第3章第1話:透明人間の私と、ゴミ箱に捨てた青春
第3章:
弟がいなくなり、母と妹と私の女3人、おばさんの家の近くのアパートで暮らすことになった。
父が用意してくれた家具たちのおかげで、生活自体に不自由はなかった。
ただ、そこに「家族の体温」のようなものは一切なかった。
当時の私は、自分のことを「透明人間」と呼んでいた。
母は私の行動に筋道立てて干渉してくることはなく、都合が良い時以外、私の姿は彼女の目には映っていないようだった。
私が高校の友達と何日も家に帰らず遊び歩いても、2週間無断外泊しても、何も言われない。
いるようで、いない。
そういうものだった。
家にいる時の私は、夜な夜な趣味の創作活動に没頭していた。
当時はまだADSLなんて便利なものはなく、電話回線を使ったインターネットの時代。
夜の10時から夜中3時までの「テレホーダイ」の時間が私のすべてだった。
自分でホームページを作り、大好きな絵を描いて掲載し、遠方に住む同じ趣味の仲間たちと交流する。
回線は遅くても、夜の静寂の中で繋がる見知らぬ誰かとの時間は、透明人間の私に確かな輪郭を与えてくれた。
高校生活はといえば、望んだ学校に入ったものの全くやる気が出ず、成績ランキングはいつも後ろから2番目。出席日数もギリギリで、窓ガラスを割り、隠れてタバコを吸うような、絵に描いたような問題児だった。
けれど、そんなすれた生活の中で、今思い返しても自分でも驚くほど純粋な思い出が一つだけある。
春の遠足。
電車移動の際、向かいに座った隣のクラスの男の子。
名前も知らない彼と初めて言葉を交わした瞬間、私は理由もわからず恋に落ちた。
そこから3年間、ずっと彼が好きだった。
でも、残酷なことに彼の好きな人は、私の親友だった。
私は彼に6回告白した。1回オーケーをもらったものの「やっぱりキャンセル」と言われ、結果的に6回振られた。それでも懲りずに「好きだ」と伝え続けた。
彼も最後には呆れて笑い、
「いい加減、他のやつもおるやろ」
と、完全に男女の友情ができあがっていた。
理不尽な環境で歪んで育ったはずの私が、この時だけは「恋とは勝手に好きでいて良いのだ」と純粋に信じていた。
嫉妬して泣いた夜もあったけれど、2人で自転車に二人乗りしたことや、終電を逃して彼の家に泊めてもらったこと。
残っているのは、そんなキラキラしたきれいな記憶だけだ。
そして迎えた、卒業式。
帰り道、私の心境は驚くほどフラットだった。
みんなが名残惜しそうに寄せ書きや記念品を持ち帰る中、私は思い出の詰まった持ち物をすべて、駅のゴミ箱へ投げ捨てた。
未練なんてなかった。ただ、身軽になりたかった。
親は当然、私の進路になんて無関心だ。
卒業前の進路相談で、いつも鬼のように怖い先生に「進路はどうするんだ」と聞かれた時、私は迷いなくこう答えた。
「お金を貯めて、世界中の綺麗なものを見て回りたいです」
すると、その鬼教師はふっと笑い、「何か、お前らしいなぁ」と言った。
その言葉が、妙に嬉しかった。
身軽になった私は、次のバイト先を探し始めた。
ただ、その前に一つだけ気がかりなことがあった。
東京へ旅行に行く前のことだ。
一度だけ父に会い、ちょろっと東京へ行く話をした。すると父は気前良く、私に5万もの大金をぽんとくれたのだ。
感謝したい。ありがとうと、もっと満面の笑顔で言いたかった。
でも、うまくできなかった。
ぎこちない「ありがとう」しか口から出なかった。
当時の私には、父からお金を受け取ることが、なんだかとても「悪いこと」をしているような、そんな罪悪感にしかならなかったのだ。
この5万円を財布に入れ、私は友達と東京へ向かうため、深夜特急「ムーンライトながら」に乗り込むことになる。
そこで、私の人生を大きく狂わせる―
―いや、変えることになる、1000円札の出会いが待っているとも知らずに
18歳からのわたし。
第3章となります。
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