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第八話 殉教地・天草 無原罪の聖母再臨<上>

 当局は最初から狙っていたんだと思う。

 奏が無許可で無原罪の聖母(ホーリー・マザー)を出すのを。

 

   ***


 五月十二日夜半。

 天草市御所浦島にて複数の怪獣出現を確認。ランク不明。

 斥候として学徒三年・一ノ宮奏および学徒二年・九重晴樹が現場へ急行。

 A~Bランクの討伐として任務開始するも、SSSランク四体が相次いで出現。

 一ノ宮奏より双玉宗家への援護要請が出されるが天真総司・冷泉恭鷹ともに別件対応中にて却下。

 その後、数度にわたり援護要請が出されるが双玉飛べず。

 一ノ宮奏より規制能力・無原罪の聖母(ホーリー・マザー)の使用許可申請が提出される。

 長岡京市事件での影響範囲を鑑みて御所浦島での使用は危険と判断し当局はこれを却下。

 Aランク討伐が可能な守護師三名を派遣し、双玉の別件対応終了まで堅忍するよう指示。


 五月十三日未明。

 住民の避難誘導中に九重晴樹が死亡したとの一報。

 一ノ宮奏より再三の援護要請と能力規制解除要請。当局はこれを却下。

 一ノ宮奏、独断により当局未登録の能力を顕現。

 同時に無原罪の聖母(ホーリー・マザー)を約九分間顕現し、SSSランク四体と御所浦島に出現したすべての怪獣を殲滅。

 同日深夜帰校。

 現場検証班により九重晴樹の死亡を正式に確認。

 一ノ宮家より麾下十家すべての討伐任務への出動を拒否する旨、当局に通達あり。

 双玉宗家と大至急協議中。


   ***


「御所浦島で怪獣の出現を確認。ランク未確認。一ノ宮と九重、すぐに向かえ」

 五百蔵が学徒寮の入口で大声で命じる。

 時刻は十七時を回ったところ。

 奏と九重が自室からそれぞれ顔を出すと、食堂から漂ってくる味噌汁の匂いが寮全体を包み込んでいた。

「御所浦って気軽に言ってくれますねぇ。双玉いないんですか?」

 遠方の即時対応は空間転移を使うべきとぼやく奏に、二人とも出払っていると五百蔵が首を振る。

「御所浦ってどこですか?」

「熊本。天草の離島だよ」

「それ、今から飛行機飛びます?」

「当局経由で足は押さえてある」

「僕らはランク認定して当地の守護師に現場引き渡したらいいんですか」

「A~Bランクとは思うが、今すぐ動ける人員がいねえ。住民誘導と討伐までやれ」

「うわぁ厄日だよ九重。徹夜案件」

「マジすか」

 能力者、特に当局機関で正式な教育を受けた守護師の数はそう多くない。

 また教育を受けたからといって全員が討伐向きの能力を有しているわけではない。

 自然、討伐向きの守護師は双玉城下である京都や当局直下である東京に集まる。

 その日は偶然にも高ランク怪獣が頻発した。

 朝から双玉が駆り出され、ランク認定が甘かったのか、出没数が多かったのか夕刻をすぎても帰ってこない。

 常ならば空間転移を持つ二人がついでに討伐に回ったり、近場の守護師が対応するので学徒にまでお鉢が回ってくることは早々ない。

 それなのにこの時間から出動要請が入るということは怪獣の出没数が異常に多い日だということだ。

 怪獣にも繁殖期があるのか、年に一、二回こういう日がある。

「御所浦島って離島ですよね。離島は怪獣出現しにくいって一ノ宮さん言ってませんでした?」

「言ったよ。普通はそう。でも御所浦島って獣脚類の大型恐竜の化石とかも発見されてて恐竜の島ではあるんだよね。怪獣と恐竜が遠戚関係かどうか分かんないけど。あとあの辺一帯の海がゆりかごの海って言われてて、生物が棲みやすい環境なのかもしれない」

「いつ調べたんですか。いつ何の話聞いてもそれとなく説明できますよね」

「後方支援希望を舐めんなよ。これぐらいの簡易リサーチは調べればすぐだよ」

 羽田―熊本の最終便になんとか駆け込み、車とチャーター船を乗り継いで御所浦へ向かう。

 空港から法定速度を大きく違反して一時間半。そこから船で御所浦島北部の嵐口(あらくち)港へ。

 到着したころにはまもなく日付が変わろうとしていた。

「なんだ……これ…………」

 上陸した九重が言葉を失う。

 住民は警察官や自警団らによって嵐口地区からは南西に下った御所浦港近くの避難シェルターに誘導され、規制線が敷かれていた。

 海から上陸したのか道路脇に停められていた車が大量になぎ倒されている。

 そのまま山へと進んで行ったようで樹々の間に巨大なシルエットが覗いている。

 暗闇でもはっきりと分かる影は完全に集団のそれだった。

 休眠中なのか完全に停止しているSSSランクを中心に、Sランク~Aランク級が二体、Bランクが三体。

「よく軽傷者だけで済んだもんだよ。奇跡だね。SSSランクまでいるんじゃ僕らじゃどうしようもない。双玉に救護要請出そう。あと思ったより怪獣の数が多いな。近隣の守護師は――何人か来てるのか。ここまでの経緯を聞いてみよう」

「一ノ宮さんの能力規制って」

 九重がちらりと奏を窺う。

「SSSランクは活動休止状態と見える。AランクとBランクの討伐が優先」

「ですよね。あ、双玉ダメですって。教務課から動けないって返事きました」

「えぇ本気で厄日じゃん。二人が来るまでSSSランクこのまま動かないといいけど」

 年に数度あるかないか。

 怪獣が全国各地で出没して双玉が動けなくなる日。

「ついてないね」二人してやれやれと荷物を地面に下ろす。

 やたら忙しいだけの昨日の続きの今日のはずだった。

第八話は叶うことなら<下>まで一気読みしてほしいな、と思っているパートです。

★、ブクマ、リアクションで応援いただけたら幸いです。引き続きよろしくお願いいたします。

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