友人の彼女と水着姿
「遅いな……」
施設に入ると受付を済ませた。
中にはゲームコーナーや漫画コーナー、フードコートなどもあり、訪れた人が一日ここで過ごせるようになっている。
俺たちは更衣室前で分かれると、プールサイドで合流する約束をしたのだが、待てど暮らせど白石さんは現れない。
「こういう時スマホで連絡できれば便利なんだけどな……」
プールサイドと温泉施設でのカメラ付き機器の使用は禁止されている。なのでこうして待つしかない。女性の準備の遅さは文献(恋愛漫画)で知っていたがこれほどとは……。
「実はドッキリで誠二と一緒にきたりしてな?」
言ってみて実にあり得る話だと思った。
そもそも2人きりで出かける方がおかしいのだ。サプライズで誠二が現れて慌てる俺を2人で笑って見せる。その可能性の方が高い。
そうなると俺としても上手に驚いてみせなければならないな。そんなことを考えていると…………。
「お待たせ日野君。ちょっと更衣室で悩んじゃって……」
白石さんがようやく登場した。
「いや、大丈夫。気にしてないよ」
彼女は艶やかな白い脚をこれでもかというほどに晒している。視線を太ももから腰に移動させると目につくのは水着だ。鮮やかな色彩の花柄で、彼女の明るい雰囲気に合っている。だが、なぜか彼女はパーカーを着ていた。
「えっとね……。いざ水着を着ようと思ったんだけど、持ってきた水着のどっちを着るか悩んじゃって……それでこっちを着てみたけど、いざ見せるとなると恥ずかしくなっちゃったの」
俺の疑問がどうやら顔に出たらしい。白石さんはもじもじとそんな言い訳をする。
羞恥に頬を染めながらも時折チラチラと俺を見てくる、その仕草の破壊力があまりにも高く照れている彼女を見て俺の心臓も早鐘のように鳴り響いた。
「……ああ、そうなんだ?」
こんな時何と答えるのが正解なのかわからない。誠二ならば「そんなパーカーじゃお前のスタイルの良さは隠せない。さあ、俺に愛華の可憐な姿を見せるんだ」などとナチュラルに呟いて白石さんを喜ばせるのかもしれないが、こちらにしてみると、女性を褒めた経験はせいぜい妹に「世界一可愛いよ」と言った程度なのだ。
とりあえず気まずい。この場では俺が判断しては絶対に間違えるだろう。ここは早急に誠二か由美に連絡して指示を仰がなければと考えていると…………。
「だ、だからさ……日野君。見てくれないかなぁ?」
「はいっ?」
そういうと彼女はパーカーのチャックをおろしはじめた。
その扉が開かれるたびに首下、鎖骨、胸、へそ、にかけて視界に飛び込んでくる情報量が増えていく。
鎖骨から胸にかけてのラインは理想的で、シミ一つない白い肌に目が釘付けになる。さらに程よい大きさの胸は女性的な曲線をえがいており、零れ落ちそうな瑞々しいそれを水着が包み込み芸術的なシルエットを保持している。
彼女が身に着けているのは上下を揃えたビキニで、学校のプールの授業でしか女子の水着を見たことがない俺にとっては破壊力が強すぎた。
顔が熱くなり目を逸らしそうになるのだが……。
「ど、どう?」
白石さんはそれすら許してくれず、どうやら俺は何が何でも彼女の水着を評価しなければならないらしい。
次第にお互いに無言になる。白石さんは俺の評価をききたくてじっと見ているし。俺は何を言えばよいかわからずに固まっているからだ。
「……き、綺麗だと思う」
俺は何とかそれだけを口にする。
「ほ、本当? お世辞じゃない?」
不安そうに表情を歪ませる。確かに今は発言の後で顔を逸らしてしまったから。白石さんがお世辞と思うのも無理はない。
すぐに誤解を解かなければならないと思うのだが、脳が沸騰していて考えが上手くまとまらない。こういう時、人は過去の経験に縋り付くもの。
水着で女性を褒めた経験を俺が脳内で検索した結果…………。
「そんなことはない。世界一可愛いと思うよ」
「えっ?」
妹に言った言葉をそのまま口にしたのだった。




