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A5サイズのジップロック~致死量の絶望を飲み干して、ただ只管に生き延びた記録~  作者: 1129


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第三章第六話:ばーばんの秘密のトンカツと最新の掃除機


 母には何も言えず、ただ浜松から帰ってきて、どんどん痩せていく私。

 嘔吐し続ける私。


 それをキッチンにもたれかかり、足を組んでタバコを吸いながら、母は言った。


「まさかあんた、妊娠してないよね?」


 私はどう答えていいかわからなかったが、その無言がイエスだと母はすぐに気づいたようだった。


「絶対に誰にもバレたらあかんよ!特にあのおばさんにはバレないようにするんのよ!結婚前に妊娠するなんてみっともない!」


 栄養失調、妊娠。

 私にかけられた言葉は、それだけだった。


 私はつわりがひどく、1時間に2回ずつ吐く。

 そんな日々が続き、起き上がることさえほとんどできない。


 それでも母は言い続けた。

「バレるから、寝込んではあかんよ!10時に起きて洗濯をして、布団を上げて掃除をする」

 何度も、何度も。

 でも、ただできなかった。

 情けなくて惨めで、泣くしかなかった。

 それでも、母の前では泣けなかった。


 唯一、事情を知るばーばんだけが、私の支えだった。

 ふらっと家に来ては、私の食べられるものを聞いて、近くのスーパーで買ってきてくれる。


 冷えた高野豆腐。


 それだけは食べられた。

 切れていない一枚の含め煮の高野豆腐。

 下の皿が黒いプラスチックの、あの惣菜。

 私はそれしか食べられないから、ばーばんは何パックも同じものを買ってきてくれた。

 朝の惣菜を持ってきてくれて、二人でこっそり食べる。

 私のやるべきことも、そっと手伝ってくれた。


 ちなみに、こっそりしていたのはばーばんの方だった。


 糖尿病で食事制限があるのに、私の様子を見に来るという理由で惣菜を買いに行き、トンカツ屋の唐揚げや油物をこっそり食べていた。

 ダイニングテーブルで向かい合って座るから、お互いに食べているものは丸見えだった。

 メインはだいたいトンカツ一枚。


「糖尿やねんからあかんて!」

 毎回そう言う私に、

「ちょっとくらいかまへんて!」

 と返す、そのやり取りも毎回同じだった。


 私よりも確実にコソコソしていた。


 トングで掴んで入れる惣菜のパック。

 なぜか輪ゴムをたくさん持っているのも、おばあちゃんの謎だった。

 あれを一体何に使うのかは、今でもわからない。


 その優しさが嬉しくて、私は泣きながら食べていた。


 私の愚痴を唯一聞いてくれて、優しくしてくれて、チャリンコでぶっ飛ばして来てくれる。

 あの時の支えは、全部ばーばんだった。

 来るたびに、私は泣いていた気がする。


 つわりで、私は37キロまで痩せた。

 後ろで母が笑いながら言った。

「あんたがその体重になることはもう二度とないやろうから、記念に写真でも撮っといたら?」


「吐いてもいいけど、すぐカビになるから、吐いた後はちゃんとトイレ掃除してな」


 お風呂で吐いた時は、ひどく怒られた記憶がある。

 ぼんやりする意識の中で、

 ああ、こんなに痩せたのは初めてやな、と私は思っていた。

 しばらくして、ばーばんの妹のおばさんが家に来た。

「あんた妊娠したんやって?」

 私は、してはいけないことをしたという恐怖と、バレたという恐怖で固まっていた。


 何も答えられなかった。


 するとおばさんは、

「そんなに痩せて、何か食べれるもんあったら言うてや。ゆっくりするんやで」

 そう言って、笑顔で帰っていった。


 そして数日後、またおばさんがやってきて、大きな段ボールを渡された。

「これお祝い!」


 中に入っていたのは、当時の最新式の掃除機だった。

 それを見て、私は初めて気づいた。

 怒られていない。

 本当に祝われているのだと。


 なぜバレたのか。

 原因は、ばーばんが口を滑らせたことだった。

 当時の私は、ばーばんに強い憤りを感じて問いただした。

「なんで言ったん?」

 するとばーばんは、

「そんなん、ほっといてもいつかバレるやんか。仕方ないんやから怒りなや」

 とだけ言った。

 確かに、ばーばんは天然だった。

 でも今ならわかる。

 あの家での扱い。

 泣きながら痩せていく私。

 それを見て、心配して。

 わざと、うっかり口を滑らせたふりをして、外に繋げてくれたのだと。


 そこから母は、手のひらを返したように優しくなった。

 食べたいものを買ってきてくれ、体をいたわるようになった。


 当時の私は、それを「普通」だと思っていた。

 でも本当は違った。

 里帰り出産。

 本来は、親が喜んで迎えるもの。


 でも私は、毎月三万円を生活費として渡していた。


 それが当たり前だと思っていた。

 知らなかっただけだった。

 その三万円をもらうたびに、私はクリスに謝っていた。

 その電話も、つらかった。

 限界に近かった。


 働けない私が頼りにしたのはクリスだった。


 そしてこの頃から、少しずつ、いくつもの問題が表に出てくることになる。


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