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薔薇や百合ではありません  作者: 小林 あきら
第一章 薔薇や百合ではありません
26/48

5-2

 生徒会室に辿り着くまでに、他のクラスの生徒や先輩方を発見したが、申し訳ないと思いながらも『数の暴力』と『サーチ&デストロイの精神』で、見つけ次第確保させて頂いた。

 大丈夫、殺しまではしない。

 ただ、私達が衣装を選ぶまで、廊下にいてもらうだけだ。




 私が生徒会室の前に辿り着くと、クラスの中でもガタイのいい朝倉君を筆頭に、ボロボロになりながらも、生徒会室のドアを守る様に立っていた。


「二神隊長!お待ちしておりました!」

「……御苦労様……です」


 私を見ると、顔を綻ばしながら、尚且つ、どこか誇らしそうに、私に報告してきた。

 一瞬何を言っているか分からなかったが、とりあえず労いの言葉をかけて道を開けさせる。

 先に入っても衣装決めしていても、ウチのクラスなら誰も文句は言わないと思うが、なんというか本当に私の級友達は、良い意味でも悪い意味でもノリが良い。

 学級委員長である私の顔を立てたのだろう。


「失礼します」


 とりあえず、形式だけは守る様にノックと挨拶はしておいて、生徒会室のドアをぶち破らん勢いで、強引にこじ開け、私達は中に入る。

 生徒会室に入ると、玉座――じゃなくて、奥の椅子に腰をかけ、高そうな机に肘を突き、腕を組んだ生徒会長様がいた。


「この騒ぎは……姫の仕業ですか?」

「さぁ、何の事ですか?」


 生徒会長の言葉に私は素っ惚ける。

 ちょっと喧しいかもしれないが、私達はただ衣装を選びに来ただけだ。


 いやむしろ、騒がしいのは、あんなややこしいルールを作った、こいつのせいだ。

 つまり自業自得だ。

 脳筋クラスやうっかりなクラスを、ふるい落としにする気なのだろうが、なんとまぁ酷い事をする。


「まぁ、いいでしょう。それで()は我が生徒会に何用でしょうか?」


 こいつは私が『姫』と呼ばれるのを好きでないのが分かっていて、敢えて『姫』呼びしてくる、そんな奴だ。

 全くもって腹立たしい。

 これだから、人の感情が分かるドSは嫌いだ。


「衣装です。早いもの順なのでしょう?」

「さて、何の事ですか?」

「惚けないで頂けますか?」


 美しいこの顔に青筋が出来るのが分かる。

 私の不機嫌な気持ちが伝わったのか、生徒会長の左右に控えていた「お前ら本当に高等部の生徒か?」と疑問に思うほど、高身長で屈強な生徒会役員が前に出て、私を黙らせようと手を伸ばしてくる。

 その瞬間――


「この人に手を出さないでいただきたい。貴方方の様な人が軽々しく触れていい人ではない!」


 そんなセリフと共に葵君が私を庇うように前に出る。

 その言葉と行動に危うくときめきかける。

 くそっ、マジでカッコいいな……なんだ?このイケメン?

 よくそんな言葉がするりと出てくるものだと感心してしまう。


「おや?その方は?……もしや、姫は騎士を選ばれたのですか?」


 鬼畜眼鏡が麗しくも醜悪な顔で、ニヤニヤしながら聞いてくる。

 くそっ!殴りたい、その笑顔。


「貴方には関係ありません」

「いえいえ、私も姫の騎士の座を狙っているのですよ。姫一人では何かと危険でしょう?」


 確かに、今まさに鬼畜眼鏡に襲われそうで危険だ。

 だが、何があってもお前なんか『騎士』に選ばない。

 そんな決意を胸に抱いていたら、葵君がずいっと生徒会長から私への視線を隠すように前に出る。


「ならば、僕があらゆるものから悠さんを守ろう!」


 私の視界からは葵君の背中しか見えない。

 でも、その背中からは確かに伝わってくる。

 何が何でも私を守ろうという気持ちが。


 くっ……これ以上は、やめて!

 私の方が恥ずかしいから勘弁して下さい!

 顔が赤くなったらどうしてくれるんだ!


「ほう……どうやら本気の様ですね」

「ええ」


 私を放置して勝手に話が進んでいく。

 本当ならここで「何が『ほう』だ!」と、罵ってやりたい。

 そして、出来れば、私の話も聞いて欲しい。


 こんな状況……嫌だ!


