールドが現れるという、とても便利な『魔法』が使われている。


 会場に入り控室に行く前に、対戦相手を決める抽選をしなければならない。

 私達2−Sのチーム名は『黒百合騎士団』となり、名前の由来は私の二つ名から採用された。

 私の反対などなんの意味も無く、多数決とはなんて横暴な決め方なのだろうか、とだけ言っておこう。



 さて、色々と省略させてもらうが、初戦の相手は抽選の結果『デーモンアーミー』となった。

 どこのクラスか分からないが、名前からしてこれは夢の騎士バーサス軍隊だ。

 非現実(ファンタジー)現実(リアル)異種格闘技戦(ドリームマッチ)だ。少し燃えてくる展開でもあるな。


 今回、私はクラス委員という事もあって大将に抜擢された。

 というか、あの衣装決めの日から、級友達は私の事を『隊長』や『大将』と呼ぶようになった。

 私が調子に乗って指示を出した事もあるのだろうが、人を自由に動かせるのは楽しいし、私の性格上からも指揮権がある方が、まぁ都合が良いし、勝つためにはこの役職は必須だ。


 それに、我が2−Sは急造の他クラスと違い、去年も同じクラスだったので、他のクラスと比べて、年期が違う。

 そう、練度が違うのだ。

 くくくっ、他のクラスよ!刮目してみよ!


 我が精鋭達の力、目にものを見せてやろう。


「さて、皆さん準備はいいですか?」

「もちろんだぜ!」

「まかせてー!」

「あたぼーよ!」

「大丈夫だよ!」

「ひゃっはー!」


 控室から皆に最後の確認を取る。

 皆各々、騎士鎧や盗賊風の衣装、魔術師の恰好や冒険者風の服装で口々に言葉を出す。

 外の世界だと、コスプレしてはしゃいでいる集団だろうが、残念ながら私達はガチなのだ。

 なぜなら、これから私達が向かうのは戦場だ。

 生きるか死ぬか。()るか()られるかの世界なのだ。

 否が応でも、緊張で皆の顔は強張ると同時に、気合いも入る。

 色んな感情が入り混じったこの空気……ソクソクするじゃないか!


 私達は絆を強固にする為にも、気合いを入れなおす為にも、拳を前に突き出し、円陣を組んでかけ声を出す。


「では、参りましょう。我らが黒百合騎士団に勝利を!」

「「「「「我が手に栄光を!」」」」」


 私達は力の限り叫び、拳を突き叩き合わせ、そして、突き挙げ、ニヤリと笑い合う。


 嗚呼、楽しいな。


 役に入り込んでの馬鹿騒ぎ。

 偶にはこういう催し物も悪くはない。

 そこだけは、あの生徒会長に感謝しておこう。


 私はマントをバサリとなびかせ、級友達に背を向け歩き出す。


「ついて参れ!」

「「「「はっ!御心のままに!」」」」


 私の演技がかった仕草や声に、皆も忠臣の如く応えてくれる。


 これだから、このノリの良いクラスが大好きだ。




 堂々と胸を張り先頭を歩く。足取りは軽く、不安も無い。

 ゲートをくぐり入場すると、待っていたのは地鳴りする程の大歓声だ。


「うわわあああああああ!」

「ひーーーーめーーーー!」

「悠おねぇさまーーーーーーー!」

「きゃーーーー!」


『お〜っと、ここで先に現れたのは『黒百合騎士団』だ。チームの先頭を歩くのは、勿論この御方!その美貌は国すら傾け、その美しさは蛮族をも平伏させるといわれるぅぅう!この御方!!『黒百合の魔女姫』の二つ名を持った、我らが姫。二神悠様だぁああ!!今日はなんとも凛々しいお姿で登場――いや、戦場に降臨だぁああ!!』

『そうですね、神聖な雰囲気すらありますね』

『悠様がここで、観客に手を振るサービス。きゃー!こっちも!こっちも向いてー!』

『そうですね、その手を振る姿は優雅でどこか品がありますね。あの御方こそ、まさに私達の姫様ですね』


 め・ちゃ・く・ちゃ・恥ずかしい。


 顔に笑顔を張りつかせ、観客に手を振ってはいるが、曝し者の気分だ。

 動物園のパンダなんて、今の私に比べたら珍しくもなんともないのだろう。

 実況と解説の方、マジ本当に勘弁して下さい。

 とんでもない精神攻撃だ。

 なんだ?神聖?気品?ねぇーよ!そんなもの!

