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薔薇や百合ではありません  作者: 小林 あきら
第一章 薔薇や百合ではありません
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5-1.レクリエーション side悠

 この学園には生徒会長が――いや、あのクソ眼鏡が始業式で言っていたように『レクリエーション』というものがある。

 年に一度、不定期で企画される催し物だ。


 レクリエーション。

 ご存じの通り、これを訳すと“気晴らし”や“娯楽”といった意味がある言葉だ。

 例えば、簡単なモノとして『フルーツバスケット』や『椅子取りゲーム』といったものが挙げられる。

 他にも、よく初等部――小学校の時に教室で遊べるようなものをやった人もいるだろう。


 しかし、この学園のレクリエーションは単なるお遊び(・・・・・・)ではない。

 そう、普通の学校でやる様な『お遊び』ではないのだ。


 「それはなぜか?」と、問われれば簡単だ。

 これを制したクラスには賞品が与えられる。

 それも、総学園長からの賞品だ。

 過去にこの『レクリエーション』を制したクラスは、あのぶっ飛んだ総学園長より、それはもう破格な賞品を与えられた。


 そのぶっ飛んだ賞品がつくのが当たり前になったレクリエーションはというと、今迄の「お遊び」のレクリエーションと異なり「強制参加だからなぁ」や「軽く流すか〜」などと、適当にやっていた生徒達が、目の色を変えて積極的に参加し始めたのだ。

 しかし、積極的に取り組み過ぎたせいか、闇打ち、騙し打ち、反則行為、偽装工作といった、血で血を洗うようなヤのつく自由業の抗争や、199X年の様な世紀末みたいな状態になってしまった。


 そんなレクリエーションとも呼べない、荒んだレクリエーションに歯止めをかけたのが、学園の守護者である生徒会だ。

 その生徒会によって明確なルールを決められ、管理されたクリーンな『レクリエーション』となった。

 めでたしめでたし、と。



 さて、話を戻そうか。


 そのレクリエーションの季節が今年もやってきた。

 学園から予算や賞品を引き出すためにも、レクリエーションを行うにも、理由というものが必要になってくる。


 表向きの理由は『クラスの団結を高めよう』とか『競争する事によって、互いに高め合う事が出来る』みたいな、それはもうありふれた、いい子ちゃん丸出しの理由だ。

 その精神に基づき「一生懸命頑張ったけど準優勝か、惜しかったね。いい思い出になったね」や「一回戦敗退か……今度は、一回でも勝とうね」なんて、そんな甘っちょろい考えではダメなのだ。


 どの学生も表向きの理由なんて無視している。


 誠に残念ながら、そんな偽善者や優等生が喜ぶ、素晴らしい精神なんて『糞喰らえ!』と声を大にして叫んでしまうぐらい、このレクリエーションには必要ないのだ。

 参加する我ら生徒は、やるからにはどんな手を使ってでも勝たねばならない。

 優勝以外は何の意味も無く、優勝以外は等しくクソで、何も得る事は出来ない……という事を、二年生になった私達は経験則で知っている。


 なので、当然ながら私達2−Sも賞品とプライドをかけて、全力で取り組む所存だ。


 しかしながら、今回レクリエーションを企画したのは、何を隠そうあの『鬼畜眼鏡』の名を欲しい侭にしている生徒会長様だ。

 あの綺麗な顔を醜悪に歪めて、絶対ロクでもない事をしようとしている。


 なぜなら、一週間後に入学式もあり、新入生の為の『新入生歓迎会』などの準備がある、このクソ忙しい時期に、わざわざレクリエーションをやるのだ。

 何か仄暗い考えがあるに決まっている。


 正直、何が起こっても不思議ではない。

 いや、確信を持って言える。

 必ず何かが起こるだろう。




 そこで、私達はこうして皆を集め会議を開く。

 今回は学園側も協力体制なのか、全学年この時間はホームルームらしい。


「さて、今年もレクリエーションの季節がやってきました」


 教室の前に立ち皆に向けて宣言すると、やはりというか流石というか、級友達はこんな感じで場を温めてくれる。


「うぉおおおお!!!」

「キターーーー!」

「ひゃっはー!ひゃっはー!」

「今年こそは……」

「はい。皆さん静粛に!」


 私の言葉で級友達は一斉に静かになる。

 このクラスは特殊な学生が多く在籍しているだけでなく、なんというか……本当に練度が高い。

 そして、この立場になったからだろうか?

