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薔薇や百合ではありません  作者: 小林 あきら
第一章 薔薇や百合ではありません
22/48

4-2


 ホームルームが終わり、生徒達は各自選んだ講義に出る為に移動をする。

 僕も昨日涼さんと決めておいた講義へと向かう。

 これから受けるのは、ここクアルトならではの講義だ。


 僕はここクアルトに来て一番驚いた『魔法』に関係ある講義を受けてみる事にした。

 そう、このクアルトには魔法というものがあり、この学園では『魔法学』という魔法を学ぶ講義がある。

 涼さんの情報では、この『魔法学』は超最先端な科学の事らしいが、寮生の人に聞いたらどうも違うようだ。



 講義室に入るとたくさんの生徒がいて、やはり、この魔法学と呼ばれる講義はここの生徒にも人気の講義だと判断出来た。

 少しして鐘が鳴り、ローブの様な物を着た可愛らしい女性が入ってきた。


「皆さん、はじめまして。魔法学の担当の赤松明日香(あかまつあすか)です。私の一回目の講義では、オリエンテーションを行います。毎回受けてくれる生徒の方は退屈かもしれませんが、初めての方もいるので、復習だと思って聞いて下さいね〜」


 赤松先生の声はとても心地良く、すでに、何人かの生徒は眠りに誘われている。

 これも魔法の一種なのかな?


「初めに『魔法とは何か?』という問いに答えてくれる方はいませんか?」


 赤松先生は生徒を見渡しながら話す。

 すると、一番前に座っていた一人の生徒が手を挙げる。


「では、上田君」

「はいっ!」


 指を差された生徒は元気よく立ちあがる。

 同じクラスの上田君だ。

 通称:上P。何かのプロデューサーなのか、プロフェッサーなのかは分からないけど、クラスの皆の話に聞く限り、彼は秀才らしい。

 上田君は眼鏡をクイッと上げて、先生の問いに答える。


「魔法とは人間が発する人間が発する微弱な『気』の力を、特別な機械や器具を用いて、集め使用する事で、あたかも魔法の様な現象を起こす事です」

「はい、その通りです。流石上田君です。今年も受講してくれてありがとう」


 赤松先生がにこやかに笑うと、上田君は頬を染め、頭を掻く。

 どうも上田君は赤松先生に気があるようだ。

 いや、憧れなのかな?


「そうですね。皆さんご存じの様に、このクアルトでは『魔法』というものが存在しているという事になっています。しかし、ここの『魔法』は科学技術なのです。皆さんが普段使っている『魔法の生徒手帳』は、科学の粋を集めて作られた機械ですね」


 赤松先生は生徒手帳を取り出して、皆に見える様に説明する。


「では、この授業で何を学ぶのか?というのは、先程上田君が説明してくれた様な『魔法』についてです。ここクアルトは『賢者』と呼ばれた天才科学者の独自の研究により、人間には微弱な『気』の力と言うべき様なものがある事が判明しました」


 今度は『賢者』か……本当にここは面白いな。

 おっと、話しの続きを聞かないとね。


「ここではその微弱の気の力を『魔力』と呼び、その『魔力』を用いてこの世界に働きかける事や、何らかの現象を起こす事を『魔法』と定義する事にしました。そして、その扱いや理論を学ぶ、この授業を『魔法学』と呼んでいます」


 赤松先生は言葉を切って生徒達を見る。


「なので『魔法科学』や『中級錬金術』といわれる、つまり外の世界で言う『普通の理科』と間違えて授業を取ってしまった方は、早いうちに講義の変更をして下さいね?」


 その言葉に何人かの生徒が笑いだす。

 ここの講義は、似たような名前があるせいで、間違えて受講する生徒が過去に何度かいたのだろうな。

 僕は涼さんと話しながら決めたから問題ないと思うけど、確かこの一週間は、受ける講義を変更可能な期間としてされている。

 まぁ、名前だけじゃ分かりにくいしね。


「さて、この分野は他の分野に比べるとまだ発見されて間もない為、研究もあまり進んでいません。なので、自分勝手な行動はしないで、絶対に先生の指示に従って下さい。それが守れない人や約束を破った人は、この授業を受ける資格を剥奪します。最悪停学や退学を覚悟して下さいね?」


