第一話 怪獣頻出地区・青森 SSSランク会敵報告<下>
十数分後。
「ふ~ん。生き残った一年もいるんだ。仲間をみすみす死なせて自分たちは何にもできないなんて無様だねぇ。僕だったら繊細な上に矜持も高いからさ、そんなの恥ずかしくて生きていけないなぁ。憤死しちゃう。君たちってすっごく面の皮が厚いんだねぇ。尊敬するよ」
「あとは我々が引き受ける。東京に戻れ」
突如空間を裂いて現れたのは、柔和な笑顔で皮肉を吐く榛色の髪に胡桃色の瞳をした青年――冷泉恭鷹と、一年生を一瞥すらせず言葉少なに追い抜いて山道を登っていく黒髪に紫紺の瞳の青年――天真総司。
制服のあちこちに返り血が飛んでいる。
おそらく別の討伐から文字通り飛んできたのだろう。
双玉ともなれば空間を飛ぶことすら容易いとばかりに、学内で垣間見る顔と変わらず平然としている二人を九重は慌てて追いかけた。
「同行させてください。一ノ宮さんの保護ぐらいならお手伝いできるかと」
「奏ちゃんの保護ねぇ? 君、名前は?」
「九重晴樹です。後ろの二人は八束と五十嵐です」
「九の子かぁ」
恭鷹が鼻で嗤った。
「僕らが他の討伐を巻きで終わらせてまでここに来た理由分かってないくせに付いてきたいの?」
「それは……当然SSSランクの討伐と死傷者の回収では?」
「あっは。違う違う。SSSランクなんかとっくに奏ちゃんが殺してるよ」
「えっ?」
あの昼行灯の一ノ宮が?
SSSランクは双玉にしか討伐できないはずでは――九重が怪訝な顔をするのを見て、恭鷹はくふくふと人の悪い笑みを浮かべた。
総司は一顧だにせず黙々と先を歩いている。
「光の御柱、見たんでしょ? 奏ちゃんだよ。怪獣なんか今頃木っ端微塵なんじゃないの。周辺も更地になってそうだけど」
「じゃ、じゃあ、先輩方はなぜ」
「お前たちは下がれ」
山門が見えてきたところで、総司が短く命じた。そして決してこちらを見ない。
光の残滓が山門近くできらきらと輝いている。
あれが一ノ宮の能力だと言うのだろうか。
恭鷹は「総司、すごい機嫌悪いじゃん」と笑いながら数十メートル空いていた距離をふわりと一歩で詰めて総司の隣に並んだ。
戸惑う九重たちを目だけで振り返る。
「察しが悪いなぁ。ここから先は双玉宗家の秘匿事項だ。下臈ごときがしゃしゃり出てくんなってこと」
恭鷹の言葉に反駁する隙もなく、総司が素早く宙をスワイプする。
え、と思ったときには九重たち三人は東京の学舎に飛ばされていた。
「一ノ宮さんが秘匿事項って……あの人なんなんだよ……」
廊下を舐める生ぬるい暖房の風に呟きが溶けていく。
【経緯報告書 学徒二年 天真総司・冷泉恭鷹】
■状況
二月十三日(金)午前十一時ごろと推定。
青森県むつ市所在の霊場恐山付近で実施された一年討伐訓練にてSSSランク怪獣と会敵。
引率の二年、一ノ宮奏により討伐済み。
怪獣は消失しており形態・形質は現段階で特定不能。
体液のみを採取、分析中。
一ノ宮奏は討伐にあたり無許可で規制能力・無原罪の聖母を約四分四十秒間にわたり顕現。
教務課の指示により同二年、天真総司ならびに冷泉恭鷹が生存していた一年生三名と一ノ宮奏を救助保護。
■被害
一年生七名が死亡。
残り三名は外傷なし。
一ノ宮奏は無原罪の聖母を顕現後、昏倒。目立った外傷はなし。
■賞罰
規制能力の無断使用により、一ノ宮奏に即時の死刑執行を通告。
御所・当局は認諾も双玉宗家の承認を得られず。
両家による厳重監視の下、刑執行猶予を半年とし、あわせて一か月の停学処分とする。
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