 私の一言で、クラスの皆が叫んだり悲しんだりするのが、少し楽しかったりもする。


「では、たった今。生徒会より届いたルールブックを読みながら、対策をしていきましょう」


 私の言葉を皆真剣に聞いている。

 普段の講義より真面目かもしれない。

 そこは気のせいであってほしいが、それが事実であっても我がクラスの勝利の為に、今は見逃そう。


「今回の競技は『バルーンウォー』です」

「……アレか」

「いや、比較的安全な方じゃないか?」

「馬鹿が……これだから素人は……」

「悪夢再び……か……」


 私の言葉に級友達は口々に感想を漏らす。

 中等部や初等部の時に見た人もいるのだろう。

 だが、葵君や高等部から入ってきた人もいるので、説明は必要だ。


「さて、ご存知の方も多いと思いますが、知らない方もいるので聞いて下さい。この『バルーンウォー』ですが簡単に説明すると、二つのクラスが体のどこかに紙風船を付けて行う――戦争です。紙風船を破かれた人は、戦死扱いとなって退場になります。勝敗は敵の大将を倒した方の勝ちです」

「あの、悠さん?なぜ皆はこんな深刻な顔をしているんだい?」


 私の説明の途中で板書をしていた葵君が振り返り、当然の疑問を口にする。


 そうだろう、そうだろうとも。

 この『バルーンウォー』を知らない人は、単なる遊びに聞こえるだろう。

 もしかしたら、キャッキャッウフフなチャンバラの延長みたいなものに聞こえてしまうかもしれない。


 しかし、違うのだ。

 なぜならこれは『学園行事(・・・・)』で『レクリエーション』だからだ。

 この学園の学園行事を舐めることなかれ、葵君。


「葵君……いい?この『バルーンウォー』という名前から考えてね。ウォー、つまりこれは戦争なの。生きるか死ぬかなのよ?」


 葵君の目を見て語りかける。

 葵君は私の声色と真剣な表情を見て、これが単なる遊びでない事を理解したのか、ゴクリと息を呑み、重々しく頷く。


 よし、彼もまた戦士の顔になったな。


「では、説明を続けます。このルールですが、これは必ず守らなければなりません。ルールですからね。しかしながら、とても残念な事に、こういうものの抜け道を考える狡賢い人がいます。特に今年の生徒会長は彼の『鬼畜眼鏡』です。必ずルールの過大解釈や、隙間を縫う様な抜け道が用意されているでしょう。私も解説を入れますが、皆さんも気付いた事があったら、その都度言って下さい」


 私の言葉に級友達は頷く。

 皆の表情は真剣そのものだ。


「一つ、どんなに兵が残っていようと、大将の風船を割ったクラスの勝ちとする。これはそのままの意味ですね。どれだけ負けていようと、相手の大将さえ討ち取ればいい。とても単純明快です」


 まぁ、その大将を討つのが一番大変なんだけどな。

 勿論そこは声に出さずに続ける。


「一つ、服装は統一せよ(貸しだし有り)。これは、戦で敵味方を分かりやすくするものですね」


 当日実況とかあるし、見せ物としての側面もあるからな。

 別々の服装でごっちゃになると、本当に目も当てられないものとなる。


 過去の戦では、軍服バーサス鎧武者という、夢のコラボレーションが見られたので、今年は私も少し期待している。

 まぁ、水着バーサス全身タイツというシュールな異種格闘技戦もあったがな。


「一つ、チーム名を考えよ。これも上記の内容と似た様な理由ですね。これはただのやる気の問題ですね」


 まぁ、2−Sとかじゃどうも締まらない気がするしね。

 大抵は衣装に合う様な名前になる事が多い。


「一つ、場所はクアルトコロシアムで行う。これは完璧に説明不足ですね。このクアルトコロシアムはボタン一つで、色々な地形を再現可能です。なので、平野の戦いとは限らないでしょう。城跡地など、色んなシチュエーションの対策を考えなければなりませんね」


 絶対あのクソ眼鏡は、わざとこんな書き方をしているのだろう。

 クアルトコロシアムの設備を詳しく知らないクラスは、平野の対戦しか頭にないだろう。

 まぁ、それを調べるのも戦いと言われれば、そうなのだけど。


「一つ、合戦の持ち時間は一時間とし、タイムアップの場合、残っている兵の数で勝敗を決めるものとする。これはおそらく、防御陣形や籠城戦を視野に入れていますね。籠城される前に叩きたいところですね。もしくは、それを破る武器を用意しておくべきでしょう」


 過去に籠城戦をしたクラスがいて、あれは素晴らしかった。

 それから、この『バルーンウォー』で、新しく攻城兵器が登場するようになったんだっけ。


「一つ、武器は事前に申請して、認められた物しか使用できない(特に殺傷能力のある武器は禁止します)。これは、どれだけ事前に素晴らしい武器を用意できるかが、肝となります。事前にというところが厭らしいですね。相手の必勝の策を打ち破れる武器を考えておきましょう。また、このルールなら、相手の武器を奪って使用することも、問題はなさそうですね。良い武器があったら、パクってこちらの戦力の強化にあてましょう」