 それを聞いて皆、先程までの浮ついた空気が消えた。


「少し脅し過ぎたかも知れませんが、皆さんの安全の為です。それに、私の指示を聞いて頂ければ、楽しい講義となりますので安心して下さい」


 先生がふっと笑うと、その緊張が少し和らぐ。

 ちょっとした言葉や仕草で、皆に影響を与える不思議な魅力のある先生のようだ。


「では、ここで私たちが『魔力』と呼ぶ力。これは人によってたくさんあったり、少なかったりと様々です。それをこの『魔力収集デバイス』通称:デバイスと呼ばれる機器でかき集める事によって、魔法の使用を可能とします」


 赤松先生の説明は分かりやすいが、どうも、初めて効く単語だらけで理解するのが難しい。

 少し疑問に思ったので、質問してみる事にする。


「ん?はい。そのこのあなた。どうぞ」

「はい。ここでは『魔力』と呼ぶ、その『気』というものですが、武道や漫画にある、あの『気』の事ですか?」


 僕の質問に赤松先生は『その質問を待っていました!』と言わんばかりに、満面の笑みで頷く。

 その笑みを引きだした僕に対して、上P君は『お前やるな!』みたいな視線を向け、親指を立てた。


 色々と反応に困るので、自分も笑顔だけは忘れないようにしておこうと思う。

 日本には『愛想笑い』なる日常生活を円滑に送る技術があるからね。


「ふふ、そうですね。いい質問です。実際にどうかは分かりませんが、この目に見えない『魔力』は他所では『気』と呼ばれていたり『魔法』を『超能力』などと呼ばれているものだと推測します。本来はこの『デバイス』を使い、体内の魔力をかき集めて『呪文』を用いる事によって魔法を使用しますが、武道の達人や超能力者と呼ばれる人達は、長年の修業や体質によってデバイスを使用しなくても、気付かずに使っていたり、感覚で使用できるのかもしれませんね」

「ありがとうございます」


 赤松先生の説明に僕は礼を言って座る。


 なるほどね。

 まとめると世間で『気』や『超能力』といった、摩訶不思議な力を科学的に解析して、普通の人でも使用可能にしたのが『魔法』という事……いいのかな?


「他の方も疑問に思う人もいるかもしれませんので、実際に見た方が早いかもしれませんね。私は武道の達人のように、体に纏う様な使い方はできませんが、デバイスが無くても、こうやって……『火球』」


 赤松先生の声に合わせて、人差し指の先からは、ピンポン玉ぐらいの大きさの火の球が出現した。


「おおおおおー!」

「流石赤松先生!」

「ひゃっはー!ひゃっはー!」

「くっ、我が邪眼が疼く……」

「かっけぇー」

「はいはーい。皆さん静かに。このように、使えるようになります。初めに言った様に、私の授業では、この魔力の制御や理論を一緒に勉強していく事になります」


 赤松先生は火の球を消して、ニコニコしながら注意をする。

 先生も生徒が驚いたり、喜んだりする反応が嬉しいのだろうね。


 あと、今の反応の良い生徒はSクラスの人達だったよ……ね?


