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薔薇や百合ではありません  作者: 小林 あきら
第一章 薔薇や百合ではありません
15/48

3-2


「うわぁぁああああああ!……はぁ……はぁ……」


 目が覚めるとそこはベッドの上だった。


 どうやら、昔の夢を見ていたようだ。

 夢は記憶の整理とも言われているが、性別の関係で嫌な事が起こると、必ずと言っていい程、過去の出来事を夢に見てしまう。


 アレは……あの出来事は、私の原点であり、トラウマだ。


「あぁ……最悪だ。もう嫌だ……」


 これを見た後は、なぜか車道に寝そべって馬車に引かれたい願望が出てくる。

 本当に実行してしまいかねないので、気をつけなければならない。


「おっ?悠、起きたか?」

「え〜っと、ああ。五十嵐先生……って事は、ここは医務室ですか……」

「なんだ?混乱しているのか?」

「ええ、まぁ……また、あの夢を見てしまいまして」

「ああ〜そいつはお気の毒に」

「ええ……本当に……」


 今私の目の前に居る医務室の先生、五十嵐真琴(いがらしまこと)

 白衣を着て眼鏡をかけたグラマラスボディーの持ち主であり、大人の色気ムンムンな女性だ。

 この医務室の主であり、私の秘密を知る数少ない人物でもある。

 私が肩を落としていると、ニヤニヤしながら話しかけてくる。


「いやぁ〜、私はビックリしたんだぞ?」

「な、何に……ですか?」


 この人がニヤニヤしているのが気になるが、そんな事言われたら聞かない訳にはいかない。

 きっと私にとっては、あまりいい事ではないのだろうが、気になってしょうがないじゃないか。


「いやな?悠が倒れたって聞いたが、まさかその倒れた悠が、金髪の美少年に、しかもお姫様抱っこされて運ばれて来たんだ。腹を抱えて笑いそうに……おっと、失礼。心配で仕方なかったよ」

「くっ、ぬぅうううぁぁあああ!!!にゃぁあああ!!」


 それを聞いた瞬間。

 言葉にならない言葉で叫び、ベッドに倒れ込み悶絶した。


 一度だけでなく、二度までも!男にお姫様抱っこされただと!?

 うわぁ、うわぁーーーーーー!!!!


 しかも、五十嵐先生は私をからかう気満々で、本音を隠す気が無い。

 くそっ!これだから、この年増は性質(タチ)が悪い。


「……先生、私はもうダメかもしれません……」

「くくくっ、そうだな。ぷっ、ダメかもな」


 私が悶絶した後、こぼした言葉に五十嵐先生は答えるが、案の定と言うべきか、五十嵐先生は笑いを我慢することなく、私を嘲笑った。

 くそっ!この性悪っ!この年増めっ!このドSめっ!


「おや、そんな事言っていいのかな?悠?」

「すいません。どうやら、私の心の声が漏れていたようですね」


 どこから私の本心が漏れていたのかは分からないが、やはり私の精神が安定していないようだ。


「おやおや?悠、君がそんな態度を取っていいのかな?君の秘密をバラしてやろうか?」

「ぐぬぬ」


 秘密をバラすと言われては、流石の私も『ぐぬぬ』と唸るしか出来ない。

 生徒の弱みに付け込んで脅してくるとは、全く教師の鑑だなっ!くそがっ!


「くくくっ!この『ぐぬぬ』と唸っている小僧が、学園では『黒百合の魔女姫』と呼ばれているんだから、面白いね」

「ちょ!やめて!それは私の前で言わないって、約束したじゃないですか!」

「おや?そうだったか?悠の言う通り、年増だからなぁ〜。歳を取ると、どうも忘れっぽくなっていかんな〜」

「ぐぬぬぬぬぬぬ〜」


 更に唸るが、これ以上の言い争いは何も生まない。

 いや、生まないどころか、私の損しかないので、即座に三つ指をついて、ベットの上で深々と頭を下げた。


「ごめんなさい」


 世間で言うところの土下座だ。

 日本人の最終奥義でもある『DO・GE・ZA』を私は、この年増に対して発動した。


 人が人として生きる為にはプライドが必要となる。

 だが、長い女装生活で「時にはプライドなんかより大切な物がある」と私は学んでいる。

 変に意地を張らずに、素直に頭を下げる事も大切なのだ。


「そうかそうか〜……それで?」


 しかし、私の謝罪も、魂の土下座も、この人の前では意味を為さなかったらしい。

 この教師は靴を脱いで私の頭に足を置く。


 ドSが憎い。年増が憎いです……安○先生。


「はい。なので、ここは先生もガキの戯言を、その深い心で流して頂けると助かります。申し訳ありませんでした」


 五十嵐先生は私の謝罪の言葉と、私の頭を一通りぐりぐりと踏みつけて、満足したのか足を離し、煙草に火を点けた。


「ふー……まぁ、いいだろう。今度からは気をつけろよ?君の叔父である涼さんには、昔世話になったから、協力してやっているという事を忘れるな?私もあの人の頼みでなければ、君を然るべき機関に突き出している所だからな」

「はい、ありがとうございます」


 私は感謝の言葉を述べながら、頭をベッドから離し、こっそり息を吐く。

 秘密を握られているから、この年増の前では殊勝な態度を心がけなければならない。

 憎たらしい事この上ない。


 それはそうと、生徒の頭踏みつけるとか、本当に教師のやる事ではないな。

 マジで頭おかしいだろ?

 総学園長から始まり、涼さんといい、ここの教師陣は本当にぶっ飛んでいる。


 というか、涼さんはこのドSに貸しを作るとか何気に抜け目ないな。

 今度、涼さんからこの年増の弱みを聞き出して、絶対イイ顔でひぃひぃ言わしてやる。

 そんな馬鹿な事を考えていると、五十嵐先生は私を見て少し顔を強張らせて言う。


「……悠。今回はどうにかなったが、気をつけろ。私達でフォロー出来る事はするが、バレない様に気をつけろ」

「はい……」


 確かにその通りだ。

 今回はなんとなったが、人前で意識をなくすとか、下手すると性別がバレるという危険があった。

 性別を隠す為には、他人との接触は極力避けないとな。


「ああ、後。運んでくれた例の美少年にも、しっかり礼を言っておくこと」

「くっ……はぃ……」


 私は五十嵐先生の言葉に、それはもう嫌そうに――そう、まるでオークに捕まった女騎士の如く嫌そうに頷いた。





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