友人の彼女と待ち合わせ
空にはかすかに雲が浮かんでいるだけで太陽の光が容赦なく降り注ぐ。
風も吹いておらず、地面をみるとアスファルトからは早くももやが上がっている。
「暑い……」
俺は家を出ると開口一番に愚痴をこぼした。
今日は白石さんと出掛ける予定になっており、駅へと向かっているのだ。
白石さんとは家が近いらしいのだが、俺は彼女の家の場所を知らない。
ただ、わが日野家よりは駅から遠いらしいので、どうせなら家で待っていて一緒に向かえばよいのではないかと考えたのだが……。
『だめ。待ち合わせにしよ?』
無残にも彼女から送られてきたRIMEのメッセージである。
何故か待ち合わせに拘られた俺は、時刻の30分前に到着するように時間を調整すると家をでた。
待ち合わせ場所に到着する。地元の駅はこれでもわりと良い場所に存在する。
都内までは1本で行けるし、将来はリニアが通る予定となっている。
そんなわけで、人もそこそこいるようで目印のモニュメントには俺たちの他にも待ち合わせをしている人間が立っていた。
そんな中、一際人目を引く女の子が壁に背を預けながらスマホを弄っている。
麦わら帽子に白のワンピース。両手にはバスケットと足元には手提げ袋が2つ置いてある。
染み一つない白い肌に、腰まで届く艶やかな黒髪。薄着のせいで強調されているプロポーションの良さに、スカートから覗く綺麗な足。
まさに現代に降り立った妖精のような佇まいは非現実的で、行き交う人々もその姿を見ては振り返り他の人間とぶつかっていた。
そんな妖精の姿をみた俺は身動きをとることができずに固まっていると…………。
彼女が顔を上げた。その黒い瞳が真っすぐに俺を見てくる。そして…………。
「あっ、日野君おはよう」
白石さんは溢れんばかりの笑顔と声を出した。
「あ、おはよう。随分と早いね?」
合流する時に周囲の視線が俺に集中しているのがわかった。待ち合わせ時間まであと30分はあるのだが……。
「うん、日野君とあそべるのが楽しみで早く来すぎちゃった」
その言葉で俺は意識が遠のきそうになる。たった一言に男を勘違いさせる危険なワードをこれでもかというぐらいにぶち込んできたからだ。
俺が思わず眩暈がしてふらついてしまうと……。
「大丈夫日野君?」
白石さんが俺の肩にそっと触れる。そして心配そうに顔を覗き込んでくる。
「うん、平気だよ。ちょっと暑さにやられただけだから」
相手は友達の彼女と10回頭の中で呟く。並みの男であれば今ので完全に落ちるところだろうが、俺は彼女に彼氏がいることを知っている。踏みとどまるのは容易だ。
「そう? 最近暑いからね。無理はしないでね?」
彼女はそういうと心配そうに言うのだった。
2人して電車に乗るとなんとなしに奥へと進みドアの付近で向かい合って立つ。
白石さんはドアの横の壁に背を預け、俺は手すりを掴む形だ。
「それで、どこにいくの?」
俺は右手に手提げ袋を一つ持ちながら質問をする。
白石さんは明らかに荷物が多かったので、1つ引き受けたのだ。
彼女はバスケットを前に持ち、手提げを足元に置きながら答えた。
目的地は俺達の地元から3駅離れた場所だった。
「遊ぶというからてっきり地元のスバタとかかと思ったんだけど……」
俺が自分の予想を言う。
「スバタで何を話すの?」
確かに俺と白石さんでは共通の話題がない。俺は昨日の由美の言葉を思い出すと……。
「えっと、恋バナとか?」
女の子は恋バナが好きときく。これさえ振っておけばよいかと考えたのだが……。
「えっ?」
白石さんが目を大きく開くとキョトンとした。
そもそもの話、彼女は誠二と付き合っているのだからこの話題に全く意味がない。
あえて言うのなら俺の恋愛事情を話すぐらいなのだが、色々な意味で彼女には話したくない。
「ふふふ、それじゃあしようか恋バナ」
白石さんは口元に手をやると笑って見せた。
「しないからっ!」
俺が焦って言い返すと、
「冗談だって。私も日野君だけとは恋バナできないなぁ」
眩しい物を見るように彼女は視線を向けるとそう呟くのだった。
「ここが……目的地?」
「うん、そうだよ」
俺たちの目の前には大型リゾート施設がある。
プールや温泉などの施設が充実していて宿泊もできるという地元では有名なレジャー施設だ。
「えっ? だって遊びにって……」
友達同士の付き合いということで、カラオケに行ったり軽くウインドショッピングをしたりカフェでお茶をしたりを想定していたのだが、これは予想外だった。
「うん、だからここで遊ぶんだよ」
彼女の言葉に俺は困惑する。ここはデートスポットとしても有名で、男女2人でここに来るということは周囲からそういう目で見られてしまうからだ。
「俺水着持ってないし……」
突然プールに連れてこられても準備ができていない。俺は白石さんに断るための口実を持ち出したのだが……。
「日野君の水着ならそこに入ってるから」
指さしたのは俺が持っている手提げ袋だ。中を改めるとビニールに包まれたトランクスタイプの水着とバスタオルが入っている。
「誠二君が買って使ってなかったやつだから安心してね」
用意周到とはこのこと。逃げ道が段々と塞がれていくのがわかる。
彼女は手提げ袋から2枚のチケットを取り出して見せる。
「実はここの無料入場券を2枚貰ってるんだけど、一緒に行く相手がいなかったの。日野君が断ったら1人で入ることになっちゃうんだけどなー」
わざとらしい棒読みに甘えるような表情を作って俺を見つめてくる。
その姿に脳の回転が鈍った俺は、
「わ、わかった。付き合うよ……」
それだけを何とか絞り出すと……。
「それじゃ、行こうか!」
彼女に手を引かれると施設へと入るのだった。