「では、皆さん。この腕輪型デバイスを取りに来て下さい。ああ、まだ使わないで下さいね。使い方知っている子もですよ?」


 ぞろぞろとデバイスを取りに行く生徒達。

 僕もその列に混ざり、デバイスを取って自分の席に着く。

 デバイスは腕輪の様な形状で、そこに何個かボタンがある様な物だった。


「皆さん、行き渡りましたね?では、自分の利き腕に装着して下さい」


 先生の指示に従い右手に装着し、次に置指示を待つ。


「え〜次に、赤いボタンを押してください。これが電源です」


 腕輪は左から赤、青、黄、緑、紫のボタンが並んでいて、僕は指示通りに一際大きい赤いボタンを押す。

 すると「フォン」という音がなって、ボタンの上の画面が点灯した。


「はい、次ですね。その隣の青いボタンを押してください。これが、皆さんの『魔力』を計測してくれます」


 青いボタンを押してみると画面に『計測中』と出て、ピピッと鳴ると『中々あるやんけ』と画面に出た。


「…………」


 これは……故障なのかどうか反応に困る。

 魔力値は中々ある事が分かったけど……その……表示が酷い。


「あーマジか!?俺『皆無』って出た」

「私『中々あるやんけ』だった」

「おいおい!?『ひゃっはー、クソみたいなもの』って、なんだこれぇ!?」


 周りの悲鳴を聞く限り、どうやら僕の表示がおかしい訳じゃなかった。

 故障だと思った自分がおかしいとは思わないけど、不覚にもまだマシな方だと思ってしまい、何か理不尽な罠に嵌った感覚を覚えてしまう。


「え〜、皆さん落ち着いて下さい。この表示は彼の賢者様が作ったものです。とってもお茶目な方だったんですね〜」


 これをお茶目の一言で片づけていいのかな?

 いや、研究職の人は、特に天才と呼ばれる人は、少し常人と考え方が違うんだった。


 そう考えると、涼さんもきっと天才と呼ばれる人だと思う。

 何に対してかは分からないけど……きっとそうだよね。


「ああ、それと少しムカつくからって、デバイスを壊してはいけませんよ?これ、とっても高いんですからね?何十万としますからね?」


 腕から外したデバイスを、今にも床に叩きつけようとしていた男子生徒は、その言葉を聞いてピタッと止まる。


 先生、そういうのはもっと早く言ってあげて下さい。

 彼は理不尽な罵りに対して、怒りのやり場にとても困っています。


「では、次は隣の黄色のボタンですね。それを押してください。どうですか?デバイスを付けた方の手に何か感じませんか?」


 黄色のボタンを押すと、右手が少し暖かくなる様な変な感覚が手に残る。


「さて、お気付きかも知れませんが、それが『魔力』です。ただ、そこに集まっただけでは何もできません。次に緑のボタンを押してください」


 緑のボタンを押すと、今度は体全体が何処となく暖かい様に感じる。


「これは体全体を魔力が覆った状態ですね。先程と違って一点集中ではないので、もしかしたら感じにくいかもしれませんね」


 周りを見渡すと、かなりの数の生徒が、魔力を感じる事が出来ないのか首を捻っていた。

 僕はお爺様から剣術を学んでいたので、その影響で、第六感や、気配の様なものに少し鋭くなっているかもしれない。


「はい、皆さん。最後に一番右の紫のボタンを押してください。これで先程まで皆さんを包んでいた魔力が散る筈です。それで十秒ほど待ってから、赤のボタンを押してデバイスを外して下さい。外す時には必ず紫のボタンを押して、赤のボタンを押してくださいね?」


 僕は指示通りに紫のボタンを押すと、体を覆っていた暖かな何かが、急に無くなった様に感じた。


「最後に、皆さんが今日体験した魔力、その魔力の使い方を学ぶのが私の授業です。興味のある方や、魔法をもっと学びたい方はそのまま受講して下さい。残念ですが、合わないと思った方や間違えて取ってしまった方は、他の講義を取って下さい。これで今日の講義は終わります。それでは、皆さんと一緒に学べる事を楽しみにしていますね」


 赤松先生がそう締めくくり、僕の初めての『魔法』の授業が終わった。


 正直『魔法』なんて涼さんが言った様に『設定』だと思って半信半疑だったけど、こうして『魔力』を体験して『魔法』と呼ばれる現象を見てしまうと、否定するつもりも無かったけど、認めるしかなくなった。


 この街には本当にあるのだ。

 魔法と言う呼び名の科学技術――いや、科学技術の粋を集めた『魔法』が。

 震えが止まらない。これは、恐れ?恐怖?


 いや、違うこれは……これは歓喜の震えだ。


 それぐらいの衝撃だった。

 ここクアルトは本当に凄い。

 全くもってファンタジーだ。

 興奮して、楽しくってしょうがないや。


「すーはー……よしっ」



 僕は少し気分を落ち着かせた後、誰もいなくなった講義室を後にした。





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