 お前らの目は節穴かぁ!ああん!?


 しかし、今思うと、ここに出る前に喝を入れおいて本当に良かった。

 もし、円陣を組んで皆に、自らに喝をいれなかったら、速攻寮に帰っていた気がする。


『そして、その後ろに続くのは2−Sのメンバーですね。どの人も個性的な方ですね』

『そうですね。なんと言っても彼らは『S』ですからね。今回の様な戦闘に不向きな、一芸特化の人もいますが、それでもこのチームは強いですよ』


 精神攻撃で疲弊する私の耳に、実況と解説の人が我が級友達を褒める声が聞こえる。

 そうだ、その通りだ!

 我がクラスは、控え目に言っても、普段はちょっと頭のネジが外れた人もいるが、総合すると、どのクラスにも負けないほど優秀なのだ。

 ……総合するとな。←ここが大事だ!



 私達が入場し終わると、向かいのゲートから、私達の対戦相手である『デーモンアーミー』が入ってくる。

 銃を構えどこかの軍隊の様に行進してくる。


 銃という事は、相手の主力武器は水鉄砲かな?

 非殺傷の武器で、紙風船だから水鉄砲の攻撃はかなり有効だ。

 その集団の先頭を歩く、眼鏡をかけて指揮官が着る様な少しグレードの高い軍服を着た男。

 それは『鬼畜眼鏡』の生徒会長だった。


『これはこれは……いきなり、注目カードとなりましたね』

『そうですね。姫の『黒百合騎士団』も優勝候補でしたが、生徒会長率いる『デーモンアーミー』は優勝候補筆頭ですからね。これは熱い戦いが予想されますね』


 実況と解説の声に耳を傾けていると、生徒会長が軽薄で醜悪な笑みを張り付けて、一人でこちらに近づいてくる。

 いつもながら、その顔は憎たらしい。


 なんだ?戦いの前の舌戦ってやつを御所望か?

 いいだろう、受けて立とうじゃないか!

 こっちは最近色々あって鬱憤が溜まっているんだ!ボロ糞言ってやろう!


 そんな風に私が身構えていると、生徒会長が私の前でお辞儀する。


「ご機嫌麗しゅうお過ごしでございますか、姫」

「嫌な顔を見たので、あまりご機嫌は宜しくありませんね」

「ほぉ、博愛主義の姫に嫌われる人がいるなんて、なんて可哀相な人でしょうね」

「ええ、まったくです。こういう言い方は良くないのでしょうけど、その顔は生理的に受け付けないのですよ」


 あからさまに邪険に扱うが、それでも生徒会長は、顔に浮かべた笑みを消さない。

 なんだこの人?もしかして、この人もエロ川君同様でドMの国の住人なのか?

 私は少し引き気味で対峙する。


「ふふふっ。では、試合の後にまた同じことを聞かせてもらいましょう。地に顔を付け、敗北で打ちひしがれ、悔しさで歪んだ顔の姫にね。その姿はぁ!……おっと、失礼。その姿はさぞ美しいのでしょうねぇ!」


 狂気を孕んだ目で私を見つめてくる。

 あっやばい、この人ヤバい人だ。関わってはならない人だ。

 必要以上に関わると、ホルマリン漬けとかしちゃう人だ。


 ドM?違う。ドMだなんてあり得ない。

 この人はやっぱりドSだ。

 いや、そうだった……忘れたけど、こいつは『鬼畜』だったんだ。


「ふふ……ふふふふふー」


 とりあえず、笑ってごまかそうとするが、上手く笑えない。

 絶対私の笑顔は引き攣っているだろう。


 いやだって、この人超怖いよ?

 マジ狂気的な怖さだ。

 幽霊が怖いとは、まるで違うベクトルで怖い。


「では、また」

「え、ええ……また」


 私はそれだけ告げて、逃げる様に自陣に戻る。

 精神攻撃は攻撃の基本だが、私は心に深い傷を追ってしまったかもしれない。


「大将、ご無事ですか?」

「隊長、顔が真っ青ですよ」


 青い顔をして戻る私に皆が駆け寄ってくる。

 我が兵はなんて優しいのだろう。

 その一言一言が身に沁みる様だ。

 これが人の優しさというやつか?

 涙が出そうになる。


「大丈夫……大丈夫ですから」


 我が兵の優しさに触れて少し回復する。


 今度から「生徒会長には一人で会いに行かない」と心に誓う事も忘れてはならない。





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