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第二話 双玉城下・京都 死刑猶予半年の婚約<下>

 数日遡り、青森。

 曇天から雪が舞い始めた。

 夥しい血に染まった雪原に雪煙が立ち込めている。

 撒き散らされた血と臓腑と泥で汚れるのも構わず、天真総司は光の御柱(ピラー)の爆心と思しき場所に淡々と歩を進めた。

 ぬかるむ足元に同行の冷泉恭鷹は「僕、潔癖症だからこういうぐちゃぐちゃしたの嫌いなんだけど。ていうか総司だけで来れば良かったんじゃない?」と後ろから愚痴を垂れている。

「お前が勝手についてきた。俺は呼んでいない」

「総司が空間ごと転移しちゃうから一緒に来ざるを得なかったんじゃないのさ」

 総司は爆心で昏倒している全裸の少女を抱き上げる。

 胸元までのプラチナブロンド。

 長い睫毛も淡く輝き、黄金色の双眸は今は固く閉じられている。

 柔らかな曲線を描くほっそりとした体躯。

 抜けるような白い肌には血や泥の汚れは一つもついておらず、ほんのりと発光しているようにも見えた。着せるものがないのでとりあえず総司の上着で包みこんでおく。

 

 校内での奏は黒髪で小柄、地味で目立たない男子学生を貫き通しているが、こちらが本来である。

 さすがに同じ二年で双玉宗家の総司と恭鷹は正体を知っているが、麾下十家の「一」でありながら幼いころからあまり人前に姿を現さなかったので、生物学上は女と知らない学内関係者も多い。

 おそらく先ほどの一年などもそうだろう。

 総司も京都の宗家にいたころはあまり人に会わない生活をしており、「一」であれ「十」であれ家の人間以外をはっきり認識していなかったので、入学から盆を迎えるまでの数か月、違和感はあれど、いちいち性別を確認などしなかった。

 守護師には膂力(りょりょく)も胆力もいる。

 生き物としての作りが違う以上、女にとって不利な世界ではある。

 今も精魂尽き果てたのか目を覚ます気配がない。

 それでもSSSランク討伐もこなせる実力が、双玉とも並びたてる能力があるのに、後方支援を希望しわざわざ凡夫を演じる理由が総司には分からない。

 恭鷹は知っているのかいないのか「どうだろ、僕が昔いじめたせいかもね」などと興味なさげに嘯いた。

 総司はざっと辺りを見渡して怪獣の形跡がないことを確認すると、爆心から体液を採取する。

 奏の無原罪の聖母(ホーリー・マザー)は天使と聖母を喚びだし怪獣を消滅させてしまうため、形態・形質は推定するしかない。

 奏本人に怪我がなさそうなのと、一年生七人からこの一面の血の海は作れないだろうから怪獣の体液と見ていいだろう。

 DNAからおおよその骨格や同種の分析ができる可能性もある。

「総司の神威(かむい)といい、無原罪の聖母(ホーリー・マザー)といい、何もかも消し去っちゃうんだから本当にタチが悪い能力だよね。その場しのぎはできるけど後進には何の役にも立たない」

「お前の覇者(はしゃ)も似たようなものだろう。だいたいが消滅して研究にはできん」

「無許可で能力出せない人たちと一緒にしないでよ。僕のは合法。ただ凝縮して圧死させてるだけだから。君たちのは怪獣でもない異生物を降臨(おろ)して戦ってる異種格闘技戦。バケモノにバケモノぶつけてんの。僕はまだ人間やらせてもらってるんでね、別物だよ」

