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友人の彼女とウォータースライダー

 しばらくして、プールに浸かっているのが飽きた俺達はウォータースライダーへと向かった。


「結構並んでるんだね」


 前を見ると、10組程のカップルが並んでいる。

 その全てが甘い雰囲気を漂わせており、俺は何となく目のやり場に困ってしまう。


「夏休みだもんね、カップルが多いのは仕方ないかぁー」


 白石さんはそれを見ると若干羨ましそうな声をだす。それならば誠二と来た方が良かったのではないだろうか?


 次第に列が前に進んでいくと、係員がアトラクションを利用するうえで注意する点を話しているのが聞こえる。


 基本的にこのアトラクションは2人で1つの浮き輪に乗るらしい。

 1人は前で浮き輪の両サイドの取っ手を掴みもう1人は取っ手を掴んでいる1人の身体に手をまわして抱き着くように。


 そんな状態で滑っていきながら、楽しそうに叫び声をあげている。


 次第に列が進んでいくなか……。


「どうしたの。日野君?」


 白石さんが不思議そうに聞いてきた。


「いや、流石にこれは不味い。やめよう」


 先程までの人間はすべてカップルだったから問題がないのだが、俺と白石さんは別に付き合っているわけではない。


 そんな2人が抱き合うように密着して乗るということは明らかにまずいだろう。


「あっ、わかった。怖くなったんだ?」


 俺のそんな態度を誤解したのか、白石さんは悪戯に笑って見せる。


「ああ、思ってるより高くてな。ちょっと俺には耐えられそうにないんだ」


 どうせならその勘違いに乗っかってしまおう。そう考えたのだが…………。


「大丈夫だって。私がついているからさ」


 彼女から弟を見るような優しい瞳を向けられ退路を断たれてしまう。


「それじゃあ、いこっか」


 結局、俺が黙ってしまっている間に手を引かれてしまい、アトラクションの前に連れていかれるのだった。


「それでは。ウォータースライド内では大きな動作は危険ですのでお控えください。また、地上に付きましたら後続がきますのですぐにその場を離れてください」


 係員の説明を聞き、浮き輪が渡される。白石さんは早速そこに腰掛けると……。


「日野君。早くおいでよ」


 俺は覚悟を決めると後ろに座る。なるべく彼女から距離をとり膝に手を置くのだが……。


「お客様、危険ですので彼女さんの身体に手を回してください」


「か、彼女じゃ…………」


 慌てて否定をしようとするのだが……。


「もう、日野君。係員の人を困らせないの。早くしなきゃだめだよ」


 仕方なしに俺は白石さんの身体に手を回し抱き着くと……。


「ひゃっ! くすぐったいよ!」


 白石さんは身体をよじらせた。俺の視界には彼女の後頭部が映る。

 密着している部分が暖かく、俺の心臓の音が彼女に伝わってないか心配だ。


「それでは、お楽しみください」


 「ドンッ」と音がしたかとおもえば俺達はウォータースライダーを滑っていた。


「あははははは、凄い凄い! はやいっ! 怖いねっ!」


 白石さんの楽しそうな声が聞こえるのだが、俺はこの状況に没頭できない。それというのもスライダーが俺たちの身体を左右に揺さぶるたび、彼女の柔らかい身体がいろいろと接触してきてそれどころではなかったからだ。


 やがてゴールに到着すると、水しぶきが上がり俺と白石さんはバランスを崩す。そして……。


「うわっ!」


「きゃっ!」


 何とか浮き輪から放り出されなかったが、これまでで一番距離が近い。


「日野君平気?」


 白石さんが振り返る。至近距離にあるぱっちりとした瞳にかすかに見える瑞々しい唇。少し顔を寄せれば触れてしまいそうだ。突然の事態に俺が身動きを取れずにいると……。


「あ……う……」


 白石さんもそこに気付いたのか、2人して固まってしまった。互いの目から動かせず時間だけが過ぎる。次第に思考に靄がかかってきて手が彼女の頬へと伸びていくのだが……。


『すいません、そこでイチャイチャしているカップルの方! 次がスタートできませんのですぐにどいていただけないでしょうか?』


 メガホンからそんな声が聞こえてくる。


「っ!?」


 俺たちははじかれるように顔を逸らすと浮き輪から降り、その場を離れる。

 その際、周囲の人間が俺たちを微笑ましそうな目で見ていた気がした。





「ふぅ、疲れたな……」


「あははは、私はもう一回やってもよかったけどね」


 あれから、もう一回滑ろうと言い出した白石さんをどうにか説得した後、俺たちはフードコーナーへと来ていた。


「そろそろ腹減ったし、何か買ってこようか?」


 座ってみればフランクフルトが焼ける匂いや、焼きそばのソースの香りが漂ってくる。

 プールでの激しい運動のせいもあってか空腹だ。


「あっ、だったらちょっとここで待っててもらえる?」


「いいけど?」


「ちょっと私が食糧を調達してくるから」


 妙な言い回しだが、買いに行ってくれるつもりなのだろう。椅子から立ち上がった彼女に俺は……。


「あっ、白石さん」


「ん。何?」


「ナンパだけはされないように気を付けて。もしされたらすぐに助けに行くから大声だしてくれ」


 よくある夏の定番イベントだ。


「日野君は冗談がうまいね。それじゃあ行ってくるね」


 今の白石さんの状態ならあながち冗談ではないのだが、まあ一度言っておけば大丈夫だろう。俺はぼーっと周囲を見ながら白石さんが戻るのを待っている。


「あれ。日野じゃない? 何してるのこんなところで?」


 白石さんがその場を離れてから5分程、聞いたことがある声がした。

 俺は誰が声を掛けてきたのかと思い振り返ると……。


「の、野村さん?」


 クラスメイトの野村さんがいた。

 日に焼けた健康的な肌に赤いビキニ姿。クラス内でもトップレベルに可愛いとは思っていたが、こうして制服以外の姿をみるとその認識が間違っていなかったと感じる。


「奇遇だね、こんなところで会うなんて」


「うちは友達と3人で来てるんだけど、日野は誰と来てるの? もしかして浜野も一緒?」


 野村さんの横にはこれまた目を引く女子が2人いて俺を値踏みするように見ている。


「この高級レジャー施設に男2人とかウケる。良かったら私たちが一緒に遊んであげようか?」


 俺が一緒に来ている相手を誠二と勘違いしたのか、野村さんはそんな提案をしてきた。


「い、いや……それは……その……」


 俺がどうやって断ろうか悩んでいると……。


「あの、何か御用でしょうか?」


 気が付けば白石さんが戻ってきていた。

 手には朝から持っていたバスケットがあり、どうやらそれを取りにロッカーまで行っていたらしい。


「うん。あんた誰?」


 突然話しかけてきた白石さんを野村さんは探るような視線で見つめる。俺は慌てて事情を説明しようと考えるのだが…………。


 次の瞬間。白石さんはこう言った。


「私は裕二君の彼女です。ナンパしないでください!」

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