第十二話 決戦都市・東京Ⅱ Hello,again.<上>
行く手示す あけの星 導きませ み母マリア
アヴェマリア アヴェマリア
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光の濁流が新宿を飲み込んでいく。
天から降り注ぐ光の御柱の中心で奏は呟くように天使たちと歌っていた。
白金の長い髪が風に広がる。五百蔵の残火によって増幅された無原罪の聖母の光剣が怪獣を次々と貫き、消していく。
パイプオルガンの荘厳な調べと、天使たちの歌声が轟き渡る。
それはまるで世界の終わりのような、新しい世界を寿ぐような。
「おお、やってるやってる」
何もない空中の扉から四鬼尭斗が現れた。
地上にちらりと目をやる。
増幅器である五百蔵と治癒力を持つ八束だけは守らねばと、無数に湧く怪獣を双玉が必死に捌いている。
残火は奏に集中させているので、双玉であっても数で押し切られかねない厳しい局面を強いられていた。
尭斗は空間を歩いて奏の目の前までやってくる。
「四鬼尭斗……」
「そう。久しぶり。天使シリーズも役に立ったようで何より」
「あなたのことは喚んでないよ」
「邪険にするなよ。全国怪獣博覧会なんかそうそうないんだから、少しは楽しませてくれたっていいだろ。それに見せたいものがあるんだよ」
「見せたいもの――?」
尭斗が指揮棒を振るう。
「別にこんな棒なくてもいいんだけどさ。こういうのあった方がそれらしいかなって」
蒼穹に巨大な扉が出現し、中から赤子が這い出してきた。
赤子――と言っていいのかは分からない。
そのふくふくとした手のひらだけで何メートルあるだろうか。
顔は御苑上空をすっぽり覆う大きさ。無垢な瞳は新宿全域を見渡せそうである。
「…………っ!?」
「神の模型のひとつだよ。奏の子どもも見たくはあるが、違うアプローチで怪獣を神に近づけてみた。まだ人語はうまく話せないけどね。怪獣が人の似姿をとったとき、集団行動を身につけたとき、敵と認定したものを排除する知恵をつけたとき。君たちはどうする? ――本気で怪獣を殲滅できると思っていたのか? 何を根拠に?」
「何がしたいの」
「俺は俺の見たことないものが見たい。ただそれだけ」
ああぅ……?
赤子が新宿の上空を這う。
つたない動きに不釣り合いな衝撃波が奏と面々を襲う。
「くっ…………!」
「動くな」
総司が地上から神威で命じるが、バシンッと総司ごと弾かれた。
出力が足りないのだろう。反動を受けて総司があまりにも軽く吹っ飛ばされる。
「天真!」
「クソが……っ!」
怪獣に蹴りを入れるついでに踏み台にして恭鷹が跳躍する。
すさまじいスピードの突きが尭斗の顔面を掠めた。
「おっと」
尭斗が指で軽く円を描くと、SSSランクが恭鷹の落下位置を見越して突進してくる。
「俺を攻撃しても終わらないよ。ちゃんとこの子を倒さないと」
SSSランクの爪を間一髪で躱して着地するも、地ならし、尾による薙ぎと猛攻は続く。
「自壊せよ」
トリアージで回復した総司が恭鷹を襲うSSSランクを背後から崩壊させる。
「地上の雑魚は俺たちが片付ける。奏はそっちに集中していい」
「せっかく高ランクを用意したんだから皆で楽しんでくれよ。ほら、その辺のは出雲で育てといた新種。SSSランクより上のこと、君らはなんて呼んでるの?」
「雑魚、だ」
総司が尭斗を見上げ、紫紺の瞳を鋭く細める。
「うん、その虚勢は嫌いじゃない」
赤子が這いずりまわる。
手のひらが空中を叩くたび、膝をずりずりと引きずるたびに、バン!!! バン!!!と上空から暴風が叩きつけられ、建物がひしゃげ、吹き飛び、街の面影もなく更地になっていく。
ああぅ……っだあぅ……
奏が無原罪の聖母を差し向ける。真っ白な光剣の束が赤子の眼前に迫る。
無原罪の聖母の攻撃でぴっと一筋、小さな傷が赤子の肌に走り、ひくっと薔薇色のくちびるが引き攣った。
あ……あああああああああああああああああああああああん!!!
火がついたように赤子が泣き出す。
耳を劈く轟音が御苑の森をごっそり薙ぎ払う。
新宿どころか二十三区中に響き渡りそうな音量だ。
警備中の後方支援は、避難中の住民は無事だろうか。
いったいどれだけの被害が出たのか。
いゃああああああああああああああああああああああああん!!!
空中でじたじたと赤子が転がる。
無原罪の聖母の剣もいとも容易く「いやいや」と跳ねのけられ奏は愕然とする。
「光剣はもう『見てる』から。その子にも学習させておいた。天使シリーズも。双玉と麾下十家の主要な能力もインプット済み。俺が見たいのはその先だよ。――さあ、どうする?」
困ったときは助けてくれるってあの日言ったくせに、四鬼尭斗は機嫌よく奏の隣でゆったり足を組んで眺めているだけだ。
無原罪の聖母はすでに五百蔵の残火で増幅している。天使たちも出している。
出せる手札はすべて出している。
けれども無数に湧く高ランク怪獣と、疲弊していく双玉や仲間たち。
頭が真っ白になって次の手が思い浮かばない。
「どうしよう……」
殲滅作戦は奏と双玉にしか為し得ない。
刺し違えてでもすべての怪獣とともに奏は消えなければならない。
奏もまた怪獣の因子を持つ者だから。
バケモノだから。
なのに、無原罪の聖母が使い物にならない今、刺し違えるビジョンすらも見えない。
全滅。
最悪の二文字が脳裏をよぎる。
「どうしよう……」
あああああああああああああああああああああああああん!!!
ひときわ大きく赤子が泣いた。