 これは、その武器の危険の有無を事前に調べる為の物なのだろう……表向きには。

 裏では、相手の戦略を見てから、有効な武器を追加させない為の策だろう。

 使う、使わないは別として、考えられる武器は用意しとかないとな。


「一つ、できるだけ、体などへの直接攻撃は禁止とする(特に急所攻撃)。これは一見当たり前の様ですが、守られる事は無いものとして考えた方が良いでしょう。例えば『紙風船を狙ったら偶々当たってしまった』が多発すると思われます。皆さんも()られる前に()る覚悟を持って下さい」


 このルールは本当にあってない様な物だ。

 ただあからさまに、風船以外を狙う攻撃をすると、厳重注意か退場となるので、気を付けなければならない。

 教育上はとても悪いが、バレなきゃ何をやってもいいのだ。


 最悪だな、この学園。


「一つ、必ず衣装は学園から借りる様に。あの『鬼畜眼鏡』は本当に厭らしいですね。わざわざ、衣装関係をこうして離れた所に書くなんてね。もはや、流石と言うべきなのかもしれませんね」


 本当、あの鬼畜眼鏡はこういうしょうも無い事をするな。

 プリントの上の方には『貸し出しもあるよ』と書いてあるが、結局のところ『必ず衣装は学園から借りなければならない』って事だ。

 ひと括りにしてくれればいいのに、わざわざ離して書くとか……やっぱりあの人は性格が悪いな。


「一つ、もう『バルーンウォー』は始まっている。これは準備期間も込みで考えれば当然な……いや、待て……」


 説明の途中で私は喋るのを止め、顎に手を置き、考えを巡らせる。

 どういう事だ?あの『鬼畜眼鏡』の事だ。

 こんな当たり前のこと書くなんて……絶対に何かある。


 ……考えろ。ヒントはある筈だ。

 ルールに変わった事はないか?過去の戦ではどうだった?

 え〜他には……確かこの時間は、どの学年もホームルームだったな……この時間にこれを書く意味を考えろ……全ては繋ぎ合せると……


「あっ!衣装か!」


 くそっ、やられた!

 会議を始める前にルールブックをざっとでも目を通しておくべきだった。

 これに気付くのが遅くなった。


「総員に告げます!生徒会室に急ぎなさい!まともな衣装が無くなるわよ!」

「!?」

「!?」

「!?」


 私の言葉の意味を瞬時に理解して、何人かは立ち上がる。

 座った級友達は、まだ今の状態を気付いていない様だ。


「どうしたのですか!?皆さん、立ち上がりなさい!これはふるい落とし(・・・・・・)です!相手はあの『鬼畜眼鏡』ですよ?全身タイツや、それより恥ずかしい衣装を着て、戦がしたいのですか!?」

「!?」

「!?」

「!?」


 やっと今がピンチだと理解したのか、全員立ち上がって教室を出ていく。


「やべっ!」

「運動部走れ!」

「いや、二神さんの援護に回るべきだろ!?」

「馬鹿!とにかく走れ!」


 私もそれに合わせて、級友達と共に走り出す。

 なんと言っても、恥ずかしい衣装は断固阻止しなければならない。

 そんな恰好で合戦をするなんて絶対嫌だし、正直戦いどころではないだろう。

 あの鬼畜眼鏡はなんて狡い手を考えるんだ。


 脳筋クラスはこれで敗退決定だな。


 それに何より衣装が水着とか、全身タイツになったら、私の性別がバレてしまう!

 それだけはダメだ。

 本当にダメだ。


 それだけは、あってはならないのだっ!




 急いで廊下に出ると、他のクラスの生徒が一人、二人と、こそこそと行動している。

 他のクラスの生徒も気付いて、生徒会へ使いを出したのだろう。

 だが――。


「二神隊長!廊下に敵影!数は二です!」


 ふっふっふっ。馬鹿め!判断を誤ったな?

 他のクラスにバレない様に単独行動にしたのだろうが、こちらは出遅れたのが分かっていたから、もう開き直って全兵投入だ。


「交戦を許可します!蹴散らしなさい!」

「うぉぉぉおおおおお!」

「ひゃっはー!」


 私の言葉にノリの良い級友達が、他のクラスの代表らしき人物を取り抑える。


「確保しました!」

「よくやりました!そのままそこで待機なさい!」

「「イエスマム!」」


 他のクラスの人には申し訳ないが、そこでそのまま、この時間が終わるまで待機して頂こう。

 くっくっくっ。君達は恥ずかしい衣装でレクリエーションに臨むといい。


 ちょっとこの状況が楽しくなってきた私は、バサッと音を立てながら、右手を前に突きだし、大声で叫ぶ。


「全軍、進めぇええ!」

「「「「うぉぉおおおお!!」」」」


 嗚呼、本当に我がクラスはノリが良い。





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