「君の名を聞いておきましょう」

「葵=フォン=アインスブルグ」

「覚えておきましょう」


 複数の男から言い寄られる、奪い合うみたいな、なんか少女漫画のヒロインみたいな扱いを受けるが……残念ながら、私は男で周りも男だ。

 マジ男子1000パーセントだ。

 マジ男子1000パーセント・レボリューションだ。 

 本当に嫌だ!こんな乙女フィールドの皮を被ったBLフィールド。

 全く誰得だよ?楓出せ!楓を!おっぱい成分が足りないぞ!


「では、こちらが衣装のリストです。好きな物を選んでください」


 葵君がリストを警戒しながら受け取り、私の方に振り返る。


「悠さん、選んで」

「は、はぃ」


 私は先程の動揺を表に出さない様に、澄ましてみるがきっと無理だったのだろう。

 葵君が私の顔を見て、少し驚いた後、頬を染めていた。


 どうも最近の私は、葵君といるだけで、葵君の言動や表情に感情が揺さぶられて、調子が狂う。

 どこかの本で「アナタといると調子が狂うわ!」と言っていた、主人公に惚れていたヒロインがいた気がするが、これは恋愛フラグでない事を切に願う。

 ついでに、最近私に試練を課す事に勤しんでいる神にも願っておこう。



 パラパラとリストを見せてもらい、その残った衣装から、私達は『剣と魔法のファンタジー』を選んだ。

 デザインも無難であり、体が動かしやすく、戦いやすいものだった。

 級友達もさぞや喜ぶだろう。

 そして、騎士姿の葵君はカッコいいのだろうな。


 嗚呼、まったくもって忌々しい。

 楓が惚れない事を祈ろう。

 残念ながら、あの(おっぱい)は私のだ。




 無事衣装を選び終え、生徒会室から出て教室を帰っていると、葵君が私の方を向きなにやら聞きたそうにしている。

 さっき助けてもらったし、何かあるなら答えてあげよう。

 私は義理人情に厚い美少女(笑)だからな。


「葵君、どうしたのかしら?」

「ああ……その。生徒会長が、騎士がどうこう言ってから気になってね」


 その話か……葵君は知らないのだろうか?

 私が男なのに『黒百合の魔女姫』という悲しくなるような二つ名を持っている事を。

 そして、二つ名で『姫』を持つ事がどういう意味なのか、を。


 まぁ、不本意ながらあの『鬼畜眼鏡』から守ってもらったし、これぐらいは話しても問題はなかろう。


「葵君は、この街の騎士に種類があるのは知っているわよね?」

「え?うん。近衛騎士に魔法騎士に守護騎士だよね?僕の留学の目的は、騎士になる事なんだ。騎士になる為にここに来たから、一通りは涼さんに聞いた筈だけど……」


 マジか?騎士道がどうこう言っていたけど、それでか……今迄の紳士的な行動が、騎士道から来ているのだとしたら、妙に納得してしまった。

 そして、涼さん。話すならもっと詳しく話してあげればいいのに。


「私は騎士の任命権を持っているのよ」

「え?騎士の?あれ?でも、騎士になる為には年齢制限があって、更には試験を受けて、資格が必要なんじゃ?」


 ふむふむ。それぐらいは聞いたのか。

 しかし、資格や年齢制限が無くてもなれる騎士があるんだなぁ。

 バルーンウォーみたいな抜け道ではなく、こっちはちゃんとしたものだ。


「ええ。本来は資格が必要なんだけど、それは魔法騎士と守護騎士の事ね。私が持っているのは、私の近衛騎士の任命権よ。私はまだ誰も任命してないから枠が余っているの。さっきの話だと、生徒会長は指名して欲しいらしいけど、私は誰も傍に置く気はないけどね」


 私は心底嫌そうにそう言う。

 誰が好き好んで、あんな変態を傍に置きたがる?

 そんな人がいるのなら、早々に引き取って頂きたい……皆の為になっ!


 私が傍に置くとしたら、凛々しくて美しい女騎士が良いに決まっている。

 出来れば誇り高くて「くっ、殺せ!」とか言っちゃうような人だ。

 違うか?まぁ、違うだろうな。


「なるほど、そういう事だったんだ。ありがとう、勉強になったよ!」


 葵君は嬉しそうに笑う。

 止めくれ。そんな邪気のない笑顔を見せられたら、動揺を通り越して狼狽しそうになる。

 そして、自分の汚さが顕わになる様でいたたまれない。


「そ、そうなの。さぁ、衣装決めも終わったし、私達も会議に戻りましょう」

「そうだね」


 二人で頷き合い教室への道を急ぐ。



 今はレクリエーションの事だけを考えよう、うん。

 それが良いよな。





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