友人の彼女が親戚
「し、白石さん!?」
突然飛び出た爆弾発言に俺は焦りを浮かべる。
クラスメイトと話をしているところを逆ナンパと勘違いしたのだろう。
さっき俺が余計なことを言ったばかりに……。
それにしたって俺なんかがナンパされるわけがないのだから完全に彼女の早とちりだ。
「いつもみたいに愛華って呼んでよっ!」
そういって俺を庇うように横に立った。
あまりの近さに腕と腕が密着しており、先程の言葉もあってか急激に彼女を意識してしまう。
「ひ、日野って彼女いたんだ……?」
一方。野村の方は突然現れた彼女(偽)に動揺を隠せない。
無理もない、自分たちが女三人で遊びに来ていると豪語しておきながら、クラスでも冴えない男が彼女持ちというありえない状況に遭遇したのだ。
「裕二君っ?」
白石さんが目配せをしながら俺に同意を求めてくる。
さて、どうしようか…………。
ふと冷静になった俺は考える。
もしここで白石さんのことを彼女だと主張すると、登校日のクラスでの話題にされるだろう。
特に、誠二の耳に絶対入るに決まっている。
彼女との遊びを許可したのは誠二なのだが、この場合それは免罪符にもならない。
俺が白石さんをたぶらかしたと思われる可能性もあるし、好奇や羨望の目を向けられる可能性もある。
何が悲しくて居もしない彼女の存在で、他の連中から嫉妬されなければならないのか。
よって、白石さんが俺の彼女だという主張を通すことはありえない。
野村さんと白石さん。あと野村さんの連れ二人の視線が俺へと突き刺さる。
この場の皆俺の返答を待っているのだが……。
「はぁ。まったく。冗談が過ぎるぞ愛華」
「裕二君!」
ぱぁーっと笑顔を浮かべた白石さん。それを見て複雑な表情を浮かべる野村さん。その表情は対照的だが、どちらも整った顔をしているので妙に目を惹かれた。
「ほ、本当に彼女なんだ……」
声のトーンが幾分か落ちた野村さんの様子が少し気になる。俺は言葉を続ける。
「いや、俺と愛華は親戚同士でな。今日は実家の集まりで遊びに来てるんだよ」
「えっ……?」
白石さんが裏切られたような顔をする。その瞳は「どうしてそんな嘘をつくの?」と俺に問いかけているようだった。
それは仕方ない話なのだ。
もし彼女が俺の恋人でないと説明をすると、素性をさらに探られてしまうことになる。
そうすると、彼女が誠二の恋人であることがばれてしまう。
誠二には自分に恋人がいることは内緒にしてほしいと頼まれているので言うわけにはいかなかった。
「な、なぁーんだ。親戚なんだねっ!」
やけに嬉しそうな声を上げる野村さん。やはりクラスで自分より下のカーストに彼女がいるかもしれない状況を気にしていたのか。
「大体、俺みたいな暗いやつにこんな可愛い彼女がいるわけないだろ。野村さんも変だと思っただろ?」
「そっ、そうだよねっ! 日野って学校でも私以外の女子と話しているの見たことなかったし。女っ気もなさそうだったから彼女がいるなんて全く想像していなかったし」
俺が話を振ると、野村さんは饒舌になる。言ってることは大体あっているのだが、仮にも親戚の女の子の前なのだから少しは俺の名誉を守って欲しい。
「えっと、愛華。彼女は俺の学校のクラスメイトなんだ。学校では俺と誠二と彼女で良く雑談をしているんだよ」
さりげなく白石さんに野村さんの正体を告げておく。彼女ならこの情報で何故おれが嘘をいったのか察してくれるだろう。
「だからナンパは誤解だったんで、演技はしなくていいんだぞ」
何やら俯いて顔を赤くしている。どうやら自分の世界に籠って話が聞こえていないようだ。
「えーと、俺たちは家族と合流しなきゃいけないから……その……」
ここはひとまず撤退しておいた方が良いだろう。俺は伺うような目で野村さんを見ると。
「そうなんだ、うちらは三人で遊びに戻るから」
どうにか了承してくれたので一息吐く。
「それじゃあ日野。また学校でね」
野村さんは手を振ると連れの二人と去っていくのだった。
「……可愛いって言われた。可愛いって言われた。可愛いって言われた」
野村さんたちが立ち去って白石さんの方を向くと、何やらぶつぶつと声が聞こえてくる。その顔が赤くもしかして熱射病にでも罹ったのではと観察していると。
「えへへへへ」
口元をくしゃりと歪ませて笑い始める。そしてしばらくすると……。
「あれっ? さっきの娘たちは?」
「いや、とっくに立ち去ったけど……」
いったいどれだけ放心していたのだろうか。
「それより、どこか別の場所に行く?」
このままここにいると再び野村さんと遭遇する可能性はある。
家族で来ていると言った手前それはあまりよろしくない。俺は移動することを提案するのだが……。
「だったら屋内に行こうよ。そこにもテーブルがあったと思うし」
白石さんはそう言うと手にバスケットを持ちながら歩き出すのだった。