 それもそうか、と特に感慨もなく総司は頷いた。

 総司の能力・神威は一言で言ってしまえば神降ろし――森羅万象の支配である。

 空間という概念を支配し「地点をねじ曲げろ」と命ずれば空間転移も可能だし、単体の怪獣に「自壊しろ」と命じることも可能だ。

 理論上は「すべての怪獣を道ずれにしてこの世界から消滅しろ」と命じることもできるはずなので何回か試してはいるが成功には至っていない。

 その延長線上で地球を破壊することも可能であるがゆえに、無許可での能力使役は政府によって禁じられている。

 無原罪の聖母(ホーリー・マザー)もおそらくは同じようなからくりなのだろうが双玉宗家にも詳しいことは伝わっていない。

 双玉と当局以外には能力の存在も所有者も秘匿され、いかなる緊急時であれ無許可での顕現などもってのほか。

 総司と恭鷹が他の討伐を捨て置いてわざわざ回収に来たのは、万が一奏が制御不能に陥っていたら即その首を刎ねろとの勅命を当局から受けているからだ。

 目には目を。災厄には災厄を。

 高ランクを一撃で仕留める総司も恭鷹も民間人にとっては怪獣と同じく、神にも災害にも等しい畏敬の存在だ。

 双玉が一強になりえないのは有事の際に互いの首を刎ねるため。

 それを踏まえれば、双玉に拮抗できるだけの能力を持ち、次代の胎(はら)ともなりうる少女の立ち位置はあまりに危うい。

 それでも奏は迷わず顕現することを選んだ。

 引率として果たせる責務は果たそうということなのか、一年生に何らかの情があったのかは分からない。

 演習ごときでここまで大事(おおごと)にしなくても総司と恭鷹を呼べばいい。

 ただ、二人の到着を待っていたら一年は全員死んでいただろうから、考えるより先に身体が動いてしまったのだろうか。

「あ、奏ちゃんに死刑宣告出たよ。どうする? 殺す?」

 教務課から支給されているタブレットを覗きながら、たかが数分の顕現で大騒ぎしすぎなんだよなぁと恭鷹が独り言ちる。

 一瞬考えたあと総司は首を振った。

「必要ない。あとは天真が引き受ける」

「あは、総司そんな冗談言えるようになったの。えーでも全然面白くないね。零点。その子は冷泉(うち)のものだよ」

「お前は一ノ宮に嫌われているだろう」

「嫌われてない。好きな子ほど構いたいだけ。それで言ったら総司だって嫌われてるでしょ」

「あまり深く関わりたくないと言われただけだ」

「眼中にないじゃん。僕は奏ちゃんの太もものほくろも知ってるっていうのに」

「不埒なことを抜かすな。とにかく死刑執行は行わない。これから先は一ノ宮の安全は天真が担保する」

「天真が担保ねぇ? どうやって?」

「お前に言う必要はない。粛々と手続きを踏むだけだ」

「じゃあ僕も冷泉(うち)のやり方を言う必要はないわけだ。もう一度言っておくね。その子は冷泉(ぼく)のものだよ」

「物扱いするな。これは俺の唯一になるんだぞ」

「はぁ? 唯一? 入学から何か月も女の子だってことにすら気づけなかった奴にそんな資格ありませんけどぉ?」

「…………」

「…………」

 交錯した紫紺と胡桃色の双眸がお互いに冷たい色を帯びる。

 無言のまま総司は奏を抱え直し、恭鷹はタブレットに赤々と表示された死刑宣告の文字を留保に書き換え、東京の学舎へと飛(・)ぶ(・)。

 その晩。

 天真と冷泉それぞれから一ノ宮家への縁談が持ち込まれ、一ノ宮奏を双玉の徹底的な監視下に置くことで渋々ながらも当局と御所が合意。

 結果、一ノ宮奏の死刑宣告は猶予された。

 双玉両家との婚約――死刑執行まで約半年の猶予――と引き換えに。

第二話は少し短めでした。

これも契約結婚と言っていいのか……。

死刑執行を免れるための婚約が奏の知らないところで成立しました。

奏は双玉から逃げ切れるのか?それとも別ルートで死刑回避するのか?

少しでも「いいね!」「続きがんばれ!」と思っていただけたら最下部の評価(★)やブクマで応援いただけたら嬉しいです! 明日も18時に第三話を更新いたします!

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